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乙女の純愛(後)
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「嫌だ」
セルファースは即座に否定した。そんなこと絶対に受け入れられるはずがない。
エステルの口元が歪む。
「私は貴方以外の男に抱かれたのよ」
今まで聞いたことのない冷たい声でエステルは呟いた。ついさっきまで感情が見えなかった瞳がゆらりと揺れる。
エステルの瞳に浮かんでいたのは涙と、深い絶望の色だった。
「違う」
「何が違うの? 他の男に身体を差し出して、貴方を裏切ったの」
「違う!」
「口先だけならどうとでも言えるでしょうけれど。……貴方は、他の男に抱かれた私を抱ける?」
セルファースはエステルに手を伸ばした。そのまま小さな身体を引き寄せて肩に担ぎ、細い腰に腕を回して立ち上がる。
「離して!」
「嫌だ」
暴れるエステルを落とさないように注意しながらセルファースは居間を出て階段を上がっていく。これ以上あの居間に、香りというヴィレムの痕跡が残る部屋にエステルを留めておきたくなかった。
二階に上がったセルファースは自室の扉を開けた。片手でエステルの靴を脱がせながら部屋の中へ足を進め、寝台の上に座らせて自分もその横に腰を下ろす。
何かを言おうとして開きかけたエステルの口をセルファースは自分の唇で塞いだ。
エステルがくぐもった声を漏らす。一瞬だけ唇を離し、エステルが息継ぎをしたのを確認してまた唇を塞ぐ。舌先を歯の隙間から捩じ込んでエステルの縮こまっている舌に触れる。
エステルの身体が震えたのがわかった。
セルファースは唇を離し、泣き出しそうな顔をしたエステルを見つめる。
「君を抱きたい」
エステルが首を横に振る。
「だめ。だって、私は」
「君は俺の妻だ。抱きたいって思うのは当たり前だよ」
「離婚して、って、言ったでしょう」
「離婚『したい』のなら諦めるけど、『するべき』なんて思っているのなら絶対に別れない」
エステルが唇を噛みしめた。
今にも涙が溢れそうになっている瞳を見つめ、セルファースはエステルに語りかける。
「教えてエステル。……本当に、俺と離れたいと思っている?」
どんな小さな声でも聞き逃さないようにセルファースは耳をそばだてる。
大粒の涙と共に、エステルの唇から言葉が零れ落ちた。
「……一緒に、いたい」
それだけ聞ければ充分だった。
セルファースはエステルの身体を抱き寄せた。
ずっと触れたいと願っていたその身体は小さくて細くて、今にも壊れてしまいそうだった。
「貴方と一緒にいたかったの。……一緒に、幸せになりたかっただけなの……」
セルファースはエステルを抱く腕に力を込める。エステルがそれほどまでに自分を愛してくれていたことが嬉しい半面、それが踏み躙られてしまったことが悔しくてたまらなかった。
「ごめんなさい……ゆるして……」
一緒にいたい、その願いに衝き動かされたエステルは他人に禁忌を犯させてまでセルファースを生き返らせようとした。それだけは紛れもなくエステルの罪だった。
けれど、罰はもう充分すぎるほどに受けたはずだ。対価ではなく大きすぎる犠牲を払って、何度も傷つけられて。それなのに受けた罰すら自分の罪だと思い込んでしまったエステル。
そんなエステルのためにセルファースができることはひとつしか思いつかなかった。
セルファースはエステルを抱きしめたまま耳元で囁く。
「全部赦すから。……全部、愛してあげるから」
赦されていいのだと、愛しているのだと、エステルに伝えたかった。
エステルが身じろぎをした。ずっと身体の横に力なく垂れ下がっていた両手が動くのがわかる。
その手が、ゆっくりとセルファースの背中に回された。
セルファースは即座に否定した。そんなこと絶対に受け入れられるはずがない。
エステルの口元が歪む。
「私は貴方以外の男に抱かれたのよ」
今まで聞いたことのない冷たい声でエステルは呟いた。ついさっきまで感情が見えなかった瞳がゆらりと揺れる。
エステルの瞳に浮かんでいたのは涙と、深い絶望の色だった。
「違う」
「何が違うの? 他の男に身体を差し出して、貴方を裏切ったの」
「違う!」
「口先だけならどうとでも言えるでしょうけれど。……貴方は、他の男に抱かれた私を抱ける?」
セルファースはエステルに手を伸ばした。そのまま小さな身体を引き寄せて肩に担ぎ、細い腰に腕を回して立ち上がる。
「離して!」
「嫌だ」
暴れるエステルを落とさないように注意しながらセルファースは居間を出て階段を上がっていく。これ以上あの居間に、香りというヴィレムの痕跡が残る部屋にエステルを留めておきたくなかった。
二階に上がったセルファースは自室の扉を開けた。片手でエステルの靴を脱がせながら部屋の中へ足を進め、寝台の上に座らせて自分もその横に腰を下ろす。
何かを言おうとして開きかけたエステルの口をセルファースは自分の唇で塞いだ。
エステルがくぐもった声を漏らす。一瞬だけ唇を離し、エステルが息継ぎをしたのを確認してまた唇を塞ぐ。舌先を歯の隙間から捩じ込んでエステルの縮こまっている舌に触れる。
エステルの身体が震えたのがわかった。
セルファースは唇を離し、泣き出しそうな顔をしたエステルを見つめる。
「君を抱きたい」
エステルが首を横に振る。
「だめ。だって、私は」
「君は俺の妻だ。抱きたいって思うのは当たり前だよ」
「離婚して、って、言ったでしょう」
「離婚『したい』のなら諦めるけど、『するべき』なんて思っているのなら絶対に別れない」
エステルが唇を噛みしめた。
今にも涙が溢れそうになっている瞳を見つめ、セルファースはエステルに語りかける。
「教えてエステル。……本当に、俺と離れたいと思っている?」
どんな小さな声でも聞き逃さないようにセルファースは耳をそばだてる。
大粒の涙と共に、エステルの唇から言葉が零れ落ちた。
「……一緒に、いたい」
それだけ聞ければ充分だった。
セルファースはエステルの身体を抱き寄せた。
ずっと触れたいと願っていたその身体は小さくて細くて、今にも壊れてしまいそうだった。
「貴方と一緒にいたかったの。……一緒に、幸せになりたかっただけなの……」
セルファースはエステルを抱く腕に力を込める。エステルがそれほどまでに自分を愛してくれていたことが嬉しい半面、それが踏み躙られてしまったことが悔しくてたまらなかった。
「ごめんなさい……ゆるして……」
一緒にいたい、その願いに衝き動かされたエステルは他人に禁忌を犯させてまでセルファースを生き返らせようとした。それだけは紛れもなくエステルの罪だった。
けれど、罰はもう充分すぎるほどに受けたはずだ。対価ではなく大きすぎる犠牲を払って、何度も傷つけられて。それなのに受けた罰すら自分の罪だと思い込んでしまったエステル。
そんなエステルのためにセルファースができることはひとつしか思いつかなかった。
セルファースはエステルを抱きしめたまま耳元で囁く。
「全部赦すから。……全部、愛してあげるから」
赦されていいのだと、愛しているのだと、エステルに伝えたかった。
エステルが身じろぎをした。ずっと身体の横に力なく垂れ下がっていた両手が動くのがわかる。
その手が、ゆっくりとセルファースの背中に回された。
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