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22 蔓の情報
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倒れた馬車を囲む騎兵はものものしく、腕の中で震えて泣いているモニのこともあり、トーカはその場を離れることにした。馬車がひっくり返った原因にされても厄介だ。馬の形相に驚いたけれど、装具も馬車もギラギラしていて、身分の高い者が乗っていたのだろうと推測できた。
トーカは、喧騒が聞こえなくなるぐらいまで離れると、静かな路地裏の木箱にモニを座らせた。移動しているうちにモニは落ち着いていったようだった。
「こわかったぁ」
「もう大丈夫だ。でも、大通りを馬車があんな勢いで来るなんてな」
「いつもは馬車なんて来ないよ。馬のあたまに、なにかついてた……すごく、気持ち悪くてこわかった」
「馬の頭に? なんだろうな、それ」
モニの言葉を反復して引っかかるものを感じたが、何に引っかかったかわからないでいると、ヒメサマがそっと原因を教えてくれた。
『魔物だ。地下の生き物。闇に属するものだ。数は少ないが、地上の生き物を襲う。オサヒグンラはちょっとした悪戯だと言うんだ』
リナサナヒメトと違って、生命に対してあまり尊重する姿勢がないオサヒグンラのことは、わかっているつもりだった。しかし、具体的に迷惑を被ると、その危険性がひしひしと感じられる。
今日は用事を早めに済ませて、ヒメサマと作戦会議をしたほうが良さそうだった。
「……モニ、道具屋はここから近い?」
「うん。もうすぐ」
土地勘のないトーカがめちゃくちゃに走ったにもかかわらず、モニはここがどこか正確に把握していた。優秀な案内役である。
「とりあえず、行こうか」
道具屋は角を曲がったらすぐに見えてきたが、そこでも騒ぎが起きていた。
数人の旅人が聖水か回復薬をよこせと騒いでいる。
「呪いだ! 魔物にやられた。すぐに回復させないと死んじまう!」
「この街には神殿があるから聖水は扱ってません! 回復薬はもうお渡ししました。お金がないならおしまいです」
「くそっ! 死にかけてるんだよ!」
トーカは横から回復薬を購入して、叫んでいる男に渡した。
「呪いを見たことがないから、見せてくれるか?」
「見せ物じゃねえっ……けど、助かるっ」
道具屋の外に寝かされていた男のフードを取ると、頭に何かが巻きついた痕がびっしりついていた。息は浅く、回復薬を頭からかけられても、じゅうと嫌な音を立てて痕が濃くなるばかりだった。
「やっぱり聖水じゃないと無理だ」
「神殿で浄化してもらう金なんてないぞ」
トーカは、呪いとは即死するほどじゃないけれど、危険な状態だと理解した。怪我ではないぶん、魔法の力が込められた回復薬では治りにくく、特殊な手段が必要だと。
「ヒメサマ、おれも呪いを消せる?」
『今のトーカにはできないが、俺はできる。トーカがやったふりをすればいいだろう』
「ありがと」
モニが移ることを警戒して少し離れたところから見ていたから、トーカはこっそりヒメサマに相談した。
「少しいいかな」
「あんた、何を……つ!?」
声をかけると道具屋で喚いていた男の横にかがみ込んで、呪いを受けた男の頭に手をかざした。頭の痕が薄くなる。
「もう大丈夫だ」
呪いは消えたのに痕が消えないのを残念に思いながら、トーカは立ち上がった。
「あ、あんた……聖者さまなのか……」
「知らない。騒がれるのは嫌だ」
「ああ……ありがとうございます。誰にも言いません。こいつは幼馴染で妹の夫なんです。最大の感謝を」
「うん。回復薬が効いて良かった」
そもそもヒメサマの力であって、トーカの力ではない。旅をしてきたらしい彼らに貸しを作れてラッキー、ぐらいにしか思わなかった。
「恩に思うなら教えてほしいことがある。呪いのもとはどこで?」
「この街の近くの洞窟だ……です」
「言葉遣いは気にしなくていい」
「はあ、洞窟は魔物のいる確率が高いから、滅多に入らないんだけど、雨が来たから一時的に入ったんだ。外から覗いた時は何もない感じだったんだが、少し奥までいったら、天井から下がってる蔓があって、いちばん背が高かったこいつがやられた」
まだぐったりと倒れているが、確かにその男は背が高そうだった。
トーカは、その蔓の性質が季馬を捕えるのにちょうどいいのだろうと考えた。オサヒグンラから教えられた特徴にも合致する。
「その蔓を探している」
「ええ? 危ねえよ」
「その蔓を使って、やりたいことがあるんだ。人に害があるようなことじゃない」
悪用する意思がないことを告げると、一瞬で警戒心に満ちた男がほっとした顔になった。
「えええ……街に入る時に報告しちまったから、もう討伐隊が組まれてるかも」
「じゃあ急ごう。回復薬の代金は情報料ということでいい」
トーカは、喧騒が聞こえなくなるぐらいまで離れると、静かな路地裏の木箱にモニを座らせた。移動しているうちにモニは落ち着いていったようだった。
「こわかったぁ」
「もう大丈夫だ。でも、大通りを馬車があんな勢いで来るなんてな」
「いつもは馬車なんて来ないよ。馬のあたまに、なにかついてた……すごく、気持ち悪くてこわかった」
「馬の頭に? なんだろうな、それ」
モニの言葉を反復して引っかかるものを感じたが、何に引っかかったかわからないでいると、ヒメサマがそっと原因を教えてくれた。
『魔物だ。地下の生き物。闇に属するものだ。数は少ないが、地上の生き物を襲う。オサヒグンラはちょっとした悪戯だと言うんだ』
リナサナヒメトと違って、生命に対してあまり尊重する姿勢がないオサヒグンラのことは、わかっているつもりだった。しかし、具体的に迷惑を被ると、その危険性がひしひしと感じられる。
今日は用事を早めに済ませて、ヒメサマと作戦会議をしたほうが良さそうだった。
「……モニ、道具屋はここから近い?」
「うん。もうすぐ」
土地勘のないトーカがめちゃくちゃに走ったにもかかわらず、モニはここがどこか正確に把握していた。優秀な案内役である。
「とりあえず、行こうか」
道具屋は角を曲がったらすぐに見えてきたが、そこでも騒ぎが起きていた。
数人の旅人が聖水か回復薬をよこせと騒いでいる。
「呪いだ! 魔物にやられた。すぐに回復させないと死んじまう!」
「この街には神殿があるから聖水は扱ってません! 回復薬はもうお渡ししました。お金がないならおしまいです」
「くそっ! 死にかけてるんだよ!」
トーカは横から回復薬を購入して、叫んでいる男に渡した。
「呪いを見たことがないから、見せてくれるか?」
「見せ物じゃねえっ……けど、助かるっ」
道具屋の外に寝かされていた男のフードを取ると、頭に何かが巻きついた痕がびっしりついていた。息は浅く、回復薬を頭からかけられても、じゅうと嫌な音を立てて痕が濃くなるばかりだった。
「やっぱり聖水じゃないと無理だ」
「神殿で浄化してもらう金なんてないぞ」
トーカは、呪いとは即死するほどじゃないけれど、危険な状態だと理解した。怪我ではないぶん、魔法の力が込められた回復薬では治りにくく、特殊な手段が必要だと。
「ヒメサマ、おれも呪いを消せる?」
『今のトーカにはできないが、俺はできる。トーカがやったふりをすればいいだろう』
「ありがと」
モニが移ることを警戒して少し離れたところから見ていたから、トーカはこっそりヒメサマに相談した。
「少しいいかな」
「あんた、何を……つ!?」
声をかけると道具屋で喚いていた男の横にかがみ込んで、呪いを受けた男の頭に手をかざした。頭の痕が薄くなる。
「もう大丈夫だ」
呪いは消えたのに痕が消えないのを残念に思いながら、トーカは立ち上がった。
「あ、あんた……聖者さまなのか……」
「知らない。騒がれるのは嫌だ」
「ああ……ありがとうございます。誰にも言いません。こいつは幼馴染で妹の夫なんです。最大の感謝を」
「うん。回復薬が効いて良かった」
そもそもヒメサマの力であって、トーカの力ではない。旅をしてきたらしい彼らに貸しを作れてラッキー、ぐらいにしか思わなかった。
「恩に思うなら教えてほしいことがある。呪いのもとはどこで?」
「この街の近くの洞窟だ……です」
「言葉遣いは気にしなくていい」
「はあ、洞窟は魔物のいる確率が高いから、滅多に入らないんだけど、雨が来たから一時的に入ったんだ。外から覗いた時は何もない感じだったんだが、少し奥までいったら、天井から下がってる蔓があって、いちばん背が高かったこいつがやられた」
まだぐったりと倒れているが、確かにその男は背が高そうだった。
トーカは、その蔓の性質が季馬を捕えるのにちょうどいいのだろうと考えた。オサヒグンラから教えられた特徴にも合致する。
「その蔓を探している」
「ええ? 危ねえよ」
「その蔓を使って、やりたいことがあるんだ。人に害があるようなことじゃない」
悪用する意思がないことを告げると、一瞬で警戒心に満ちた男がほっとした顔になった。
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