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16 異議
「国王陛下、リヤードが実子を産んだ場合どうされるおつもりですか」
俺は吹き出すのを堪えられた自分を褒めた。オメガだからそういう発想になるのか。リヤードだぞ?
内心の声に同意するように、リヤードも口を開いた。
「産みませんよ、兄上」
「何を言うんだ、リヤード。私はいつだって愛する弟の幸せを願っている。いずれおまえも運命に出会うんだ」
「もう出会って結婚しています。蒸し返すならあんたの宮を今度こそ全壊させてあげますよ」
今度こそ? 壊したことがあるのか……やりそうだ。
「やめなさい、ドーレイン、リヤード」
ドーレインは王太子の名前だ。この偉そうなアルファが。リヤードと金髪碧眼は同じだけど、脳みそまで筋肉っぽい体格をしている。
王太子と王子ということで、仲裁できるのは国王だけなのだろうか。こんな下らないやりとりにも口を挟まないとは、身分はここまで強い力を持つのか。
「私がネイジェを認めた。覆そうと言うのなら、王位を簒奪するか」
「まさか! そのような不遜な願いは抱いておりません」
王太子が大袈裟に首を振る。
「そもそもリヤードの実子でも歓迎せんくせに。おおかたリゼバールが直轄地に戻らないことを危惧しているのだろう」
たしか、リゼバールは王子に与えられる領地で、リヤードが結婚して相手の家に入ったら直轄地に戻るはずの領地だった。そもそも王子が統治することを期待しないほどの田舎だったのを、リヤードが駅を作らせて発展させて大都市にしたものだ。
土地に旨味が出たから欲が出たということか。さらに、本気でリヤードをか弱いオメガだと信じてもいる。アルファばかりで集まるとこういう発想になるのだろうか。
「リヤードはオメガです。オメガの幸せは、強いアルファに守られることだ」
「では、そこのネイジェが育つまで待てば良い。ネイジェよ、リヤードを守れるか」
親子と名乗って違和感がない年の差があるのに、俺がリヤードをアルファとして? ありえない。それならサナンのほうが良い……サナンの方が? なんでここでサナンが出てくるんだ。
とりあえず国王の問いに答えなくては。
「恩義があるため、いずれはお守りしたいのはやまやまですが、父上は大人しく守られるような人柄ではないため、難しいと存じます」
俺の発言に居合わせたうちの数人が咳払いをした。咳払いもせず笑っている者もいる。リヤードは王宮で何をしてきたんだ……
「オレを守るのは、最高の防御反撃魔法機構です。兄上が剣で両断しようとしても数一つ付けないどころか、自動的に倍の強さで反撃の衝撃波が襲います」
シェンの発明品の話だ。反撃は五倍と聞いているから、ちょっと控えめに話している。そもそも現時点で、防御魔法の反撃機能に増幅効果をもたせることはシェンにしかできないらしい。
「試してみますか? 兄上」
「私はおまえを傷つけない!」
憤然とドーレインが叫び、国王とリヤードが目を合わせて笑った。
「諦めてください、兄上。リゼバールはネイジェにやります。ネイジェはアルファだ。貴方の認める領主になれる」
「私は、リヤードの幸せを……」
「オレは幸せですよ。愛する伴侶と優秀な息子がいる。完璧な家族でしょう」
王太子がリヤードを心配しているのは事実のようだが、そこに領地としてのリゼバールへの欲があるのも間違いなさそうだ。
「その伴侶はどうした」
「兄上のオレへの態度を見ると魔法で吊りたくなるから無理だそうです」
「子どものために足を運ぶこともしないのか」
どうしてもシェンを貶めたいらしい王太子の様子に、リヤードが獲物を前にした獣のような顔になった。
「見てますよ。もちろん、今も」
これ以上はやばいと判断できたらしい。王太子が、肩を落として口を尖らせた。大人のする態度ではない。
「魔法使いには謁見の間ですら丸裸か」
「正確にはオレを見ているので、王宮内をいつでも見られるわけではありません」
「いいんだか悪いんだか……」
「リヤードに譲れて偉いぞ、ドーレイン」
「その褒め方はどうかと思います。父上」
このやりとりを見ると、つまり、みんな仲がいいのだろう。よく知らない俺には落ち着かない事態だったが、リヤードの言う通りにしていたら収まった。
あそこで国王に阿るような態度を取っていたら、国王からもリヤードからも失格の判定を食らったのだろう。任せろと言いながら、ずっと試されていたというわけだ。
悔しいけれど、無条件で守られるよりずっといい。
「新たな王族のお披露目が必要だ」
「そうですね。盛大にお願いします」
まるで全てのやりとりが予定通りだったかのように進んでいく。俺は馬鹿にされているのか、それとも、これが当たり前の世界なのか。
会話は終わり、辞去して謁見の間を出た。
「ネイジェの部屋はオレの隣に用意されている、そうだな?」
「はい」
「ネイジェ、寂しくなったらいつでもオレの部屋に来ていいから」
「……ありがとうございます、父上」
とても疲れたが、ゆっくり休めそうにない。
サナンとシェンのいるリゼバールに帰りたい。ほんの半年前はリゼバールから出たくてたまらなかったのに。
俺は吹き出すのを堪えられた自分を褒めた。オメガだからそういう発想になるのか。リヤードだぞ?
内心の声に同意するように、リヤードも口を開いた。
「産みませんよ、兄上」
「何を言うんだ、リヤード。私はいつだって愛する弟の幸せを願っている。いずれおまえも運命に出会うんだ」
「もう出会って結婚しています。蒸し返すならあんたの宮を今度こそ全壊させてあげますよ」
今度こそ? 壊したことがあるのか……やりそうだ。
「やめなさい、ドーレイン、リヤード」
ドーレインは王太子の名前だ。この偉そうなアルファが。リヤードと金髪碧眼は同じだけど、脳みそまで筋肉っぽい体格をしている。
王太子と王子ということで、仲裁できるのは国王だけなのだろうか。こんな下らないやりとりにも口を挟まないとは、身分はここまで強い力を持つのか。
「私がネイジェを認めた。覆そうと言うのなら、王位を簒奪するか」
「まさか! そのような不遜な願いは抱いておりません」
王太子が大袈裟に首を振る。
「そもそもリヤードの実子でも歓迎せんくせに。おおかたリゼバールが直轄地に戻らないことを危惧しているのだろう」
たしか、リゼバールは王子に与えられる領地で、リヤードが結婚して相手の家に入ったら直轄地に戻るはずの領地だった。そもそも王子が統治することを期待しないほどの田舎だったのを、リヤードが駅を作らせて発展させて大都市にしたものだ。
土地に旨味が出たから欲が出たということか。さらに、本気でリヤードをか弱いオメガだと信じてもいる。アルファばかりで集まるとこういう発想になるのだろうか。
「リヤードはオメガです。オメガの幸せは、強いアルファに守られることだ」
「では、そこのネイジェが育つまで待てば良い。ネイジェよ、リヤードを守れるか」
親子と名乗って違和感がない年の差があるのに、俺がリヤードをアルファとして? ありえない。それならサナンのほうが良い……サナンの方が? なんでここでサナンが出てくるんだ。
とりあえず国王の問いに答えなくては。
「恩義があるため、いずれはお守りしたいのはやまやまですが、父上は大人しく守られるような人柄ではないため、難しいと存じます」
俺の発言に居合わせたうちの数人が咳払いをした。咳払いもせず笑っている者もいる。リヤードは王宮で何をしてきたんだ……
「オレを守るのは、最高の防御反撃魔法機構です。兄上が剣で両断しようとしても数一つ付けないどころか、自動的に倍の強さで反撃の衝撃波が襲います」
シェンの発明品の話だ。反撃は五倍と聞いているから、ちょっと控えめに話している。そもそも現時点で、防御魔法の反撃機能に増幅効果をもたせることはシェンにしかできないらしい。
「試してみますか? 兄上」
「私はおまえを傷つけない!」
憤然とドーレインが叫び、国王とリヤードが目を合わせて笑った。
「諦めてください、兄上。リゼバールはネイジェにやります。ネイジェはアルファだ。貴方の認める領主になれる」
「私は、リヤードの幸せを……」
「オレは幸せですよ。愛する伴侶と優秀な息子がいる。完璧な家族でしょう」
王太子がリヤードを心配しているのは事実のようだが、そこに領地としてのリゼバールへの欲があるのも間違いなさそうだ。
「その伴侶はどうした」
「兄上のオレへの態度を見ると魔法で吊りたくなるから無理だそうです」
「子どものために足を運ぶこともしないのか」
どうしてもシェンを貶めたいらしい王太子の様子に、リヤードが獲物を前にした獣のような顔になった。
「見てますよ。もちろん、今も」
これ以上はやばいと判断できたらしい。王太子が、肩を落として口を尖らせた。大人のする態度ではない。
「魔法使いには謁見の間ですら丸裸か」
「正確にはオレを見ているので、王宮内をいつでも見られるわけではありません」
「いいんだか悪いんだか……」
「リヤードに譲れて偉いぞ、ドーレイン」
「その褒め方はどうかと思います。父上」
このやりとりを見ると、つまり、みんな仲がいいのだろう。よく知らない俺には落ち着かない事態だったが、リヤードの言う通りにしていたら収まった。
あそこで国王に阿るような態度を取っていたら、国王からもリヤードからも失格の判定を食らったのだろう。任せろと言いながら、ずっと試されていたというわけだ。
悔しいけれど、無条件で守られるよりずっといい。
「新たな王族のお披露目が必要だ」
「そうですね。盛大にお願いします」
まるで全てのやりとりが予定通りだったかのように進んでいく。俺は馬鹿にされているのか、それとも、これが当たり前の世界なのか。
会話は終わり、辞去して謁見の間を出た。
「ネイジェの部屋はオレの隣に用意されている、そうだな?」
「はい」
「ネイジェ、寂しくなったらいつでもオレの部屋に来ていいから」
「……ありがとうございます、父上」
とても疲れたが、ゆっくり休めそうにない。
サナンとシェンのいるリゼバールに帰りたい。ほんの半年前はリゼバールから出たくてたまらなかったのに。
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