距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚

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混乱

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 話にならない状態、というのは巻島のことではなく、石像のように固まってしまった俺と東堂先輩のことだ。
 巻島は俺を見て、先輩を見て、もう一度俺に目を向ける。

「悟くんが涼を泣かせたの?」

 なんて返せばいいのか分からなかった。
 泣かせたのは俺だと思うが、その理由に確証がない。
 
「ち、違うの葉音。彼はなにも悪くないの。私が原因で……」

 先輩がフォローを入れてくれる。
 それを聞いて巻島は「うん」と呟いた。

「なら良かった。これで安心して聞けるね」

 安心の意図を問うこともできず、巻島は俺の前まで歩いてきて――通り過ぎた。
 先輩の正面に立ち、視線で刺す。

「どうして見つけられなかったんだろうね。こんなに分かりやすいヒントが転がってたのに。涼が僕にモデルの仕事を声かけしてくれたのって、悟くんに近付くためでしょ?」

 どういうことだ?
 巻島は俺と先輩が一緒にいること嫉妬しているからか、突飛な推理を披露している。

「それは……もちろん全てそういう意味では、なくて……」
 
 先輩も先輩で、笑顔の毛色が違う巻島に圧倒されているのか、否定することができない。

「すごく歯切れが悪いね? 涼のそういうところ初めて見たかも。僕の大切な人に手を出そうとするのもね」

 どこが怖いって、淡々と追い詰めるのではなく抑揚を出しているところだろう。
 デスゲームものの狂人枠のような話し方になっている。

 先輩は俺と巻島のために頑張ってくれただけだし、このままでは二人の友情に亀裂が入ってしまう。
 俺が誤解を解かなければならない。

「な、なぁ葉音」
「なぁに悟くんっ! 大丈夫だよ、悟くんは涼に惑わされちゃってるだけ。涼ったら酷いよね。いくら綺麗だからって、僕が好きで好きで好きで好きで大好きな悟くんに――」
「違うんだよ、涼ちゃ――先輩は俺と葉音のために――」
「……涼ちゃん?」

 脳内で天使と悪魔が天を仰いでいる。
 七里ヶ浜悟よ、お前は大切なところでいつも無駄なことを言う。

「いや、あの、そうじゃなくてだな」
「涼ちゃん? 僕が何回もお願いしてやっと名前で呼んでくれるようになったのに、涼のことはすぐに呼んじゃうの?」
 
「これは友好の――」
「分かってるよ悟くん。悟くんは女の子に好かれるもん、たまには僕以外の子に目移りしそうになっちゃうよね」

「ま、目移りなんてしてない。ただ俺は彼女に――」
「………………え?」

 巻島の余裕そうな笑み――おそらくそう振る舞っているだけだろうが――が消える。

「――そうなんだ。もう悟くん、涼に、取られちゃったんだ……」

 巻島の目に涙が浮かんだ時、俺は自らの失言を理解した。
 彼女の元へ駆け寄り、肩に手を置いて急いで弁解する。

「そうじゃなくて! 今のは東堂先輩を呼んだだけだから!」
「……ほんと? 悟くんが涼と付き合ってるわけじゃないの?」
「そうだよ!」

 頭をブンブン振って誤解をこうとすると、先輩も助け舟を入れてくれる。

「そうよ! だって七里ヶ浜くんとは、葉音が付き合ってるんでしょ?」
「僕と悟くんが……どういうこと?」

 先輩は俺と巻島が付き合っていると思っているし、巻島は俺と先輩が付き合っていると思いかけ、違うと理解した。
 もうめちゃくちゃである。

 俺たちを裁く立場にある巻島も混乱しているようで、未だに凄まじい圧を放ちながら言った。

「とりあえず、ウチに来て説明してくれるよね?」
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