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めちゃくちゃ良いじゃない!?
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ハイブランドやレコードショップ、それに飲食店などが肩を並べる中、屋上はデカい公園という独特の構造をしている宮下パーク。
俺たちは端っこにポツンと設置されているエスカレーターを登り、最上階の宮下公園に到着した。
ビルに囲まれた空の下には人工芝と散歩道、スケートボードの音が響く自由な空間。
いくつか並んでいるベンチのほとんどにはカップルや、イヤホンで音楽を聴きながら空を見上げる女の子が。
同じ空間にいながら、誰もが他人には見えない閉鎖的な物語を生きている。
「カップルが多いなぁ」
「あら、私たちだって他の人からは恋人同士に見えてるのよ?」
そう言うと、先輩はいつものように腕を組んでくる――かと思えば、手持ち無沙汰だった俺の手に、自分の手を重ねてきた。
氷のように冷たく、しかし心が落ち着く柔らかい感触。
俺が何も言えないでいると、細い指の一本一本が俺のそれと絡み合ってくる。
「……あ、あそこが空いてるわね」
俺の心音など知らないと言いたげに、誰も座っていないベンチを見つけた先輩は腕を引く。
二人で腰を下ろしてもなお、その手が離されることはなかった。
「……ふぅ。疲れてないかしら?」
「大丈夫。飲み物でも買ってこようか?」
「ううん、平気よ。悟こそ喉が――」
そこまで言って先輩の言葉が止まる。
「……やっぱり喉が渇いたから買ってくるわね」
「それなら俺が――」
「いいの私がいくから。それより、悟も何か飲んだほうがいいわね」
「いや、俺はぜんぜん――」
「まだ涼しいとはいえ脱水症状を甘く見てはいけないのよ!? いいから飲みたいものを教えなさい!」
「えぇ……じゃあサイダーで」
荒波のような怒涛の勢いで押し切ると、先輩はさっさと立ち上がり去っていった。
俺の座っている場所からだと何処に自販機があるか分からないが、彼女は知っているようだ。
帰ってくるまでの間、少しだけ休ませてもらうことにしよう。
・
自販機の前に着いた私は、悟くんから自分が見えないか念入りに確認した後、胸に手を置いた。
誰かが隣にいたら聞こえてしまうんじゃないかというくらい、心臓が強く鳴り響いている。
(ど、どどどどどうすれば……)
もちろん理解している。
私は葉音と悟くんのために、あくまで教える立場だということ。
昨日の夜、立場を悪用するのは最後にしようと決めたことも。
でも――きっと恋は矛盾よりも強い。
彼の隣にいるだけで冷静な自分が消え去ってしまう。
違う自分にコントロールされているのではないかと思ってしまうほどに。
今、どうして自分が狼狽えているのかというと、それは――
(――これってキスができるんじゃないかしら!?)
宮下公園はカップルの聖地と言ってもいい場所……とSNSに書いてあった。
撮影で昼間に来たことはあったが、まさか夜がこんな、こんな良い雰囲気だとは。
腕を組むのは大丈夫だった。
かなり攻めたと思った手を繋ぐのも。
なら、これはもしかして……?
そう思うと、途端に怖くなってきた。
(私、口臭とか大丈夫よね!?)
気をつけてはいるけれど、好きな人とするのに万全はない。
しかも、悟くんは違うけど、私は初めてなのだ。
あぁそうだ、悟くんは葉音とキスしてるんだから、比べることができてしまう。
私は期待外れだなとか嫌だと思われたらどうしよう。
自分だって美しいという自負はあっても、葉音みたいな完全無欠の美少女とのキスなんて、それはもう天国のような気分のはず。
(え、何を買ってきてほしいって言ってた? サイダー? サイダー!?)
初めてのキスの味はずっと覚えていると聞いたことがある。
ということは、私の記憶に刻まれるのはサイダーの味。
(めちゃくちゃ良いじゃない!?)
