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やっっっっっっっったっ!
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理解ができず「はぇ?」と情けない声をあげたのは、俺だけでなく巻島もだ。
「なにを言ってるの……?」
「葉音が悟に迎えに来てもらったあの日、彼の言葉を聞いて、私は思い出したのよ」
彼女の言う「あの日」を明確に思いだすことはできる。
しかし「思いだす」とはなんなのか。
先輩はぽつりぽつりと、時に苦しそうに、時に幸せそうにこれまでの経緯を語ってくれた。
「――これが私の全て。悟に対する想いの全てよ」
俺も巻島も口を開けていたが、言葉を紡ぐ事ができない。
彼女の口から語られたのが衝撃的に過ぎる内容だったからだ。
巻島を助けたあの日、俺は先輩のことも救っていたのか?
そしてもう一つ、いま巻島が絶望にも似た顔をしている理由だ。
彼女は先輩に対して「僕の方が先に好きだった」と言っていたが、日付という視点では同じ。
時間まで細かく見ても、実は優劣がつけられない。
巻島の記憶を信じるならば、流れ出た血で巻島は俺の顔を確認できず、それは先輩の記憶も同様。
つまり、俺がどちらを先に助けていても辻褄が合ってしまうのだ。
「先に好きになった方が正義」という理論を採用してしまうなら、もしかすると悪になるのは巻島の方かもしれない。
着眼点は同じなのだろう。
巻島は震える唇で、どうにか声を発する。
「……涼が守ってくれたから、僕は悟くんが好きな人だって気付けた。でも、そのせいで――」
「違うわ! 私は正しいと思ったからやったの。それで悟と距離が離れたとしても、それはあなたのせいなんかじゃない。私は……後悔していないわ」
急速に空気が変わっていく。
責める側が責められる側にまわり、責められる側が擁護する側へとまわる。
確かなのは、巻島の怒りは針を刺された風船のように萎んだということ。
「だから気にしないで。葉音、あなたの邪魔をしてしまって本当にごめんなさい」
「涼……」
先ほどまで険悪だった二人は互いを抱きしめ合い、涙を流している。
やがて泣き止むと、先輩は背筋を伸ばして俺を見る?
「……悟もごめんなさい。あなたが私のことを嫌いなのは分かっていたけれど、どうしても最後に、記憶に残りたかった。思い出を残したかった」
「涼ちゃん……」
「……でも、もうそれも終わり」
そう言うと、先輩は優しく微笑んだ。
「私はあなたの前から消えることにするわ。葉音のこと、幸せにしてね」
諦めというには美しすぎて、決意というには儚すぎた。
先輩はずっと悩んでいたのだ。
自分の気持ちと友情の板挟みにあい、矛盾に壊されかけていた。
だが、それもようやく終わりを告げた。
彼女は自分の心に決着を付けた。
俺に言えることはない。
俺にできることはない。
他人の決断を変えることはできない。
だというのに……俺という人間はどうにも空気が読めない。
「そもそも俺、記憶喪失で涼ちゃんを助けたことを覚えてないし、むしろ嫌われてると思ってたんだけど……」
「――――――なんですって?」
「あの……僕からも言わなきゃいけない事があって」
巻島も会話に参戦してくる。
「……まだ僕と悟くんは付き合ってないよ。僕がアタックしてる途中なの」
「――――――なんですって?」
「あ、それも言わなきゃと思ってたんだけど、先輩が葉音のことを考えての行動だから、水を刺すのも野暮かと思って……」
「――――――なんですって?」
先輩がなんですってbotになってしまった。
「僕としては、悟くんを誰かに奪われるつもりはないけど、選ぶのは悟くんだし、涼がアプローチをかけるのを止める資格はないと思う」
「えっ……えっ!? えっ!?」
かなり動揺しているようでキャラがぶっ壊れている。
「……葉音と悟って、付き合ってないの!?」
あ、まだそこなんだ。
巻島が苦笑しながら「そうだよ」と頷くと、先輩は急に俯いてしまう。
「涼ちゃんどうし――」
「――や、やっっっっっっっったっ!」
