路地裏に捨てられた絶望アルファは希望を知る

爺誤

文字の大きさ
16 / 23

16 異議

「国王陛下、リヤードが実子を産んだ場合どうされるおつもりですか」

 俺は吹き出すのを堪えられた自分を褒めた。オメガだからそういう発想になるのか。リヤードだぞ?
 内心の声に同意するように、リヤードも口を開いた。

「産みませんよ、兄上」
「何を言うんだ、リヤード。私はいつだって愛する弟の幸せを願っている。いずれおまえも運命に出会うんだ」
「もう出会って結婚しています。蒸し返すならあんたの宮を今度こそ全壊させてあげますよ」

 今度こそ? 壊したことがあるのか……やりそうだ。

「やめなさい、ドーレイン、リヤード」

 ドーレインは王太子の名前だ。この偉そうなアルファが。リヤードと金髪碧眼は同じだけど、脳みそまで筋肉っぽい体格をしている。
 王太子と王子ということで、仲裁できるのは国王だけなのだろうか。こんな下らないやりとりにも口を挟まないとは、身分はここまで強い力を持つのか。

「私がネイジェを認めた。覆そうと言うのなら、王位を簒奪するか」
「まさか! そのような不遜な願いは抱いておりません」

 王太子が大袈裟に首を振る。

「そもそもリヤードの実子でも歓迎せんくせに。おおかたリゼバールが直轄地に戻らないことを危惧しているのだろう」

 たしか、リゼバールは王子に与えられる領地で、リヤードが結婚して相手の家に入ったら直轄地に戻るはずの領地だった。そもそも王子が統治することを期待しないほどの田舎だったのを、リヤードが駅を作らせて発展させて大都市にしたものだ。
 土地に旨味が出たから欲が出たということか。さらに、本気でリヤードをか弱いオメガだと信じてもいる。アルファばかりで集まるとこういう発想になるのだろうか。

「リヤードはオメガです。オメガの幸せは、強いアルファに守られることだ」

「では、そこのネイジェが育つまで待てば良い。ネイジェよ、リヤードを守れるか」

 親子と名乗って違和感がない年の差があるのに、俺がリヤードをアルファとして? ありえない。それならサナンのほうが良い……サナンの方が? なんでここでサナンが出てくるんだ。
 とりあえず国王の問いに答えなくては。

「恩義があるため、いずれはお守りしたいのはやまやまですが、父上は大人しく守られるような人柄ではないため、難しいと存じます」

 俺の発言に居合わせたうちの数人が咳払いをした。咳払いもせず笑っている者もいる。リヤードは王宮で何をしてきたんだ……

「オレを守るのは、最高の防御反撃魔法機構です。兄上が剣で両断しようとしても数一つ付けないどころか、自動的に倍の強さで反撃の衝撃波が襲います」

 シェンの発明品の話だ。反撃は五倍と聞いているから、ちょっと控えめに話している。そもそも現時点で、防御魔法の反撃機能に増幅効果をもたせることはシェンにしかできないらしい。

「試してみますか? 兄上」
「私はおまえを傷つけない!」

 憤然とドーレインが叫び、国王とリヤードが目を合わせて笑った。

「諦めてください、兄上。リゼバールはネイジェにやります。ネイジェはアルファだ。貴方の認める領主になれる」
「私は、リヤードの幸せを……」
「オレは幸せですよ。愛する伴侶と優秀な息子がいる。完璧な家族でしょう」

 王太子がリヤードを心配しているのは事実のようだが、そこに領地としてのリゼバールへの欲があるのも間違いなさそうだ。

「その伴侶はどうした」
「兄上のオレへの態度を見ると魔法で吊りたくなるから無理だそうです」
「子どものために足を運ぶこともしないのか」

 どうしてもシェンを貶めたいらしい王太子の様子に、リヤードが獲物を前にした獣のような顔になった。

「見てますよ。もちろん、今も」

 これ以上はやばいと判断できたらしい。王太子が、肩を落として口を尖らせた。大人のする態度ではない。

「魔法使いには謁見の間ですら丸裸か」
「正確にはオレを見ているので、王宮内をいつでも見られるわけではありません」
「いいんだか悪いんだか……」

「リヤードに譲れて偉いぞ、ドーレイン」
「その褒め方はどうかと思います。父上」

 このやりとりを見ると、つまり、みんな仲がいいのだろう。よく知らない俺には落ち着かない事態だったが、リヤードの言う通りにしていたら収まった。
 あそこで国王におもねるような態度を取っていたら、国王からもリヤードからも失格の判定を食らったのだろう。任せろと言いながら、ずっと試されていたというわけだ。
 悔しいけれど、無条件で守られるよりずっといい。

「新たな王族のお披露目が必要だ」
「そうですね。盛大にお願いします」

 まるで全てのやりとりが予定通りだったかのように進んでいく。俺は馬鹿にされているのか、それとも、これが当たり前の世界なのか。

 会話は終わり、辞去して謁見の間を出た。

「ネイジェの部屋はオレの隣に用意されている、そうだな?」
「はい」
「ネイジェ、寂しくなったらいつでもオレの部屋に来ていいから」
「……ありがとうございます、父上」

 とても疲れたが、ゆっくり休めそうにない。
 サナンとシェンのいるリゼバールに帰りたい。ほんの半年前はリゼバールから出たくてたまらなかったのに。
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

家に帰ったら、妻は冷たくなっていた。突然シングルファザーになった勇者パーティーの治癒師は家族を修復したい

八朔バニラ
ファンタジー
勇者パーティーに所属し、魔王討伐した治癒師(ヒーラー)のゼノスは街の人々の歓声に包まれながら、3年ぶりに家に帰った。家族が出迎えてくれると思ったが、誰も出迎えてくれない。ゼノスは不満に思いながら家に入ると、妻の身体は冷たくなっていた。15歳の長男ルミナスはゼノスの代わりに一家の柱として妹を守り抜き、父に深い拒絶のこもった瞳を向けていた。そして、8歳の長女ミリアは父の顔も忘れていた。 ゼノスは決意する。英雄の肩書きを捨て、一人の不器用な父親として、バラバラになった家族の心を繋ぎ合わせることを。 これは世界最強の治癒師が家族を修復する物語である。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

戦場の黒猫は騎士団長に拾われる

天気
BL
ストーリー完結させて、サイドストーリーに行きたいです。

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。