これから一生サイダーしか飲まないようにしよう。
自販機にも売り切れてないし、早く買って戻らないと怪しまれてしまう。
(……これで最後にするから、神様。今回はだけは許してください)
空に向けて強く祈ると、私は投入口に百円玉を入れた。
・
十分くらい経った気がする。
未だに帰ってこない先輩を探しに行こうかと思った時、向こうから歩いてくるのが見えた。
手にはサイダーのペットボトルが握られている。
「ごめん、遠かった?」
「い、いや? ぜんぜん近かったわよ?」
そこそこ時間がかかっていたようだし、手間をかけさせてしまったかもしれない。
だから謝ろうと思ったのだが、彼女は挙動不審気味に否定した。
「そ、その……私も喉が渇いているから、先に飲んでも良いかしら」
「買ってくれたのは涼ちゃんなんだし、いくらでも」
先輩は俺の隣に座ると、危なっかしい手つきでサイダーを飲む。
よっぽど水分に飢えていたのか、ゴクゴクと音を鳴らして半分ほど飲んでいた。
「の、飲みすぎてしまったわね……残りはぜんぶ悟が飲んでいいからね」
「ありがとう」
ペットボトルを受け取る。
回し飲みするタイプなんだ、という驚きは丸めて捨て、口をつける。
爽やかな甘さと炭酸が口内を駆け巡り、一日の疲れが軽減されていく。
「……たまに飲むサイダーって美味しいよな」
「そうねその通りだと思うわ」
飲んでいる時、やけに先輩に見られていた感覚があるが気のせいだろう。
俺たちは端っこにポツンと設置されているエスカレーターを登り、最上階の宮下公園に到着した。
ビルに囲まれた空の下には人工芝と散歩道、スケートボードの音が響く自由な空間。
いくつか並んでいるベンチのほとんどにはカップルや、イヤホンで音楽を聴きながら空を見上げる女の子が。
同じ空間にいながら、誰もが他人には見えない閉鎖的な物語を生きている。
「カップルが多いなぁ」
「あら、私たちだって他の人からは恋人同士に見えてるのよ?」
そう言うと、先輩はいつものように腕を組んでくる――かと思えば、手持ち無沙汰だった俺の手に、自分の手を重ねてきた。
氷のように冷たく、しかし心が落ち着く柔らかい感触。
俺が何も言えないでいると、細い指の一本一本が俺のそれと絡み合ってくる。
「……あ、あそこが空いてるわね」
俺の心音など知らないと言いたげに、誰も座っていないベンチを見つけた先輩は腕を引く。
二人で腰を下ろしてもなお、その手が離されることはなかった。
「……ふぅ。疲れてないかしら?」
「大丈夫。飲み物でも買ってこようか?」
「ううん、平気よ。悟こそ喉が――」
そこまで言って先輩の言葉が止まる。
「……やっぱり喉が渇いたから買ってくるわね」
「それなら俺が――」
「いいの私がいくから。それより、悟も何か飲んだほうがいいわね」
「いや、俺はぜんぜん――」
「まだ涼しいとはいえ脱水症状を甘く見てはいけないのよ!? いいから飲みたいものを教えなさい!」
「えぇ……じゃあサイダーで」
荒波のような怒涛の勢いで押し切ると、先輩はさっさと立ち上がり去っていった。
俺の座っている場所からだと何処に自販機があるか分からないが、彼女は知っているようだ。
帰ってくるまでの間、少しだけ休ませてもらうことにしよう。
・
自販機の前に着いた私は、悟くんから自分が見えないか念入りに確認した後、胸に手を置いた。
誰かが隣にいたら聞こえてしまうんじゃないかというくらい、心臓が強く鳴り響いている。
(ど、どどどどどうすれば……)
もちろん理解している。
私は葉音と悟くんのために、あくまで教える立場だということ。
昨日の夜、立場を悪用するのは最後にしようと決めたことも。
でも――きっと恋は矛盾よりも強い。
彼の隣にいるだけで冷静な自分が消え去ってしまう。
違う自分にコントロールされているのではないかと思ってしまうほどに。
今、どうして自分が狼狽えているのかというと、それは――
(――これってキスができるんじゃないかしら!?)
宮下公園はカップルの聖地と言ってもいい場所……とSNSに書いてあった。
撮影で昼間に来たことはあったが、まさか夜がこんな、こんな良い雰囲気だとは。
腕を組むのは大丈夫だった。
かなり攻めたと思った手を繋ぐのも。
なら、これはもしかして……?
そう思うと、途端に怖くなってきた。
(私、口臭とか大丈夫よね!?)
気をつけてはいるけれど、好きな人とするのに万全はない。
しかも、悟くんは違うけど、私は初めてなのだ。
あぁそうだ、悟くんは葉音とキスしてるんだから、比べることができてしまう。
私は期待外れだなとか嫌だと思われたらどうしよう。
自分だって美しいという自負はあっても、葉音みたいな完全無欠の美少女とのキスなんて、それはもう天国のような気分のはず。
(え、何を買ってきてほしいって言ってた? サイダー? サイダー!?)
初めてのキスの味はずっと覚えていると聞いたことがある。
ということは、私の記憶に刻まれるのはサイダーの味。
(めちゃくちゃ良いじゃない!?)
これから一生サイダーしか飲まないようにしよう。
自販機にも売り切れてないし、早く買って戻らないと怪しまれてしまう。
(……これで最後にするから、神様。今回はだけは許してください)
空に向けて強く祈ると、私は投入口に百円玉を入れた。
・
十分くらい経った気がする。
未だに帰ってこない先輩を探しに行こうかと思った時、向こうから歩いてくるのが見えた。
手にはサイダーのペットボトルが握られている。
「ごめん、遠かった?」
「い、いや? ぜんぜん近かったわよ?」
そこそこ時間がかかっていたようだし、手間をかけさせてしまったかもしれない。
だから謝ろうと思ったのだが、彼女は挙動不審気味に否定した。
「そ、その……私も喉が渇いているから、先に飲んでも良いかしら」
「買ってくれたのは涼ちゃんなんだし、いくらでも」
先輩は俺の隣に座ると、危なっかしい手つきでサイダーを飲む。
よっぽど水分に飢えていたのか、ゴクゴクと音を鳴らして半分ほど飲んでいた。
「の、飲みすぎてしまったわね……残りはぜんぶ悟が飲んでいいからね」
「ありがとう」
ペットボトルを受け取る。
回し飲みするタイプなんだ、という驚きは丸めて捨て、口をつける。
爽やかな甘さと炭酸が口内を駆け巡り、一日の疲れが軽減されていく。
「……たまに飲むサイダーって美味しいよな」
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飲んでいる時、やけに先輩に見られていた感覚があるが気のせいだろう。
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