清々しいまでのガッツポーズ。
世界大会に優勝したくらいの熱である。
「じゃあ、これからはライバルとして悟に、あんなことやそんなことをして……いいわけ!?」
「あはは……それはそう、なん、だけど……」
歯切れが悪くなる巻島。
彼女は言葉の続きを述べず、真顔で数十秒の思考を経て、テーブルの上に置いていた自分のスマホを手に取る。
俺たちの目の前でそれを操作し、耳に当てた。
「……あ、もしもしサクラちゃん? 今日さ、この前話してた『リヴェンジャーズ』観ない?」
俺は先輩と顔を見合わせる。
「……ほんと? じゃあこれから行くねっ!」
巻島はテンション高めに通話を切った。
「それじゃあ僕、これから出かけるから。悟くん、寂しいと思うけど許してね?」
「お、おぉ……?」
そのままテキパキと荷物をまとめ始める姿に、先輩が歩み寄る。
「ちょ、ちょっと待って葉音。どういうことなの?」
「……こうするのは本当に悔しいけど、僕は涼とは対等に戦いたいんだよね。だから今日だけはいいの」
振り返った巻島はただならぬ覚悟を感じる。
そして、動揺を隠しきれない先輩の耳元で何かを囁く。
ここからでは聞こえないが、先輩の目が納得へ染まるのが見えた。
「どうかな?」
「……分かったわ。その時は、そうしましょう」
「うんっ! それじゃあ明日の朝に帰ってくるから、留守番よろしくね!」
俺を置いてどんどん話が進んでいく。
さすがに今のままでは腑に落ちないため、玄関へと向かう巻島を追いかけた。
「なぁ葉音、どういうことだよ?」
巻島の手を握って振り向かせると、彼女は勢いよく俺の胸に飛び込んでくる。
「……悟くん、だいすきだよ?」
「うん……?」
「僕が一番悟くんを幸せにできるし、後悔させないから。でも、今日は帰らないでね?」
「帰らないでって、明日は学校があるだろ?」
「安心して、ちゃんと間に合うようにするから。ウチから通ってもいいしね」
そんなのすっぱ抜かれたらどうするんだよ、という問いを投げる前に、巻島は俺に一度だけキスをする。
そして、俺の頬を撫でながら――
「――後で僕で上書きするんだから」
扉が閉まる音で、俺は正気を取り戻した。
「なにを言ってるの……?」
「葉音が悟に迎えに来てもらったあの日、彼の言葉を聞いて、私は思い出したのよ」
彼女の言う「あの日」を明確に思いだすことはできる。
しかし「思いだす」とはなんなのか。
先輩はぽつりぽつりと、時に苦しそうに、時に幸せそうにこれまでの経緯を語ってくれた。
「――これが私の全て。悟に対する想いの全てよ」
俺も巻島も口を開けていたが、言葉を紡ぐ事ができない。
彼女の口から語られたのが衝撃的に過ぎる内容だったからだ。
巻島を助けたあの日、俺は先輩のことも救っていたのか?
そしてもう一つ、いま巻島が絶望にも似た顔をしている理由だ。
彼女は先輩に対して「僕の方が先に好きだった」と言っていたが、日付という視点では同じ。
時間まで細かく見ても、実は優劣がつけられない。
巻島の記憶を信じるならば、流れ出た血で巻島は俺の顔を確認できず、それは先輩の記憶も同様。
つまり、俺がどちらを先に助けていても辻褄が合ってしまうのだ。
「先に好きになった方が正義」という理論を採用してしまうなら、もしかすると悪になるのは巻島の方かもしれない。
着眼点は同じなのだろう。
巻島は震える唇で、どうにか声を発する。
「……涼が守ってくれたから、僕は悟くんが好きな人だって気付けた。でも、そのせいで――」
「違うわ! 私は正しいと思ったからやったの。それで悟と距離が離れたとしても、それはあなたのせいなんかじゃない。私は……後悔していないわ」
急速に空気が変わっていく。
責める側が責められる側にまわり、責められる側が擁護する側へとまわる。
確かなのは、巻島の怒りは針を刺された風船のように萎んだということ。
「だから気にしないで。葉音、あなたの邪魔をしてしまって本当にごめんなさい」
「涼……」
先ほどまで険悪だった二人は互いを抱きしめ合い、涙を流している。
やがて泣き止むと、先輩は背筋を伸ばして俺を見る?
