1 / 1
地獄の始まり
しおりを挟む「――シープ。お前にはこのパーティを抜けてもらう」
「なっ……! どういうことだ!?」
「お前の持つ固有魔術は、俺たち勇者パーティには合わない。だから出て行ってほしい」
「そんな……魔王を倒した昨日の戦いでだって、俺は活躍したはずだろッ!」
「――それが問題なんだよッ!」
「……っ」
「その魔術は人間よりも魔族寄りだ。そんな奴をパーティに入れていたとあれば……俺たちまで疑われることになるかもしれないだろ?」
「そ、それは……」
「だから、俺たちのために出て行ってくれないか。いいだろう、仲間なんだから? ほら、金はやる。これでどこへなりとも行くがいい」
「…………分かったよ。俺は……ブレイブ、お前のことを、親友だと思ってたぜ……」
「………………一人で何言ってんの?」
俺の目の前にいる男――勇者ブレイブは戸惑いの視線を俺に送りつつ言った。
「いや、こうやって追放してほしいなって」
「俺がシープを追放? いきなりどうした?」
ここは王城。
昨日、ついに魔王を撃破した俺たちは、王から民への発表の前に身体を休めていたのだ。
もう夜も更け、他のパーティメンバーは眠っている頃。
これが最後のチャンスということで、俺はブレイブを呼び出したのだ。
「あのな……俺の命がヤバいことは、お前も知ってるだろ?」
「いやまぁ、うん……頷くことしかできない」
俺たち勇者パーティは五人で構成されている。
勇者ブレイブ、魔術師メリアーナ、聖女イリヤ、暗殺者フェン、そして俺。
三年前に勇者として選ばれたブレイブと、幼馴染である俺の二人で出発した旅は過酷なものだった。
しかし、俺にとってもっと過酷だったのは――女性陣の態度の変化だ。
皆、一様に俺に対する当たりが強かったはず。
それなのに、どうしてか段々と距離が近くなっていき、言葉も行動も過激なものになっていった。
まったく理由が分からない。
ただ、「寝る時は一人、起きた時は二人、これなぁに……っていうかいつの間に?」というスフィンクスの問題に苦しめられるうちに、俺は悟ったのだ。
――このままじゃ殺されるかもしれない、と。
魔王を倒すまでならまだ良い。
俺だって貴重な戦力の一人のはずだし、殺すメリットがない。
でも、魔王を倒した後は……?
魔王討伐が公にされる直前である今日が、最後のチャンスなのだ。
「……だから俺を追放してくれ。ほら、ちゃんと台本も用意してきたから」
「台本って……俺はお前のことを唯一無二の親友だと思ってるんだぞ? 俺にお前を追放なんて、できるわけ――」
「それでもッ!」
ブレイブの言葉を遮って続ける。
「俺は……俺は死にたくないッ! あいつらは魔王より怖いッ!」
「えぇ……」
嫌そうな顔をしているが、俺だって切実なのだ。
「そもそも、仮にシープを追放したとして、俺はどうすれば良いんだよ。命がけで人のために戦える、国民からの信頼も厚いお前だ。たとえ魔族だったとしても文句は言われないだろうし、言われたら俺がシバいてやるし」
「良い感じに説明してくれればさ――」
「――それが問題なんだよッ!」
「……っ」
「俺がお前を追放したなんて知られてみろ。他の三人にボコボコにされて、吊し上げられて……どうなるか分からんだろ……」
「それは……」
俺もブレイブも、タイマンなら彼女たちに勝利することができる。
しかし、三人でまとまって来られたら勝つのは難しい。
「……じゃあ、お前から説明だけしてくれよ。『シープは自分のやるべきことを見つけたから、ひと足先に出発した。邪魔立て無用』ってさ」
そう告げると、ブレイブはしばらく「うーん」と悩んでいたようだが、やがて心底――心底面倒そうに頷いた。
「……仕方ない。でも、俺も殺されたくはないからな。適度に保身に走るぞ?」
「それはもちろん。心配しなくても、何かしらの節目には会いにくるからさ。みんなには黙ってたけど、この時のために転移魔術を習得したんだ」
「古代に失われた魔術を!? ……本気すぎるだろ」
身の危険を感じ始めてから、戦いよりも本気で取り組んだからな。
というわけで、俺はパーティから追放されることになった。
「んじゃあ最後に――これやってもらって良い?」
先ほどは受け取ってもらえなかった台本を、再び渡す。
「……やる必要あるか?」
「やっぱり雰囲気って重要だろ? ブレイブ達にとっては、明日の王様の発表が旅の終わり。俺にとってはコレなんだよ」
「お前は昔から……変な奴だよなぁ」
ブレイブも観念したみたいで、台本を読み上げ始めた。
「シープ。オマエニハコノパーティヲヌケテモラウ」
「なっ……! どういうことだ!?」
「オマエノモツコユウマジュツハ、オレタチユウシャパーテイニハニアワナイ。ダカラデテイッテホシイ」
「そんな……魔王を倒した昨日の戦いでだって、俺は活躍したはずだろッ!」
「――ソレガモンダイナンダヨー」
「……っ」
~中略~
「…………分かったよ。俺は……ブレイブ。お前のことを、親友だと思ってたぜ……」
そうして俺は、親友だった男の顔を最後に見つめると、窓から出て行った。
世界に平和が訪れたというのに、夜風はやけに冷たく感じる。
俺はこれから、どこに行けばいいのだろう。
そんな心の迷いを振り払うように、無心で駆け出した。
――――ヒャッホウッッッッ!!!
・
翌朝。魔王討伐の余韻がようやく引きつつあった王城の一室。
「…………は?」
最初に異変に気づいたのはメリアーナだった。
寝起きでボサボサの髪を乱暴にかき上げながら、自室の隣――シープの部屋を覗いた彼女は固まった。
「ちょっと、なんでシープの部屋……空っぽなの?」
寝た形跡のないベッド。荷物も無い。
本人も――いない。
「えう……? なに、どういうこと……?」
しばらく呆けていたメリアーナだが、徐々にその顔が赤く染まっていく。
「なに……なに勝手に消えてんのよあの男っ!」
怒りを滲ませた声が王城に響く。
彼女の周囲に火花が散り始めたのは、怒りが本物な証拠だ。
「アタシとあれほど一緒に――コホン、べ、別に大したことじゃないけど! これからが楽しい時だっていうのに、ありえないんだけど!? ちょ、ちょっと心配とか、する……し……」
頬をわずかに赤くしつつ、メリアーナは部屋を出て行った。
「イリヤ、ちょっと起きなさいよ!」
白い寝間着姿で扉を開けたイリヤは、相変わらず冷静な顔。
胸元が大胆に開いていて、メリアーナが一瞬、目をそらした。
「……朝からうるさいわよ、メリアーナ。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないのよ! シープの部屋が――」
イリヤはメリアーナを押しのけ、シープの部屋に足を踏み入れた。
無表情のようで、よく見るとその目がわずかに揺れた。
「……いない。荷物も、何もかも無くなってるわね」
「幻覚じゃないわよね!? 何か知ってる!?」
「知らないわ。昨日は疲れて早く寝たし……」
そこでイリヤはふと、ベッドの上に小さな紙片が落ちていることに気づいた。
『やるべきことを見つけたので、先に出発する。邪魔立て無用。ブレイブ』
拾い上げて静かに読むと、イリヤは――。
「…………嘘ね」
無表情のまま、即答した。
「そうね」
メリアーナも頷く。
「シープがこんな雑な手紙を残すはずがない。筆跡も違うし」
イリヤはメモを指で裂き、捨てる。
それが地面に落ちる前に、メリアーナの出した炎で消し炭にされた。
「……ブレイブに聞くしかないわね」
胸の谷間が揺れた。メリアーナがまた目をそらした。
「おはようございますっ! お二人とも何をそんなに――あれ? シープ先輩はどこですかっ?」
寝癖のまま駆けてきたフェンが二人をすり抜け、あどけない笑顔で部屋を覗き込む。
「……あれぇ? もう王様のところへ行っているんでしょうか?」
「そうではないわ。彼、どこか遠くへ行ってしまったのよ」
「アタシ達を――というかアタシを置いてね」
それを聞いた瞬間、フェンの顔からすっと笑顔が消えた。
「…………」
瞳がわずかに揺れ、耳まで真っ赤になる。
捨てられた子犬のような顔だった。
「シ、シープ先輩……まさか、私の、私の寝相が悪かったから……逃げ……た……?」
「いや絶対違うでしょ! あんた寝相どころか普通に抱きついてたじゃないの!」
「メリアーナの寝言もひどかったけどね」
「アタシは静かに寝てるわよっ!」
喧嘩もほどほどに、三人は怒涛の勢いでブレイブの部屋に突撃する。
「ブレイブッ! 説明しなさい!」
「昨日シープと最後に話してたの、あなたよね?」
「ブレイブさぁぁぁん! シープ先輩はどこですかっ!?」
ブレイブは朝食を口に運ぼうとしていたが、見事に固まった。
「お、おはよう……みんな。どうしたのかな……?」
「とぼけないでっ!」
「シープの手紙、あなたが書いたでしょ」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
シープが書いてないとバレるのは仕方ないとして、どうして俺だって分かるんだよ。
ブレイブは額に汗をにじませながら、昨日シープに頼まれた通りの説明を口にする。
「えっと……その……シープはやるべきことを見つけたみたいでな。一人で出て行ったよ」
彼が嘘を言っているのは明らかだったが、ブレイブはシープの親友。
シバく労力よりも自らの足で探す方が早いと判断した三人は、追求をやめる。
「勝手にどこ行ってんのよあの馬鹿! ……見つけたら絶対説教してやるんだから」
口を尖らせるメリアーナ。
「……シープは不器用ね。でも、私と彼は運命の糸で結ばれているの。消えたのだって、必ず理由があるはずよ」
イリヤの表情は変わらない。
だが、胸の前で組んだ手が少し震えていた。
「シープ先輩が……いないと……なんか胸が……ぎゅって……」
目が潤み、尻尾が見える勢いでしょんぼり沈むフェン。
「……探すわよね?」
「当然でしょ。アタシのなんだし」
「絶対に見つけます!」
三人は声を揃え、魔王の撃破など既に忘れたかのように、王城を出る準備を始める。
「……生き抜いてくれよ、親友」
ブレイブは呟いた。
「……っていうか俺、一人で諸々やるの?」
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる