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23 同じで違う
トーカは、中庸の地での真面目な勉強の合間に、護身術も習ったしいくつかの冒険譚も読んでいた。その中でも、主人公は善行をひけらかさないものだ、という一文が好きだった。だから、さっさとモニを連れてその場を離れた。
屋台で串刺しの肉焼きを買い、モニと広場の端に座って食べた。少し辛いソースと端がカリカリの肉がよく合っていて美味しかった。
モニは静かに俯いて食べていた。
食べ終わり、あまり時間が経っていないけれど、もう一度神殿にいくか悩んでいるとモニが呟いた。
「ねえ、さっきの。呪いを解いたの?」
「なんのことだ、モニ? 回復薬が効いたんだろ?」
とぼけるトーカの前に、モニが跪いた。人目が少ない広場の端とはいえ、普通じゃない状況にトーカは慌てた。
「呪いを解けるなら、助けてほしいの」
「渡した駄賃で回復薬が買える」
回復薬で呪いが解けないことを知りながら、モニの言う呪いの種類がわからないから、まずは回復薬を試すよう促すつもりだった。しかし、モニは首を横に振った。
そして口調は、いままで子どもらしかったのが嘘のようだ。実際、同情を買いやすい可哀想な子どもを相手に合わせて選んでいたのだろう。街を把握する能力がとても高いのも、そもそもの頭がいいのだろう。
「ちがう、あたし、親はいないけど、妹がいるの。少し前から、黒い痣が足にできてずっと痛いって言って、スープもあんまり食べられなくなって、もう寝てばかりいるの。神官さまに願いしたけど、呪いを解くにはいっぱいお金がいるんだって」
「…………」
モニの妹の件の真偽は別として、神殿に対する言い分が事実ならと、トーカは神殿に対して呆れた。神の御心だなんだのと言いながら、子どもも守らないのか。ヒメサマなら目の前で泣いている人間……とくに子どもを見捨てはしないだろう。
それに、モニの妹が呪いに侵されているかどうかの確認もしたほうがいいはずだ。伝染するものだった場合は、街全体の問題になるというのに。
どちらにしろ明日の朝食の約束をしたから、すぐにカフィラムに会うことになる。浮き足立って聞いたもの見たものを整理もせずに話すのは良くないと判断した。
「ねえ、お願い」
「とりあえず、妹はどこにいるんだ? 回復薬を買って持っていこう」
「あ、ありがとう!」
「報酬から引くから。モニは二日ただ働きだ」
「うん。なんでもする」
「なんでもとか言ったらだめだ。街の案内だけでいい」
モニの台詞に込められた覚悟が、トーカには悲しかった。守ってくれる大人のいない世界は、幼い子に嫌な決断を迫る。
『つらいか? トーカ』
「少し。でも、生き物が死ぬのは仕方ない……」
トーカの親が死んだことも、モニの親が死んだことも誰のせいでもない。保護者がいなければ野垂れ死ぬしかなかったトーカの状況と、神殿があって最低限の食事にありつけるモニの状況は違う。
『その通り。モニにも選択肢はあった。姉妹で孤児院に入ることもできた』
「なんで孤児院に入らなかったんだ」
トーカの言葉が聞こえたモニが、足を止めて振り返った。
「家にいたかったの。お父さんとお母さんと暮らした家が良くて。でも、病気になってからじゃ、孤児院は入れないの」
頭のいいモニのことだから、幼くても妹と二人で家に住み続けられる算段があったのかもしれない。
「こっち」
案内された家は、入り口がどこにあるかもわからないほど入り組んだ住宅街だった。ドアがそこかしこにあり、一つの家の狭さが想像できた。
大通りから見えた整然とした街の風景の中に、これほど雑然としたものが混ざっていることが不思議だった。雑然としているが、ドアには様々な色と模様が使われていて、明るい印象もあった。
「あら、モニかい。ずいぶん可愛くしてもらって。お客さんかい」
「うん。おばさん、ロニは?」
「変わりないよ」
「いつもありがと」
「いいのに」
モニに声をかけた中年の女性は、優しげな言い方をしていたが、モニから小銭を受け取るとすぐに去っていった。
「昼間のロニ……妹の様子を見てもらってるの」
「ふぅん」
モニが金を持ってくるから、おばさんとやらは親切ぶっているのだろう。モニの格好に言及したのは、彼女を支援する金持ちが現れたのか聞きたかったからだ。トーカは嫌な気持ちだった。
トーカが一人になったとき、村長に生贄にするという打算があったにしろ優しくしてくれた。結局、ギリギリで生贄になどならなくていい逃げろと言ってもくれたのだ。
「おれは運が良かった」
『そうか? 神への生贄にならなければ、たとえば村長の娘と結婚して平凡で幸せな結果があったかもしれない』
「ヒメサマ……リナサナヒメトの夫はおれだよ。他の未来なんていらない」
『モニも流されるだけじゃない』
「うん」
部屋は小さな食卓と椅子、寝台が二つあるだけだった。台所もない。
そしてには静かに眠っている少女がいた。
「ロニ、ただいま。……一昨日から眠りっぱなしなの」
「ヒメサマ」
「ニャア」
「えっ、猫ちゃん?」
すっかりモニに肩入れしてしまったトーカは、人目がなさそうなこともあって自重しないことにした。
懐からヒメサマを出して、直接ロニの様子を見てもらう。
『足に呪いを受けたようだ。強いものじゃないが、幼い子どもには辛かっただろう』
ヒメサミの声はモニにはにゃーにゃー言っているようにしか聞こえないが、ヒメサマは言うや否や、ロニの足の上を尻尾でふぁさ~と払った。
「う……ん、おねえ、ちゃん?」
「ロニ!!」
姉妹の感動の対面にトーカはうるうると感動していると、ヒメサマが呟いた。
『トーカ、あれはオサヒグンラの呪いだ』
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