「……悟もごめんなさい。あなたが私のことを嫌いなのは分かっていたけれど、どうしても最後に、記憶に残りたかった。思い出を残したかった」
「涼ちゃん……」
「……でも、もうそれも終わり」
そう言うと、先輩は優しく微笑んだ。
「私はあなたの前から消えることにするわ。葉音のこと、幸せにしてね」
諦めというには美しすぎて、決意というには儚すぎた。
先輩はずっと悩んでいたのだ。
自分の気持ちと友情の板挟みにあい、矛盾に壊されかけていた。
だが、それもようやく終わりを告げた。
彼女は自分の心に決着を付けた。
俺に言えることはない。
俺にできることはない。
他人の決断を変えることはできない。
だというのに……俺という人間はどうにも空気が読めない。
「そもそも俺、記憶喪失で涼ちゃんを助けたことを覚えてないし、むしろ嫌われてると思ってたんだけど……」
「――――――なんですって?」
「あの……僕からも言わなきゃいけない事があって」
巻島も会話に参戦してくる。
「……まだ僕と悟くんは付き合ってないよ。僕がアタックしてる途中なの」
「――――――なんですって?」
「あ、それも言わなきゃと思ってたんだけど、先輩が葉音のことを考えての行動だから、水を刺すのも野暮かと思って……」
「――――――なんですって?」
先輩がなんですってbotになってしまった。
「僕としては、悟くんを誰かに奪われるつもりはないけど、選ぶのは悟くんだし、涼がアプローチをかけるのを止める資格はないと思う」
「えっ……えっ!? えっ!?」
かなり動揺しているようでキャラがぶっ壊れている。
「……葉音と悟って、付き合ってないの!?」
あ、まだそこなんだ。
巻島が苦笑しながら「そうだよ」と頷くと、先輩は急に俯いてしまう。
「涼ちゃんどうし――」
「――や、やっっっっっっっったっ!」
清々しいまでのガッツポーズ。
世界大会に優勝したくらいの熱である。
「じゃあ、これからはライバルとして悟に、あんなことやそんなことをして……いいわけ!?」
「あはは……それはそう、なん、だけど……」
歯切れが悪くなる巻島。
彼女は言葉の続きを述べず、真顔で数十秒の思考を経て、テーブルの上に置いていた自分のスマホを手に取る。
俺たちの目の前でそれを操作し、耳に当てた。
「……あ、もしもしサクラちゃん? 今日さ、この前話してた『リヴェンジャーズ』観ない?」
俺は先輩と顔を見合わせる。
「……ほんと? じゃあこれから行くねっ!」
巻島はテンション高めに通話を切った。
「それじゃあ僕、これから出かけるから。悟くん、寂しいと思うけど許してね?」
「お、おぉ……?」
そのままテキパキと荷物をまとめ始める姿に、先輩が歩み寄る。
「ちょ、ちょっと待って葉音。どういうことなの?」
「……こうするのは本当に悔しいけど、僕は涼とは対等に戦いたいんだよね。だから今日だけはいいの」
振り返った巻島はただならぬ覚悟を感じる。
そして、動揺を隠しきれない先輩の耳元で何かを囁く。
ここからでは聞こえないが、先輩の目が納得へ染まるのが見えた。
「どうかな?」
「……分かったわ。その時は、そうしましょう」
「うんっ! それじゃあ明日の朝に帰ってくるから、留守番よろしくね!」
俺を置いてどんどん話が進んでいく。
さすがに今のままでは腑に落ちないため、玄関へと向かう巻島を追いかけた。
「なぁ葉音、どういうことだよ?」
巻島の手を握って振り向かせると、彼女は勢いよく俺の胸に飛び込んでくる。
「……悟くん、だいすきだよ?」
「うん……?」
「僕が一番悟くんを幸せにできるし、後悔させないから。でも、今日は帰らないでね?」
「帰らないでって、明日は学校があるだろ?」
「安心して、ちゃんと間に合うようにするから。ウチから通ってもいいしね」
そんなのすっぱ抜かれたらどうするんだよ、という問いを投げる前に、巻島は俺に一度だけキスをする。
そして、俺の頬を撫でながら――
「――後で僕で上書きするんだから」
扉が閉まる音で、俺は正気を取り戻した。
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