愛が重いだけじゃ信用できませんか?

歩く魚

文字の大きさ
27 / 124
第1章 春と

しおりを挟む
「あのあと、最初の子ともちゃんと仲良くなれて、今度三人でバンド組むことになったんです! 二人とも、うちのサークルに入るって言ってくれて!」

 数日後。面倒な講義を終えて昼休み。
 KLの教場には、俺と静香、そして紫が集まっていた。
 嬉しそうに成果報告をする静香を見て、紫は頬を緩めている。

「良かったね。仲良くするんだよ?」
「はい! 紫先輩にも今度紹介しますね!」

 サークル移籍までしてくれるなんて、菜月は今のサークルに不満を持っていたのだろうか。
 いや、ただ単にこちらのサークルの方が楽しそうだと判断しただけか。
 大所帯だと人間関係にも苦労するし、少人数でワイワイやるのが楽しいのもわかる。
 逆に、少人数サークルで人間関係のもつれが起こると速攻で解散になるが。

「それじゃあ、友達作りの依頼は完了ってことで良い?」
「もちろんです。本当に、ありがとうございました!」

 深々と頭を下げられ、少し誇らしい気持ちになる。
 ちらりと紫の方へ視線をやると、彼女もこちらを見ていたようで、にこりと微笑んでいた。

「静香に古庵君のこと紹介して良かったみたいだね。友達二人もできちゃったし、大活躍じゃん。早速ブログに書くの?」
「……ブログ?」

 聞きなれない言葉に、思わず聞き返す。
 SNSが普及している時代にブログという言葉が出たからではない。
 あたかも俺がブログを運営しているかのような口振りだったからだ。

「ブログってなんのことだ?」
「ほら、『KL活動日誌』の事。最近アクセス数すごいよね」
「なんだそれ? そんなの知らないんだけど……」
「……え?」

 俺が呆けているのかと思ったのか、当たり前のように会話を続けていた紫。
 しかし、表情を見て本当にブログについて知らないと理解したようで、スマホを数秒ほど触り、画面を見せてきた。

「……おいおい、なんだこれ」

 画面には、彼女の言っていた通り『KL活動日誌』というブログ名が表示されていた。
 指でスマホ画面をスクロールすると、いくつかの記事が出てくる。
 レイアウト自体は簡素だったが、今年に入ってからの俺の活動、そして、その結果について事細かに記されていた。

「聞いた話によると、依頼をした生徒のところにメールが届いてアンケートに答えさせられるらしいよ。答えるとカフェのギフトカードがもらえるから、みんな詳しく書くんだってさ」

 最新の記事は「恋のキューピッド! 一ヶ月の努力がついに実る!?」というものだ。
 開かずとも、どの依頼についての記事か理解したが、一応記事を見てみることにした。

『――季節外れの雪が、二人の頭上から降りてきた。それはまるで、天使が祝福の息吹を吹き込んでいるようで。瑠凪は、その類まれなる力を使って雪を再現したのだ。そして、手を取り合う二人の背中に微笑むと、瑠凪は颯爽と去っていった』

 いや、実際には雪のスプレーをネットで購入して使っただけなのだが。
 というか、類まれなのはその文章力の方だ。
 俺を除いた依頼関係の人間の名前はオリジナルに変えられていて、俺が行った作戦についても、物語のように書き換えられている。
 あくまで身バレしないような配慮とともに、読み物としての精度の高さが容易に読み取れた。
 そしてもう一つ。既にこのブログは正の循環に入っている。
 紫はさっき、このブログのアクセス数がすごいと言っていた。
 記事の途中にアドセンスが設置されているため、少なくない収入が入っているはずだ。
 そして、その収入からアンケートのお礼の費用を出しているのだろう。
 開設当初はどうしていたのかわからないが、今ではブログ運営者は、自らの財産を投じる事なく、新たな記事を執筆することができる。

「紫ちゃんも、このブログで俺のことを知ったの?」
「……うん。そうだよ」
「そういうことか……」

 ブログには俺の個人的なこと、誰とどこへ行ったかは書かれていないため、近頃の、俺の情報が筒抜けな理由にはならない。
 名前以外の情報は守られている。
 収益を得ているのは癪だが、このサイトの文面から俺への悪意は感じられない。
 これもまた七緒の仕業かと勘繰ったりもしたものの、何故だか違うような気がした。

「……ん? これ、おかしくないか?」

 記事をもう一度読み返していると、明らかに違和感のある場所を見つける。

『手を取り合う2人の背中に微笑むと、瑠凪は颯爽と去っていった』

 この部分だ。
 まず、俺はこの時、誰にも見つからないような高めの位置に隠れていた。
 そして、そこから雪を降らせたわけだが……。
 雪が降った理由が俺なのはまだ理解できる。
 時期的に雪が降るわけがなかったし、当日は晴れていた。
 あり得ないことが起こったなら、そこに外的要因があるのは確実だろう。
 だが、問題は、なぜその後の俺の行動を知っていたか、だ。
 この締め方は物語的に美しいだろう。
 読者はきっと「創作物」としてこの行動を受け止めるはずだ。
 しかし、俺は実際に、格好つけて文章に書かれていることと全く同じことをしていたのだ。
 自分で発生させた雪に酔っているようで思い返すと恥ずかしいが、偶然の産物というには一致しすぎている。
 ……このブログの運営者は俺の後をつけている?

「ねぇ。もしかして、このブログの記事って無許可?」

 俺の表情から悟ったのか、紫が少し眉をひそめながら聞いてくる。

「無許可どころか、俺は今の今まで全く知らなかった」
「…………」

「なんなら、記事を書いてる奴は俺の行動を監視してる可能性が高い」

「それって、ストーカー……なんじゃない?」

 思わず頭を抱えてしまった。
 深く考えたくはなかったが、おそらく紫の言う通りだろう。
 ブログの運営者が七緒じゃないとすると、残念ながらストーカーはもう一人存在していることになる。

「いや、ストーカー二人とかどんな確率だよ……」

 俺は国家機密でも握ってたのか?
 もしかしてFBIとかに狙われてるのかもしれない。

「ストーカーが二人……?」
「いや、気にしないでくれ。こっちの話だから…………はぁ」

 紫に言ったところでどうにもならない。
 むしろ、部外者に伝えることでストーカーを刺激してしまうかもしれないからな。
 気にしているわけではないが、以前みた夢が、踏んづけてしまったガムのように脳裏にこびりついているのも確か。
 アンケートのメールが来たら知らせるようにと静香に伝え、依頼自体は晴れて完了となった。
 しかし、俺の心には何故か、何か当たり前のことを見落としてしまっているかのように靄がかかっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ
恋愛
 俺は知ってしまった。 まさか今更こんな真実を知ってしまうとは。 その日は何故かリビングのテーブルの上に戸籍謄本が置いてあり、何気なく目を通して見ると⋯⋯。  養子縁組の文字が目に入った。  そして養子氏名の欄を見てみると【天城リウト】俺の名前がある。  う、嘘だろ。俺が養子⋯⋯だと⋯⋯。  そうなると姉の琴音ことコト姉と妹の柚葉ことユズとは血が繋がっていないことになる。  今までは俺と姉弟、兄妹の関係だったからベタベタしてきても一線を越えることはなかったが、もしこのことがコト姉とユズに知られてしまったら2人の俺に対する愛情が暴走するかもしれない。もしコト姉やユズみたいな美少女に迫られたら⋯⋯俺の理性が崩壊する。  親父から日頃姉妹に手を出したらわかっているよな? と殺意を持って言われていたがまさかこういうことだったのか!  この物語は主人公のリウトが姉妹に血が繋がっていないことがバレると身が持たないと悟り、何とか秘密にしようと奔走するラブコメ物語です。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...