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お忍び映画
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本日の授業を全て終えたのち、俺は葉音と涼によって極秘に連れ出されていた。
極秘に、なんて格好付けてるように聞こえるかもしれないが、裏門で待ち合わせて、そのままスモーク張りの車に乗せられなのだから極秘以外の何物でもない。
「これまた厳重だな……と思ったけど、二人のことを考えたら当然か」
「悟ったら面白いことを言うのね」
至極真っ当な意見だと思うのだが、涼は俺に微笑みを向ける。
それは、自分の子供が小さな失敗をした時に向ける慈愛に満ちたものだった。
「そうよね葉音?」
「うん。僕たちは愛を見せつけたいくらい。でも、それで被害を受けちゃうのは悟くんだよ」
「もし悟に何かあったら……私たちは許せないもの。だから隠れて行くの」
歯の浮くようなセリフを真顔で言えるのは愛ゆえか、演技の練習でもしているのだろうか。
そう聞いてみたい気持ちもあったが、二人の目が笑っていないことに気付いて口を閉じた。
・
お忍びで向かうのだから、映画館も俺たちがいつも訪れる渋谷のものでないことくらい簡単に想像がつくはずだが、車から降りて初めて察した。
「ここは……」
「新宿だよ」
葉音が言う。その声は冷静で、続いて降車した涼も周囲の様子を伺っていない。
「二人は来たことがあるのか?」
「何回かね。ここはシアターを貸し切れるから、芸能人同士のデートにも使われるのよ」
「僕たちは同じグループの時によく来たよね」
「す、すごいな……」
貸切とかスケールが違いすぎる。
外観は映画館のようには見えず、使われていない倉庫のようにも感じたが、中に入ってみると、上品な内装が広がっていた。
「僕たちも最初はびっくりしたよね」
「葉音は上を見ながら歩いていたせいで、コケそうになっていたわよね」
「それは言わなくていいのっ!」
シャンデリアが吊り下げられているし、上に気を取られるのも納得だ。
芸能人が使うという性質上、店員さえも情報漏洩のリスクと考えられるのか、発券機が数台あるだけで館内は無人だ。
「ソーサラー・ナチュラル3でいいよね? 僕、予約してくるね」
葉音が発券機へと小走りで近づいて行く。
その姿を眺めていると、背後の扉が開く音が聞こえた。
「――でさ、監督がめっちゃキレててマジやばかった」
「あの人、いい噂聞かないよね。枕強要エグいらしいし」
俺のような一般人が聞いていい話ではない気がする。
心臓がギュッと締め付けられる感覚。
だが、声の主たちはこちらの存在など全く気にかけず、そのまま俺たちを追い抜いて行った。
「……なんか、二人とも見たことある気がするな」
「芸能界なんてそんなものよ。でも、その情報は基本的に外に漏れない。どうしてか分かる?」
「ええと……思いやり、じゃないよな」
「保身よ。自分が告げ口したって分かったら、やり返される。潔白な人なんて、この業界にほとんどいないもの」
その言葉に戦慄していると、涼は「私と葉音は悟以外に染められることはないけどね」と口にし、同時に葉音が戻ってきた。
「予約できたよ~……って、二人ともどうしたの?」
「さっき通りかかったのよ。川崎彗星が」
「あぁ……僕たちのグループの子も何人か食べられちゃったよね」
「本当、よくやるわよ」
学校という監視網を抜けた二人の会話はかなりディープだった。
俺は庶民の夢的なものを壊さないように、そっと耳を塞いでおく。
予約から貸切までのラグはほとんどなく、俺たちは十分後にはシアターに入ることができた。
使う人間が限られているのだから席数も少ないのかと思いきや、中身は普通の映画館――の中でもデカいシアター――と同じだ。
試写会とかやるのだろうか。
「どこ座ってもいいんだけど、悟くんが好きな席って一番後ろの真ん中だったよね?」
「そうだよ。よく覚えてたな」
「ふふん、僕が悟くんの情報を落とすわけないでしょ? 涼よりも知ってるんだから」
「どうかしらね。あなたが知らない事だって、この世にはたくさんあるのよ」
静寂に包まれたシアター内に、二人の視線がぶつかり合う音が聞こえてきそうだ。
俺たちが座る場所には、すでにポップコーンと飲み物が置かれていた。
「こんなところまで徹底されてるのか……」
「前に、ここで働いてる人がSNSに書いちゃって、大事になったらしいよ」
「怖い話がポンポン飛び出してくるな」
着席すると、俺の席に設置されているものを確認する。
まずは飲み物。砂糖不使用ではないコーラだ。
そしてポップコーンだが――
「やっぱりキャラメルが一番だよな……!」
「私は塩にしたわ」
「僕は抹茶だよー」
右に座る涼、左に座る葉音がそれぞれ言う。
キャラメルポップコーンは映画館によってコーティングに差があるが、ここのはとんでもない。キャラメルまみれだ。
葉音の抹茶もマリモみたいになっているし、涼の方は外見上の特徴はないが、塩加減が絶妙なのだろう。
