引きこもり王子の優雅な生活と

爺誤

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引きこもり王子の優雅な生活

1-2

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 肉のない生活にやっと慣れてきた数ヶ月後、冬が来たようだった。朝晩が冷えるようになり、眠りが浅くなった。城の中を漁って、暖を取れそうなものを探したが見当たらない。
 ここを城と主張するのは、どれだけボロでも王子が住んでるんだから城でいいはずだからだ。気に入らないという理由だけで殺されていないから、俺たぶん王子様だと思うし。理由がなければ幽閉もできないということは、俺が王子という証拠があるのだろう。

 それはさておき、冬の話だ。竃の近くで眠ることも考えたが、火が入っている時しか暖かくないし燃料にも限りがある。この寒さの中で温かい食事も失ったらきっと死ぬ。先日は三日連続で薪が箱いっぱいに入れられていたから、これで冬を越せと言うことだろう。冬はどれぐらい長いのだろう……寒いのやだなあ。
 背に腹は変えられない、俺は初めて手紙を入れた。

『いつもありがとう。暖かい服か布をください』

 生命線とはいえ、俺は王子だからあまりへりくだってもよろしくないだろう。寒くて水浴びも控えているせいで垢だらけでボロを纏っていても、王子様だ。自信はないし、もう除籍されてるかもしれないけど。
 実のところ、他人とコミュニケーションを取ったことがほとんどないから、何と書けばいいのかわからないだけだけだ。

 夜は寒くて眠れない日が続き、暖かい昼に寝ることにした。月明かりがあれば三階で光を集める器具を眺めた。これに気付いたのは寒くて眠れず、城の中をうろうろと歩き回っていた時だ。誰も信じていないけれど、錬金術はほんとうにあるのかもしれない。
 ランプ形の硝子のような素材でできた装置は美しい。光を見つめていると、走馬灯のように僅かな王宮での思い出が蘇る。

 きょうだい達は俺に優しかった。皆、父に見つからないようにこっそりだったけれど、俺のことを気にかけてくれていた。ガチムチ兄は筋肉の作り方を教えてくれたし、インテリ兄は本を読む楽しさを教えてくれた。妖艶姉は殿方の心の掴み方を語ってくれたし、守ってあげたい系妹は大切なおやつを分けてくれた。彼女のおやつを取り上げたとして幽閉されたのだが、俺が幽閉された理由が伝わっていないと良い。心優しい妹に余計な心配をかけたくない。父に非常に嫌われていた俺だから、遅かれ早かれこうなる運命だったんだ。

 寒いから光を眺めながら兄に教えて貰ったとおりに、身体を動かし続けた。動けば腹が減るが、寒くて死ぬよりマシだ。手紙を入れて七日後の食材には厚い布と久しぶりの肉が入れられていた。代わりに野菜がほとんどなく、芋が少しと塩と主食用の粉が多めに入れられていた。多めということは、もしかしてしばらく来ないかもしれない。屋上にはうっすらと雪がかぶるようになってきたから、本格的な冬が来たら配給が滞るかもしれない。来なくなることも考えて配分を考えて頑張ろう。
 肉は塊だったから、干すか塩漬けにしなければならない。俺は幸せな気持ちで肉の処理にあたった。
 寒い季節になったから肉の保ちも良い。

 幸い冬の間も食材を届けてもらえて、その冬は乗り切ることができた。どうしようもない野菜屑を屋上の片隅に土に埋めて溜めておいたら、春になって何かの芽が出てきた。育ち始めた芽が愛しくて、大切に水をかけて育てていたら、一年後には白い花をつけて実がなった。小さな木のためにせっせと野菜屑を埋め続けていたら、すくすくと育っていく。
 一人で寂しい気持ちがあったけれど、日々育つ木が寂しさを紛らわせてくれた。

 一階から水を運ぶのも最初は酷く苦労していたが、兄に言われたとおりに鍛えていたら苦にならなくなった。水を溢さず走って階段を駆け上がる訓練をしてみたり、それなりに鍛えることを楽しんでいる。

 肉体が疲れたら本を読み、限られた道具を工夫して他のものにできないか試していった。硝子瓶が大量にしまってある戸棚を見つけて、瓶を使った楽器を作った。遠くなってしまった記憶を頼りに、姉の言っていたムード音楽を再現してみたりもした。聞かせる相手もいない音楽だけど、無心で奏でる時間は楽しかった。

