人を生きる君

爺誤

文字の大きさ
23 / 33

23 同じで違う

 
 トーカは、中庸の地での真面目な勉強の合間に、護身術も習ったしいくつかの冒険譚も読んでいた。その中でも、主人公は善行をひけらかさないものだ、という一文が好きだった。だから、さっさとモニを連れてその場を離れた。

 屋台で串刺しの肉焼きを買い、モニと広場の端に座って食べた。少し辛いソースと端がカリカリの肉がよく合っていて美味しかった。
 モニは静かに俯いて食べていた。
 食べ終わり、あまり時間が経っていないけれど、もう一度神殿にいくか悩んでいるとモニが呟いた。

「ねえ、さっきの。呪いを解いたの?」
「なんのことだ、モニ? 回復薬が効いたんだろ?」

 とぼけるトーカの前に、モニが跪いた。人目が少ない広場の端とはいえ、普通じゃない状況にトーカは慌てた。

「呪いを解けるなら、助けてほしいの」
「渡した駄賃で回復薬が買える」

 回復薬で呪いが解けないことを知りながら、モニの言う呪いの種類がわからないから、まずは回復薬を試すよう促すつもりだった。しかし、モニは首を横に振った。
 そして口調は、いままで子どもらしかったのが嘘のようだ。実際、同情を買いやすい可哀想な子どもを相手に合わせて選んでいたのだろう。街を把握する能力がとても高いのも、そもそもの頭がいいのだろう。

「ちがう、あたし、親はいないけど、妹がいるの。少し前から、黒い痣が足にできてずっと痛いって言って、スープもあんまり食べられなくなって、もう寝てばかりいるの。神官さまに願いしたけど、呪いを解くにはいっぱいお金がいるんだって」
「…………」

 モニの妹の件の真偽は別として、神殿に対する言い分が事実ならと、トーカは神殿に対して呆れた。神の御心だなんだのと言いながら、子どもも守らないのか。ヒメサマなら目の前で泣いている人間……とくに子どもを見捨てはしないだろう。
 それに、モニの妹が呪いに侵されているかどうかの確認もしたほうがいいはずだ。伝染するものだった場合は、街全体の問題になるというのに。
 どちらにしろ明日の朝食の約束をしたから、すぐにカフィラムに会うことになる。浮き足立って聞いたもの見たものを整理もせずに話すのは良くないと判断した。

「ねえ、お願い」
「とりあえず、妹はどこにいるんだ? 回復薬を買って持っていこう」
「あ、ありがとう!」
「報酬から引くから。モニは二日ただ働きだ」
「うん。なんでもする」
「なんでもとか言ったらだめだ。街の案内だけでいい」

 モニの台詞に込められた覚悟が、トーカには悲しかった。守ってくれる大人のいない世界は、幼い子に嫌な決断を迫る。

『つらいか? トーカ』
「少し。でも、生き物が死ぬのは仕方ない……」

 トーカの親が死んだことも、モニの親が死んだことも誰のせいでもない。保護者がいなければ野垂れ死ぬしかなかったトーカの状況と、神殿があって最低限の食事にありつけるモニの状況は違う。

『その通り。モニにも選択肢はあった。姉妹で孤児院に入ることもできた』
「なんで孤児院に入らなかったんだ」

 トーカの言葉が聞こえたモニが、足を止めて振り返った。

「家にいたかったの。お父さんとお母さんと暮らした家が良くて。でも、病気になってからじゃ、孤児院は入れないの」

 頭のいいモニのことだから、幼くても妹と二人で家に住み続けられる算段があったのかもしれない。

「こっち」

 案内された家は、入り口がどこにあるかもわからないほど入り組んだ住宅街だった。ドアがそこかしこにあり、一つの家の狭さが想像できた。
 大通りから見えた整然とした街の風景の中に、これほど雑然としたものが混ざっていることが不思議だった。雑然としているが、ドアには様々な色と模様が使われていて、明るい印象もあった。

「あら、モニかい。ずいぶん可愛くしてもらって。お客さんかい」
「うん。おばさん、ロニは?」
「変わりないよ」
「いつもありがと」
「いいのに」

 モニに声をかけた中年の女性は、優しげな言い方をしていたが、モニから小銭を受け取るとすぐに去っていった。

「昼間のロニ……妹の様子を見てもらってるの」
「ふぅん」

 モニが金を持ってくるから、おばさんとやらは親切ぶっているのだろう。モニの格好に言及したのは、彼女を支援する金持ちが現れたのか聞きたかったからだ。トーカは嫌な気持ちだった。
 トーカが一人になったとき、村長に生贄にするという打算があったにしろ優しくしてくれた。結局、ギリギリで生贄になどならなくていい逃げろと言ってもくれたのだ。

「おれは運が良かった」
『そうか? 神への生贄にならなければ、たとえば村長の娘と結婚して平凡で幸せな結果があったかもしれない』
「ヒメサマ……リナサナヒメトのつまはおれだよ。他の未来なんていらない」
『モニも流されるだけじゃない』
「うん」

 部屋は小さな食卓と椅子、寝台が二つあるだけだった。台所もない。
 そしてには静かに眠っている少女がいた。

「ロニ、ただいま。……一昨日から眠りっぱなしなの」
「ヒメサマ」
「ニャア」
「えっ、猫ちゃん?」

 すっかりモニに肩入れしてしまったトーカは、人目がなさそうなこともあって自重しないことにした。
 懐からヒメサマを出して、直接ロニの様子を見てもらう。

『足に呪いを受けたようだ。強いものじゃないが、幼い子どもには辛かっただろう』

 ヒメサミの声はモニにはにゃーにゃー言っているようにしか聞こえないが、ヒメサマは言うや否や、ロニの足の上を尻尾でふぁさ~と払った。

「う……ん、おねえ、ちゃん?」
「ロニ!!」

 姉妹の感動の対面にトーカはうるうると感動していると、ヒメサマが呟いた。

『トーカ、あれはオサヒグンラの呪いだ』
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。

忘れた名前の庭で

千葉琴音
BL
【凍てついた記憶を溶かすのは、不器用な守護者の体温】 「俺のことはルーカスでいい」 目覚めると、僕は自分の名前すら忘れていた。 唯一の肉親である兄・テオドールの死と同時に失われた記憶。無愛想な兄の友人ルーカスと共にゆっくりと兄の足跡を辿っていく。 厳格で甘いものが嫌いだった亡き兄・テオドール。彼が密かに弟のために植物図鑑を読み、内緒で菓子を買い与えていたという、口にされることのなかった真実。 ルーカスの語る「かつての自分」と、今の自分が少しずつ重なっていく中、アルノは因縁の魔獣の住む森へと足を踏み入れる。そこで彼が思い出したのは、独りで耐える術ではなく、誰かに抱きしめられて「息をする」方法だった。 孤独な少年と、彼を見守り続けた騎士。二人が雪解けの庭で見つける、新しい絆の物語。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。