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恋われた女(後・☆)
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「ねえ」
去年の夏。
秘め事の後、女は寝台の上に横たわったまま自分を抱きしめている男に声をかけた。男と愛し合うようになってから三年が経つが、男はいつも後始末を済ませてから女の頭を大事そうに胸に抱き、髪を撫でてくれるのだ。その度に女は嬉しさに頬を緩めているのだが、しっかりと頭を固定されているので男にその顔を見せることは未だに叶わない。
叶わないことは、もうひとつ。
「私、子供が欲しいの」
男が髪を撫でる手を止めた。
男は、女の胎へ精を放とうとしない。女がそれを受け止めたのは男がどうしても衝動を堪えられなかったほんの数回だけ。そのせいで女は月のものを見る度に溜息を吐いてばかりだ。
一度だけ、普段は規則正しい月のものが遅れたことがあった。
眠気が酷く熱っぽさもあったことから女は期待に胸を踊らせ、自分達の関係を知っている唯一の存在である年嵩の侍女は健康によいお茶を毎日淹れてくれた。女の体調の変化を知った男が心配して差し入れをしてくれたのだという。
しかし、数日後にいつもよりも激しい痛みを伴ってそれがやって来た。
侍女は落ち込む女の背中を黙って撫で、自分の代わりに男への報告をしてくれた。
その時女は強く思ったのだ。
子供が欲しい。自分のためだけではなく、かつて男の乳母を勤め、自分がこの屋敷に引き取られてからは母のように接してくれた優しいばあやに、いつか自分達の子供を――『孫』を抱かせてあげるためにも。
「貴方には跡継ぎが必要でしょう? 私たちは結婚できないから、また私が誰かに犯されたことにして貴方の子を産めばいいのです。貴方が私を『妹』にしてくれたようにその子を養子にすれば」
「ナターシャ」
男の冷たい声が女の言葉を遮る。
「私は、自分の子がいっときでも私生児として扱われることが許せないのだよ。大事な子をそんな可哀想な目に遭わせたくはない」
それに、と言いながら男は腕を緩めて上掛けの中に潜り込み、女の胸の先を指で摘む。上掛けの隙間から男の声だけが聞こえた。
「自分の子が、おまえのここをこうするのも許さない」
空いたほうの胸の先にすぐに男が吸い付いてきて、身体の奥で秘め事の残り火が再び勢いを増す。顔や姿が見えなくても、与えられる快感は間違いなく男によるものだ。何度も何度も愛し合ったのだから身体がきちんと覚えている。
「ん……。それだけじゃ、いやぁ」
「さっきも散々欲しがったくせに、まだ足りないのか」
「だって、しばらく逢えなくなるの、に……っ」
明日から男は社交のために首都へと旅立つ。女もかつてはそういった場に出ていたが、三年前からは領地に留まるように言われている。身も心も男のものになった以上もう社交など必要ないと思っている女はそれを受け入れたが、身体のほうはそう簡単には納得してくれない。
「……貴方だって、ほら」
女は腰を揺らす。脚が一緒に動き、甘く勃ちあがりはじめた男のそれに触れた。偶然ではなくわざとだということくらい男はお見通しだろう。
上掛けの中から、降参だ、と言わんばかりの溜息が聞こえた。
「……あんなに可愛かったおまえが、こんなにいやらしい女になるとは思わなかった」
「誰がこうしたのでしょうね」
男はそれには答えずに胸の先に舌を絡ませてきた。脚の間にも手が伸びてきて、先程愛し合った名残と新しく湧き出てきた蜜を浅いところで混ぜ始める。
男が呟いた。
「こんなおまえを欲しがる物好きな男など、どこを探してもいないだろうな」
――私以外には、という言葉が聞こえたような気がして、女は愛しい男の頭を胸に掻き抱く。子供のことは残念だけれど、大事な自分達の子を私生児として扱いたくないというのは男の優しさと責任感の現れなのだし、まだ影も形もない子供にまで嫉妬を向けるほど自分を愛してくれているのだ。
だから、いつかきっと、望みが叶う方法を見つけてくれるはず。
指で責められていたほうの胸の先に男が口づけをし、唾液でたっぷりと濡れたもう片方の先は指で弾かれる。秘裂にはとっくに男の指が挿し入れられていて、二本目の指が欲しい、それだけではなくてもう一度繋がりたいのだと訴えるように切なく疼いている。
指で、舌で、唇で長い時間をかけて女を愛した男が、しっかりと勃ちあがったものを女の中へと押し込んでくる。あるべきものがあるべきところに収まった感覚に女は甘い吐息を漏らした。
「そんなに、これが欲しかったのかい?」
「……ええ」
「飽きが来そうなものだけれど」
「そんなこと、あるはずがないわ」
男が一度精を放った後に再び繋がるのが女は好きだ。一度目ほどの激しさがない分深いところで愛し合えるような気がするし、繰り返し求められているという実感が持てるのが何より嬉しい。
こうした繋がり方は、自分達の関係に似ているように思えた。許されないとわかっていても恋に落ち、激しく求め合ってしまった三年前と、穏やかに愛し合うことができる今。それを繰り返しながら、自分達はこれからずっと一緒に歳を重ねていくのだ。
初めて愛し合った、あの日の約束通りに。
二度目ということもあり、男が極まるまでには少し時間が必要だった。そんな男とは対照的に女は何度も極まっては男に縋りつき、楔を締めつける。
男はこの時、女の胎ではなく口の中に精を注ぎ込んだ。
たまには変わったことをするのも悪くないな、と言われ、女は男が吐き出した欲望をぐっと飲み干した。
去年の夏。
秘め事の後、女は寝台の上に横たわったまま自分を抱きしめている男に声をかけた。男と愛し合うようになってから三年が経つが、男はいつも後始末を済ませてから女の頭を大事そうに胸に抱き、髪を撫でてくれるのだ。その度に女は嬉しさに頬を緩めているのだが、しっかりと頭を固定されているので男にその顔を見せることは未だに叶わない。
叶わないことは、もうひとつ。
「私、子供が欲しいの」
男が髪を撫でる手を止めた。
男は、女の胎へ精を放とうとしない。女がそれを受け止めたのは男がどうしても衝動を堪えられなかったほんの数回だけ。そのせいで女は月のものを見る度に溜息を吐いてばかりだ。
一度だけ、普段は規則正しい月のものが遅れたことがあった。
眠気が酷く熱っぽさもあったことから女は期待に胸を踊らせ、自分達の関係を知っている唯一の存在である年嵩の侍女は健康によいお茶を毎日淹れてくれた。女の体調の変化を知った男が心配して差し入れをしてくれたのだという。
しかし、数日後にいつもよりも激しい痛みを伴ってそれがやって来た。
侍女は落ち込む女の背中を黙って撫で、自分の代わりに男への報告をしてくれた。
その時女は強く思ったのだ。
子供が欲しい。自分のためだけではなく、かつて男の乳母を勤め、自分がこの屋敷に引き取られてからは母のように接してくれた優しいばあやに、いつか自分達の子供を――『孫』を抱かせてあげるためにも。
「貴方には跡継ぎが必要でしょう? 私たちは結婚できないから、また私が誰かに犯されたことにして貴方の子を産めばいいのです。貴方が私を『妹』にしてくれたようにその子を養子にすれば」
「ナターシャ」
男の冷たい声が女の言葉を遮る。
「私は、自分の子がいっときでも私生児として扱われることが許せないのだよ。大事な子をそんな可哀想な目に遭わせたくはない」
それに、と言いながら男は腕を緩めて上掛けの中に潜り込み、女の胸の先を指で摘む。上掛けの隙間から男の声だけが聞こえた。
「自分の子が、おまえのここをこうするのも許さない」
空いたほうの胸の先にすぐに男が吸い付いてきて、身体の奥で秘め事の残り火が再び勢いを増す。顔や姿が見えなくても、与えられる快感は間違いなく男によるものだ。何度も何度も愛し合ったのだから身体がきちんと覚えている。
「ん……。それだけじゃ、いやぁ」
「さっきも散々欲しがったくせに、まだ足りないのか」
「だって、しばらく逢えなくなるの、に……っ」
明日から男は社交のために首都へと旅立つ。女もかつてはそういった場に出ていたが、三年前からは領地に留まるように言われている。身も心も男のものになった以上もう社交など必要ないと思っている女はそれを受け入れたが、身体のほうはそう簡単には納得してくれない。
「……貴方だって、ほら」
女は腰を揺らす。脚が一緒に動き、甘く勃ちあがりはじめた男のそれに触れた。偶然ではなくわざとだということくらい男はお見通しだろう。
上掛けの中から、降参だ、と言わんばかりの溜息が聞こえた。
「……あんなに可愛かったおまえが、こんなにいやらしい女になるとは思わなかった」
「誰がこうしたのでしょうね」
男はそれには答えずに胸の先に舌を絡ませてきた。脚の間にも手が伸びてきて、先程愛し合った名残と新しく湧き出てきた蜜を浅いところで混ぜ始める。
男が呟いた。
「こんなおまえを欲しがる物好きな男など、どこを探してもいないだろうな」
――私以外には、という言葉が聞こえたような気がして、女は愛しい男の頭を胸に掻き抱く。子供のことは残念だけれど、大事な自分達の子を私生児として扱いたくないというのは男の優しさと責任感の現れなのだし、まだ影も形もない子供にまで嫉妬を向けるほど自分を愛してくれているのだ。
だから、いつかきっと、望みが叶う方法を見つけてくれるはず。
指で責められていたほうの胸の先に男が口づけをし、唾液でたっぷりと濡れたもう片方の先は指で弾かれる。秘裂にはとっくに男の指が挿し入れられていて、二本目の指が欲しい、それだけではなくてもう一度繋がりたいのだと訴えるように切なく疼いている。
指で、舌で、唇で長い時間をかけて女を愛した男が、しっかりと勃ちあがったものを女の中へと押し込んでくる。あるべきものがあるべきところに収まった感覚に女は甘い吐息を漏らした。
「そんなに、これが欲しかったのかい?」
「……ええ」
「飽きが来そうなものだけれど」
「そんなこと、あるはずがないわ」
男が一度精を放った後に再び繋がるのが女は好きだ。一度目ほどの激しさがない分深いところで愛し合えるような気がするし、繰り返し求められているという実感が持てるのが何より嬉しい。
こうした繋がり方は、自分達の関係に似ているように思えた。許されないとわかっていても恋に落ち、激しく求め合ってしまった三年前と、穏やかに愛し合うことができる今。それを繰り返しながら、自分達はこれからずっと一緒に歳を重ねていくのだ。
初めて愛し合った、あの日の約束通りに。
二度目ということもあり、男が極まるまでには少し時間が必要だった。そんな男とは対照的に女は何度も極まっては男に縋りつき、楔を締めつける。
男はこの時、女の胎ではなく口の中に精を注ぎ込んだ。
たまには変わったことをするのも悪くないな、と言われ、女は男が吐き出した欲望をぐっと飲み干した。
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