 配給は量や頻度を変えて続き、頻度や量が減ることに見当がつくようになった。おそらく用意に苦労しているのだろう。いじけていた俺に寄り添って優しくしてくれた妹を想う。誰からも愛される幼い妹でも、それでは足りないと悩んでいることを教えてくれた。人の立場を思いやることを知ったのは、妹のおかげだ。
 きょうだい達との思い出が、俺を挫けさせることなく支えてくれている。


 城に幽閉されて三年ほどが過ぎた頃、ふと竃のある部屋の扉のことを思い出した。毎晩筋トレをしているから、少し腕の力がついてきた。いまならあの扉を開けられるかもしれない。物は試しだ。
『筋肉は絶対的な味方だ』
 兄の教えが心を強くする。

「ふん!!」

 ボゴッと音がして扉が外れた。何ということか、取っ手と同じ側に蝶番が付いている。普通に開けようとして開くわけがない。古びた蝶番を止めていた釘は腐りもせず頑張っていたようだが、俺の筋肉のおかげで飛んでいって床でコロコロと転がっている。物資の少ない城の中だ、なくならないように大事にしまった。
 開けてみたかった扉のむこうは、小さな倉庫のようだった。だが端に石造りの大きな桶のようなものがあり、桶の端に小さなポンプのついた管が出ている。これはまさか、風呂、だろうか。今は寒すぎて使えないが、暖かい季節なら楽しめるかもしれない。

「そうだ、冬は倉庫がわりにして、夏は体を洗うところにしよう。次の夏が楽しみだ」

 こんな楽しそうな設備を見つけてしまったら、使わずに死ぬのは勿体ない。目標があるというのは良いもので、俺は生き延びるためにひたすら研究する事にした。

 冬の間、屋上は雪がたまらないように毎日雪かきをしていった。板に雪を乗せて柵の外まで投げるのだ。ここで気をつけなければならないのは、なるべく遠くに投げることだ。丸めて固めて投げてみたこともあったが、気温が低いと雪が粉のようで丸められないからこのスタイルになった。
 最も雪深くなる一か月は配給も途絶えてしまう。来なくなる前に、二日連続で箱いっぱいに食料を入れてくれるのが有り難い。

 どんな人が運んでくれているのだろう。きっと素朴で優しい人だ。女性なら色硝子の欠片を喜ぶかもしれない。使えない硝子の欠片から角を取り、糸を絡めて首飾りのようなものを作ってみた。
 その晩、夢の中で顔のない女性が出てきた。俺は首飾りをプレゼントして幸せな気持ちになった。起きると股間が妙な液体で濡れていて、必死で医学書を調べたが記述はなかった。股間から膿でも出てしまったのだろうか……。確認するのは恐ろしく、痛みもないからなかったことにした。

 屋上の木はすくすくと伸びて柵の高さを超えた。木の上の方の実を取りたくて柵を登ってみたら意外に簡単に登ることができ、柵の上に座って周囲を見下ろした。

「……この森が俺の領地……ふふ」

 一人王様ごっこだが、楽しくなった。この筋肉があれば、外壁を伝って下りることもできるかもしれない。でも、必要がない。
 黒髪しかいない国で、俺のような色の抜けたような髪は目立つ。瞳の色も黒か茶のなかで、俺だけが明るい黄色だ。外に出たところで石を投げられ忌み嫌われるぐらいなら、安全な城の中でひとりでいい。
 もしかしたら、きょうだいたちのだれか一人でも俺のことを思い出して、尋ねてきてくれるかもしれない。そうしたら、「私の領地へようこそ」と堂々と歓迎したい。

 ふと下を見たら、袋を持った男がやってきた。袋をぽいと箱に入れると、振り向きもせずにさっさと帰っていく。そうだろう、若い女性がひとりでこんなところまで来るはずがない。何を夢見ていたのだろう。首飾りは王冠に作り変えよう。日差しに当てたらきっと父王の冠より輝いて見える。

 配給を持ってきてくれた男の戻っていった方角を見る。あちらが王都だろうか。両親やきょうだいたちは健やかに暮らしているだろうか。
 ほんの少し城から頭を出しただけで、郷愁の念が込み上げてくる。いけない、数え方が間違っていなければ俺ももうすぐ成人だ。成人の男が寂しいから泣くなんておかしい。

俺の名前、なんだっけ。呼ぶ人もないから忘れてしまった。




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