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決壊
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「おじゃまします……」
巻島の家に来るのはこれで二度目だったが、前回は体調の悪い彼女を助けるために、今回は裁かれるために。立場が大違いだ。
「お、おじゃまします……」
先輩も居心地が悪そうだ。
だが、足取りの淀みのなさは、彼女が以前にもここに訪れていることを示している。
「二人とも、好きなところに座ってね。あ、もちろん隣同士に座るのはダメだからっ」
巻島は偽笑顔を貼り付けたまま、俺たちに着席を促す。
俺が近場にあったソファに腰を下ろすと、先輩は蛇に睨まれたカエルだと言わんばかりに床に正座した。
「悟くんはちょっとだけ待っててね。それじゃあ、最初から全部聞かせてもらおうかな。どうして涼が悟くんとデートしてるの?」
「……悟が葉音を幸せにできるか心配になって」
「その呼び方やめようね?」
「――っ」
言葉の一つ一つを拾い上げられて丁寧に検査される。
巻島に詰められるのがこんなに恐ろしいとは思わなかった。
「できれば否定してほしいけど、悟くんと二人っきりでデートするのは今日が初めてじゃないよね?」
「……そうよ。今日が二回目なの」
「一回目は何をしたのかな?」
「お、お昼に集合して、渋谷のカフェに行ってから――」
「服を買ったんだよね?」
隆輝の読み通り、既に巻島にはバレていたのだ。
「悟くんが選ばない服だってことくらい、すぐに分かったよ。僕はずっとずっと悟くんの事が好きだったんだから」
「――ッ」
「涼もズルいよね。僕も悟くんにプレゼントしたかったのに。自分が買ったものを着てくれるって、嬉しいもんね?」
黙って言われるがままにされている先輩だが、少しずつ内面に澱のようなものが溜まっているように見える。
「時間的に一日目は終わりかな。今日はなにをしてたの? 渋谷で涼の目撃情報があったから来てみたけど、まさかあんな裏路地にいるとは思わなかったよ」
「あの時は、私が天王洲さんが絡まれているのを見つけて……七里ヶ浜くんが追い払ってくれたの」
「…………そう。それは嘘じゃなさそうだね」
真偽の判断をどこでつけているのか、巻島は納得の色を浮かべる。
「でも、放課後から夜までは時間があるよね。なにしてたの?」
「……プラネタリウムに行っていたわ」
「なるほどね。僕のレッスン中に悟くんに接触して、『葉音のため』っていう口実でデートしたわけだ」
「し、心配していたのは本当で……」
先輩の言葉は、「そうだとしても」という巻島のジャブの前に沈黙する。
「そもそも僕のことを心配してくれてるなら、いつも通りの涼なら三人で集まるっていう考えになると思うの。この時点で僕の中では黒なんだよね」
「……葉音の言う通りよ。ごめんなさい……」
詰めに詰められている先輩。
巻島の勢いは衰えるところを知らない。
「まだ終わらないよ? 僕が一番気になってるのは、どうして涼が悟くんに執着するかなの」
「私も、七里ヶ浜くんの事が……」
「これまで良く思ってなかったのに? それは無理があるんじゃないかと思うんだけど。たとえ涼の言葉が真実だとしても、僕の方が先に好きだったんだから、身を引くっていう選択をとる。涼への理解は間違ってないよね」
先輩の返事が良く聞こえないが、火に油を注ぐようなことを言ったのか。
しかし、事態はここから思わぬ方向へと逸れていく。
「だから教えて? 僕に遠慮なんてしなくていいから、悟くんのどこが好きなのか」
「でも……」
ぐっと堪えるような表情。
だが、その堤防はもう決壊寸前だった。
「それとも言えない理由があるの? 気にしなくていいから教えてほしいな」
「わ、私は……」
「言えないなら僕から悟くんを取らないで。涼のことだって大切だけど、僕にとって悟くんは――」
「――――私も悟に助けられたのっ!」
感情を留められなくなった堤防は、怒りや涙の代わりに一つの言葉を吐き出した。
巻島の家に来るのはこれで二度目だったが、前回は体調の悪い彼女を助けるために、今回は裁かれるために。立場が大違いだ。
「お、おじゃまします……」
先輩も居心地が悪そうだ。
だが、足取りの淀みのなさは、彼女が以前にもここに訪れていることを示している。
「二人とも、好きなところに座ってね。あ、もちろん隣同士に座るのはダメだからっ」
巻島は偽笑顔を貼り付けたまま、俺たちに着席を促す。
俺が近場にあったソファに腰を下ろすと、先輩は蛇に睨まれたカエルだと言わんばかりに床に正座した。
「悟くんはちょっとだけ待っててね。それじゃあ、最初から全部聞かせてもらおうかな。どうして涼が悟くんとデートしてるの?」
「……悟が葉音を幸せにできるか心配になって」
「その呼び方やめようね?」
「――っ」
言葉の一つ一つを拾い上げられて丁寧に検査される。
巻島に詰められるのがこんなに恐ろしいとは思わなかった。
「できれば否定してほしいけど、悟くんと二人っきりでデートするのは今日が初めてじゃないよね?」
「……そうよ。今日が二回目なの」
「一回目は何をしたのかな?」
「お、お昼に集合して、渋谷のカフェに行ってから――」
「服を買ったんだよね?」
隆輝の読み通り、既に巻島にはバレていたのだ。
「悟くんが選ばない服だってことくらい、すぐに分かったよ。僕はずっとずっと悟くんの事が好きだったんだから」
「――ッ」
「涼もズルいよね。僕も悟くんにプレゼントしたかったのに。自分が買ったものを着てくれるって、嬉しいもんね?」
黙って言われるがままにされている先輩だが、少しずつ内面に澱のようなものが溜まっているように見える。
「時間的に一日目は終わりかな。今日はなにをしてたの? 渋谷で涼の目撃情報があったから来てみたけど、まさかあんな裏路地にいるとは思わなかったよ」
「あの時は、私が天王洲さんが絡まれているのを見つけて……七里ヶ浜くんが追い払ってくれたの」
「…………そう。それは嘘じゃなさそうだね」
真偽の判断をどこでつけているのか、巻島は納得の色を浮かべる。
「でも、放課後から夜までは時間があるよね。なにしてたの?」
「……プラネタリウムに行っていたわ」
「なるほどね。僕のレッスン中に悟くんに接触して、『葉音のため』っていう口実でデートしたわけだ」
「し、心配していたのは本当で……」
先輩の言葉は、「そうだとしても」という巻島のジャブの前に沈黙する。
「そもそも僕のことを心配してくれてるなら、いつも通りの涼なら三人で集まるっていう考えになると思うの。この時点で僕の中では黒なんだよね」
「……葉音の言う通りよ。ごめんなさい……」
詰めに詰められている先輩。
巻島の勢いは衰えるところを知らない。
「まだ終わらないよ? 僕が一番気になってるのは、どうして涼が悟くんに執着するかなの」
「私も、七里ヶ浜くんの事が……」
「これまで良く思ってなかったのに? それは無理があるんじゃないかと思うんだけど。たとえ涼の言葉が真実だとしても、僕の方が先に好きだったんだから、身を引くっていう選択をとる。涼への理解は間違ってないよね」
先輩の返事が良く聞こえないが、火に油を注ぐようなことを言ったのか。
しかし、事態はここから思わぬ方向へと逸れていく。
「だから教えて? 僕に遠慮なんてしなくていいから、悟くんのどこが好きなのか」
「でも……」
ぐっと堪えるような表情。
だが、その堤防はもう決壊寸前だった。
「それとも言えない理由があるの? 気にしなくていいから教えてほしいな」
「わ、私は……」
「言えないなら僕から悟くんを取らないで。涼のことだって大切だけど、僕にとって悟くんは――」
「――――私も悟に助けられたのっ!」
感情を留められなくなった堤防は、怒りや涙の代わりに一つの言葉を吐き出した。
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