距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚

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手を伸ばせば

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 ――どうして?

 とは、もはや問うまでもなかった。
 バチが当たったのだ。

 親友の恋人に手を出して、少しでも彼の目に自分が写っているのが嬉しくて、舞い上がってしまっていた。

 自分を律しなければならないのに、次が最後、次が最後と引き延ばしていって。
 今回で本当に終わらせようと思っていたとは、もう言い訳にしかならないだろう。

 それが分かっているから、きっと神様は私に罰を与えたんだろう。

 こうして涙を流すのは――あの日以来だ。

 そんなに昔のことではない。
 一ヶ月も経っていないだろう。
 むしろ、高校生三年生にもなって高頻度すぎる。

 なぜ悟くんの前から逃げ出してしまったのか。
 手に入りそうになっていた物が遠かったからか、逃げるための言葉にしかけていた罪悪感からか、別の何かのためか。

 もう何もかもが分からなくなっていた。
 いよいよ自分が自分の手から離れてしまった。

 宮下パークを出て、私はどこへ向かっているのか。
 分からないし、どうでも良くなっていた。

 だって、私にはもう何もないのだから。
 葉音を裏切ったのは自分で、悟くんに拒否されたのも自分。
 全て自らが招いたこと。

 このままどうなったって――

「――やめてください!」

 立ち止まった。
 私の涙を薄れさせる渋谷の喧騒の中で、声が聞こえた。

 女の子の声だ。
 普段は落ち着いている子が必死に出したような、助けを求める声。

 私は周囲に目を向ける。
 おそらく、そんなに遠いところではない。
 大通りから一本裏に入ったところに、声の主はいた。

「は、話してください……!」

 街灯の光を吸収して、自ら輝いているかのような美しい金髪。
 私と同じ制服を着ているだけじゃない。
 どこかで見たことのある女の子が数人の男に言い寄られている。
 男の中には、この前私に声をかけてきたナンパ男も混じっていた。

 どうにかして助けないと。助け――

「……なんだ。まだ残ってたじゃない」

 心臓を蝕んでいた痛みがなくなっていた。
 気付いたからだ。

 外の繋がりを自業自得で無くしてしまったとしても、私にはまだ大切なものがある。

 彼にかけてもらった言葉だ。
 私が勝手に受け継いだ思いにだけは背くわけにはいかない。

 一度だけ深呼吸して気持ちを入れ替える。
 涙が引っ込み、勇気が湧いてきた。

 今にも女の子を汚しそうな男たちに向かって、私は声をかけた。

 ・

「――なんでどこにもいないんだよ」

 先輩を追いかけてきたものの、宮下パークを出たあたりで見失ってしまった。
 俺も全力で走ったんだけどな。
 運動神経が酷かった覚えはないが、先輩はどこにも見えない。

(こういう時は論理的に考えるしかない)

 頭の中で情報を整理する。
 理由は不明だが、先輩は涙を流している。
 涙を流しているということは、感情が爆発しているということだ。

 そんな状態で、果たして横断歩道を渡る選択肢があるか?
 俺から離れることが目的だったり、どこか遠くに行きたいなら、止まる時間は勘定に入らないはず。

 であれば、宮下パークを出て道なりに進むか、信号待ちのない横断歩道を使うはず。
 出口の方向からいえば正面か、高架下方向へ進むしかない。

 高架下の方へ進むと駅に向かうことになり、人が大勢いる。
 自分の泣き姿を人に見られたいなんていう趣味は、先輩にはない気がする。

 であればまっすぐ進むのが安牌。
 直線を行けば原宿に辿り着くが、そこそこの距離があるし、裏道は静かだ。
 気持ちを落ち着けるには丁度いいはず。

「……よし、とりあえず行くぞ」

 ある程度進んだところで、裏道から声が聞こえてきた。
 泣いているわけではない。
 しかし、カップルの喧嘩という雰囲気でもないため確認しに行ってみると、そこには東堂先輩と――天王洲セラがいた。

 男たちに取り囲まれている二人。
 すぐに出て行こうとするが、一旦冷静になる。

「この子だけでもいいから帰しなさい!」
「はぁ~? なんでエロい女子高生が二人もいんのに帰すんだよ」
「えっろい足してんねぇ舐めていい?」
「ぶっ! お前キモすぎだって!」

 完全に自分達が有利だと思っている男たち。
 俺はスマホを取り出し、操作しながら考える。

(警察に通報がいいよな。ただ、事情を説明するのに時間が……)

 電話しながら出ていくか?
 いや、バレてとられたらおしまいだ。
 悩んでいる間にも、男たちは乱暴に二人の肩を抱こうとする。

「だいたいさぁ、君はこの子の友達なの? たぶん違うよね。じゃあどうして助けに来ちゃったの? 俺らに犯されるだけなのに」
「どうして?」

 先輩の力強い眼光が男の一人を射抜き、後退りさせる。
 彼女の目は言っていた。この場を切り抜ける方法は分からなくても、その答えは知っていると。

「そんなの――手を伸ばせば助けられるかもしれないからよ」

 男たちが笑う。クサすぎる言葉だと。
 しかし、俺の頭は先輩の言葉をすんなり受け入れていた。

 覚悟もできた。
 ミスったらボコボコにされるだろうが、その時は二人だけでも逃がしてやろう。

(死にはしないだろ。鍛えてるんでね)

 自分に言い聞かせるようにして、俺は男の一人に飛び蹴りをかました。
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