二人のも少しもらおうと思いながら、俺は予告が流れるまでの時間を過ごすことにした。
極秘に、なんて格好付けてるように聞こえるかもしれないが、裏門で待ち合わせて、そのままスモーク張りの車に乗せられなのだから極秘以外の何物でもない。
「これまた厳重だな……と思ったけど、二人のことを考えたら当然か」
「悟ったら面白いことを言うのね」
至極真っ当な意見だと思うのだが、涼は俺に微笑みを向ける。
それは、自分の子供が小さな失敗をした時に向ける慈愛に満ちたものだった。
「そうよね葉音?」
「うん。僕たちは愛を見せつけたいくらい。でも、それで被害を受けちゃうのは悟くんだよ」
「もし悟に何かあったら……私たちは許せないもの。だから隠れて行くの」
歯の浮くようなセリフを真顔で言えるのは愛ゆえか、演技の練習でもしているのだろうか。
そう聞いてみたい気持ちもあったが、二人の目が笑っていないことに気付いて口を閉じた。
・
お忍びで向かうのだから、映画館も俺たちがいつも訪れる渋谷のものでないことくらい簡単に想像がつくはずだが、車から降りて初めて察した。
「ここは……」
「新宿だよ」
葉音が言う。その声は冷静で、続いて降車した涼も周囲の様子を伺っていない。
「二人は来たことがあるのか?」
「何回かね。ここはシアターを貸し切れるから、芸能人同士のデートにも使われるのよ」
「僕たちは同じグループの時によく来たよね」
「す、すごいな……」
貸切とかスケールが違いすぎる。
外観は映画館のようには見えず、使われていない倉庫のようにも感じたが、中に入ってみると、上品な内装が広がっていた。
「僕たちも最初はびっくりしたよね」
「葉音は上を見ながら歩いていたせいで、コケそうになっていたわよね」
「それは言わなくていいのっ!」
シャンデリアが吊り下げられているし、上に気を取られるのも納得だ。
芸能人が使うという性質上、店員さえも情報漏洩のリスクと考えられるのか、発券機が数台あるだけで館内は無人だ。
「ソーサラー・ナチュラル3でいいよね? 僕、予約してくるね」
葉音が発券機へと小走りで近づいて行く。
その姿を眺めていると、背後の扉が開く音が聞こえた。
「――でさ、監督がめっちゃキレててマジやばかった」
「あの人、いい噂聞かないよね。枕強要エグいらしいし」
俺のような一般人が聞いていい話ではない気がする。
心臓がギュッと締め付けられる感覚。
だが、声の主たちはこちらの存在など全く気にかけず、そのまま俺たちを追い抜いて行った。
「……なんか、二人とも見たことある気がするな」
「芸能界なんてそんなものよ。でも、その情報は基本的に外に漏れない。どうしてか分かる?」
「ええと……思いやり、じゃないよな」
「保身よ。自分が告げ口したって分かったら、やり返される。潔白な人なんて、この業界にほとんどいないもの」
その言葉に戦慄していると、涼は「私と葉音は悟以外に染められることはないけどね」と口にし、同時に葉音が戻ってきた。
「予約できたよ~……って、二人ともどうしたの?」
「さっき通りかかったのよ。川崎彗星が」
「あぁ……僕たちのグループの子も何人か食べられちゃったよね」
「本当、よくやるわよ」
学校という監視網を抜けた二人の会話はかなりディープだった。
俺は庶民の夢的なものを壊さないように、そっと耳を塞いでおく。
予約から貸切までのラグはほとんどなく、俺たちは十分後にはシアターに入ることができた。
使う人間が限られているのだから席数も少ないのかと思いきや、中身は普通の映画館――の中でもデカいシアター――と同じだ。
試写会とかやるのだろうか。
「どこ座ってもいいんだけど、悟くんが好きな席って一番後ろの真ん中だったよね?」
「そうだよ。よく覚えてたな」
「ふふん、僕が悟くんの情報を落とすわけないでしょ? 涼よりも知ってるんだから」
「どうかしらね。あなたが知らない事だって、この世にはたくさんあるのよ」
静寂に包まれたシアター内に、二人の視線がぶつかり合う音が聞こえてきそうだ。
俺たちが座る場所には、すでにポップコーンと飲み物が置かれていた。
「こんなところまで徹底されてるのか……」
「前に、ここで働いてる人がSNSに書いちゃって、大事になったらしいよ」
「怖い話がポンポン飛び出してくるな」
着席すると、俺の席に設置されているものを確認する。
まずは飲み物。砂糖不使用ではないコーラだ。
そしてポップコーンだが――
「やっぱりキャラメルが一番だよな……!」
「私は塩にしたわ」
「僕は抹茶だよー」
右に座る涼、左に座る葉音がそれぞれ言う。
キャラメルポップコーンは映画館によってコーティングに差があるが、ここのはとんでもない。キャラメルまみれだ。
葉音の抹茶もマリモみたいになっているし、涼の方は外見上の特徴はないが、塩加減が絶妙なのだろう。
二人のも少しもらおうと思いながら、俺は予告が流れるまでの時間を過ごすことにした。
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