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幕間2

別荘にて(前)

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 榊原の実家は資産家だ。
 別荘を持っている。山奥の別荘は、普段は近隣に住む管理人さんが整備してくれているので、連絡さえすればいつでも使えるようになっている。
 俺も幼い頃に一度だけ行ったことがある。
 敷地内の川で転んで水浸しになったのを、「鈍くさい」と父に叱られた。その後、兄が着替えさせてくれた。弟妹は小さすぎて母親が見ていた。
 父に叱られたのは悲しかったけれど、兄が半泣きの俺に飴をくれたのが嬉しかった。小さな頃から表情の出ない人だったけど、頭にポン、と手を乗せるのが慰めの表現だった。懐かしい。
 家族の思い出はあまり楽しいものではないけれど、ちゃんと良いこともあった。すっかり忘れていた。


 ◇


 兄夫婦と偶然長期休暇が被った年、二家族合同で別荘を提案された。
 うちの子供達は七歳、兄のところは五歳の男の子と四歳の女の子だ。

「長期休暇っていっても、俺、普段子供の面倒なんて見てないからわかんないんだよね」

 諒さんは「子育ては外注!」と言い切っている。
 子供達に愛情がない訳ではなくて、子供の世話にどうしても興味が持てないらしい。最初は育休を取って、しばらく子供の面倒を見ようとしたらしいんだが、二人目の育休が開ける前に仕事に復帰した。限界だったらしい。その時に「一生分の子育てをした」と言っていて、相当辛かったようだ。

 兄の家は裕福なので、厳選された家政婦とベビーシッターと保育園で子供たちはすくすくと育っている。諒さんも兄も家にいる時は子供と積極的に遊んで、スキンシップは取っているそうだ。子供達も、親は遊んでくれるもの、世話はシッターか家政婦がしてくれるものと割り切っているので問題はない。
 けれど、兄と諒さんが同時に長期で休めることになって喜んだはいいものの、子供の世話をどうするかという問題が起きたらしい。
 家族で旅行に行きたいけれど、子供たちはいつものシッターか家政婦でないと受け付けない。でもその二人もたまには長期休暇が欲しい。そういう事情もあって、両親とも休みならたまには面倒見てみてくださいと家政婦さんに言われたらしい。そして我が家に白羽の矢が立った。

「健吾、お願い。一緒に来て。ご飯作って。ちゃんとバイト代出すから!」

「バイト代はいいよ。でも食費とか滞在中の費用をお願いしてもいい?」

「もちろん!」

「あんまり祐志いじめないでね」

「……はーい」

「ありがとう、諒さん」

 諒さんは祐志と合わないと言い切って、会うと小さな嫌がらせをする。
 祐志の椅子にウンコの絵のシールを粘着面を上にして置いて、尻にくっついたら「ウンコ野郎」と揶揄ったり、炭酸系の飲み物を渡す時に念入りに振っておいたり、他愛もないものばかりだけれど、会ったら一回は何かしないと気が済まないようなので少し困るのだ。
 祐志は苦笑しながらやられっぱなしに甘んじている。不思議な関係だ。
 俺は裕志が嫌がらせされているといい気分にはなれない。諒さんは好きだけど、裕志といる時はあまり好きじゃない。滅多に二人が顔を合わせることはないから普段は忘れているのだけど。


 ◇


 インターから下りて、山道を三十分ほど行った場所に別荘はある。
 食料はある程度持ってきて、残りは明日宅配が届く予定だ。蛇行する山道で、光一は酔ってしまってぐったりしている。吐いたりはしていないが、念のためと啓一がビニール袋を光一の口元へ当ててくれている。啓一は相変わらずしっかりしている。数分の差とは言え、先に生まれたからお兄ちゃんなのかもしれない。
 別荘へ着けば、光一は突然元気になって走ろうとして啓一に捕まっていた。街育ちで山道に慣れてないのに未舗装の道を走るとか、転んでしまう未来しか見えないから啓一の判断に感謝だ。
 兄一家は少し前に着いたと連絡があった。

「けーちゃん!」

 別荘から転がり落ちるように男の子が駆けだしてきた。
 兄のところの上の子、はじめだ。
 彼は啓一がすごく好きで、よく光一と啓一の取り合いをしている。今も、光一が啓一に抱き着いて「しっしっ」と肇を追い払おうとしているが、肇も慣れていて負けてない。

「こーちゃんはいっつも一緒なんだから、あっち行ってよ!」
「光一、やめなさい」

 肇より光一の方がお兄ちゃんだからと窘めると不満そうに口をとがらせている。普段、それほど啓一に執着しないけれど、取られると思うと惜しくなるようだ。啓一は二人の攻防をニコニコして見ている。どちらに見方してもあとが面倒だということを良くわかっている。
 一緒に生まれたのにこの差はなんだろう……。

 玄関からちらっと覗いているのは、肇の妹の陽菜ひなちゃんだ。
 肇はどちらかというと兄に似ているが、陽菜ちゃんは諒さんのミニチュアみたいで滅茶苦茶可愛い。兄も諒さんも二人で陽菜ちゃんを飾りまくっているから、いつもお姫様みたいになっている。

「こんにちは、陽菜ちゃん」
「こんにちは」

 ててて、と言いたくなるような可愛らしい歩き方で、俺のところへ来て抱き着いてきた。
 抱き上げると、軽くて人形みたいだ。俺も諒さんも男だから、二家族いても唯一の女の子でとにかく可愛い。

「陽菜ちゃん、今日もかわいいね」
「健吾さん、可愛いじゃなくて、きれいって言ってほしいの」
「それは失礼しました。今日も綺麗だね」
「ふふ。どういたしまして」

 女の子ってませてるなあ。
 陽菜ちゃんは啓一と光一よりも俺に懐いている。
 ひたすら絵本を読んであげたり、一緒に料理をさせてあげているだけだけど、それが良いようだ。

 肇も陽菜ちゃんも、もう少し小さい頃はよくうちに預けられていたから、普通の甥姪以上実子未満って感じだ。
 陽菜ちゃんは、今は俺のお嫁さんになりたいなんて言ってるけど、いつか嫁に行っちゃうんだよな。涙が出そうだ。最近は「祐志とリコンして私とケッコンして」なんて言い出していて、ませっぷりに磨きがかかっている。大人になって変な男を連れてきたら許せない自信がある。それは親族全員の総意だろうけど。

「健吾、いらっしゃい。入って入って」
「祐志もよく来たな」
「お邪魔します」
「よろしくお願いします」

 諒さんと兄が出て来た。
 久しぶりに兄のスーツ以外の服を見た。兄を見つけた光一が「おじさんこんにちは!」と飛びついていく。
 光一は兄が好きなんだよな。兄も光一を掴んでぶんぶん振り回してあげて、そのまま飛んでった。と思ったら、ちゃんと落ち葉の積もってるとこだったみたいで、落ち葉に埋もれて光一が大笑いしていた。
 それを見た啓一と肇も兄に飛びついていく。

 ひとしきり兄による子供投げが行われ、別荘の休暇が始まった。
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