30 / 44
幕間2
引っ越し作業(後)
しおりを挟む胃がキリキリと痛む。
引っ越しは明日だ。
ほとんどの荷物はダンボールに詰めた。
俺のクローゼットの奥には宝箱がそのままにしてある。このまま放置していきたい。
でも放置したら、引っ越し業者に見られてしまうかもしれない。次の住人が見つけるかもしれない。
普通に考えて、中身を確認しないはずがない。
食欲の失せた俺を健吾が心配している。でも健吾に失望されたくない。
あんなオモチャで健吾をどうこうしたいなんて思った事は……ない。多分。ないと思う。ない……。
この家での最後の夜だ。
感動的なはずなのに俺は何をしているんだろう。
「祐志、全部荷造りできた?」
「……ああ」
「どうした? なんか詰めにくいものでもあった?」
「あっ!?」
健吾が俺のクローゼットを開けてしまった。
一つ残された宝箱がまるでスポットライトでも当たっているかのように、チープな輝きを放っている。
「宝箱?」
「そ、それは」
「どっかで見たような……」
「え?」
「あーっ、懐かしい!」
え、何?
まさか健吾だったの?
いや、そうだよな。俺じゃなかったら健吾しかいないよな。
「昔、友達のとこから貰ったんだよ。面白そうだったから!」
「と、友達?」
「うん。桐生院浩君。家庭内のトラブルになりかけてたから引き取ってきたんだ」
「え、誰かの使用済み?」
色々衝撃過ぎて何に反応していいかわからない。
「使用済みっていえば使用済みかな?」
「え」
「俺も使ってみたよ。意外に良かった」
「えー……」
誰かと共有したの?
まさかの不倫発覚……。
涙が出た。
「えっ!? 祐志何泣いてるの!?」
「健吾が、不倫……うっ」
「あっ! 違う! 違うよ祐志!」
「だってそれを誰かと使って気持ち良かったって」
「浩君だって。浩君が旦那さんのクローゼットから発見して、ブルブルするから肩こり用のマッサージ器的に使ったの! 俺も肩に当ててみただけ!」
健吾が何を言ってるのかわからない。
涙が止まらない。
健吾それ大人のオモチャだよ。
ブルブルするって、それは入れてからブルブルさせるんだろ?
「えっと、初めは、桐生院さんが友達に結婚祝いで貰ったんだって。でも浩に使えないからしまいこんでたのを浩が見つけて、興味本位で動かしてみたの! 振動がマッサージに良さそうだったから肩こりに使ってみたんだよ。ここからは俺も意味不明なんだけど、散歩中に宝箱をリサイクルショップで買って、これを入れておいたんだって。旦那さんへの悪戯だったらしいよ! でもそれで旦那さんも混乱して揉めそうになってたから、俺が引き取ってきたの! ちょっと面白かったから祐志のクローゼットに仕込んで、忘れてた! ごめん!」
健吾が珍しくまくし立てるように話した。桐生院家はご主人が和久さんの同窓で、世間知らずのオメガの奥さんがいるから健吾に友達になってほしいとか言われて仲良くなっていたやつだろう。あちらは子沢山で忙しいから、たまに健吾が遊びに行っているだけだ。
訳がわからないけど、健吾の勢いで涙は止まった。
とりあえず、入れてないらしい。
「もしかしてこれのせいで食欲なかった?」
「うん……」
「ごめん。祐志。楽しい引っ越しになるはずだったのに」
「いや……俺が見つけてすぐに健吾に聞けば良かったんだ。健吾じゃなかったらどうしようとか、子供達だったらどうしようとか無駄に考えすぎてたよ……」
「祐志……あ」
健吾が俺の頭を抱きしめて、声をあげた。
「なに?」
「ごめん……ごめん祐志。十円ハゲが、できてる」
25
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
落ちこぼれβの恋の諦め方
めろめろす
BL
αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。
努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。
世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。
失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。
しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。
あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?
コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。
小説家になろうにも掲載。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
【完結】選ばれない僕の生きる道
谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。
選ばれない僕が幸せを選ぶ話。
※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです
※設定は独自のものです
※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる