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二人が王宮から姿を消した三日後。二人は小さな教会を訪れていた。そこにいたのは聖女フィオーレ、そして……
「お兄ちゃん! ヴィンス!」
満面の笑顔で駆け寄る修道女。それはマリカだった。その後ろには何人もの修道女が膝をついて二人を出迎えていた。
「マリカ!! 元気そうで良かった! えっと、ごめんな、来るのが遅くなって」
三日も訪れなかった理由は、二人が少々ハメを外したせいなのだが、イライジャは理由を言えずに口籠った。
「ふふふ……良いの。私、お兄ちゃんとヴィンスが幸せになって嬉しい。それに、私の方こそごめんね、お兄ちゃん……」
微笑みから一転、瞳に涙が浮かぶマリカ。
「マリカさん、中でお茶でも飲みながらお話ししましょう。皆さんも、それからお二方にお話をしたらいいわ」
「はい、フィオーレ様……」
マリカはうなずき、二人も教会の一室に通された。跪いていたのは、やはりハーピーにされていた女性達だった。口々に蛮行を止めてくれた事への感謝と、贖罪をしていくと告げて下がっていった。
「ヴィンス、お兄ちゃんはさ、私を助けようとしてあんなことになったの。ビュリナダは、初めから私を返す気がなかったのよ、きっと。だから、村が焼けたのは私のせいよ……」
ハラハラと涙をこぼすマリカの髪を、ヴィンスは優しく撫でた。
「全部あいつが悪いんだ。多分、俺に魔王やライバルを殺させて、自分が魔王になるつもりだったんだ。みんな利用されていた。みんな洗脳状態で逆らえなかったんだよ」
「でも、たくさん殺してしまったわ。たまに意識が戻ったけど、自分がしたことを知って、無意識に意識を封じて逃げてた。だから……一生をかけて償うって決めたの」
「そうか……たまに会いに来ても良いよな?」
「もちろんよ! それと、お兄ちゃんのこと、よろしくね。ずっと片想いしてたんだから!」
「マリカ!!」
突然話を振られたイライジャはオロオロしながらマリカの口を塞ぐ。
「ずっと? ――それは聞いてないな」
チラリとイライジャを見るヴィンスの視線は熱が籠っていた。
「別に、そんなの良いだろ!」
「ふぅ~ん。まぁ、どんな手を使ってでも聞き出すから良いけど?」
ヴィンスがニヤリとすると、イライジャは真っ赤になって口をつぐんだ。言葉の奥には情欲が滲んでいる。
だが、彼はスッと勇者の顔に切り替えてフィオーレに視線を移す。
「フィーもみんなを面倒見てくれてありがとうな。運営資金は心配しなくて良いから」
「ありがとう。遠慮なく受け取るわ。そういえば、アキリ様がずっと探しているわよ? 約束通り住所は教えていないけど……忠臣に冷たいんじゃない?」
「あいつがいると、殿下って呼ばれるのが嫌なんだ。俺はただのヴィンスで良いからさ。フィーだって、思いを寄せてた修道士とどうなったんだ?」
「私達は、同僚のままでいいの。この身は神に捧げているけど……誰かを愛する心をなくさない方が、強い心で人々を癒せると悟ったわ。だからあの旅に耐えられたのよ」
聖女は、処女であることが必須条件だ。密かに同僚への恋心を抱えていた彼女は、ヴィンスに旅が終わったら聖女の名を返上したいと相談をしていた。
だが、危険な旅で出会った人々との出会いで確信したのだ。愛を知るから、人々を救えるのだと。
「イライジャさん。いつもヴィンスに相談されていたのよ? イーラは、イーラはって……。これからは二人でちゃんと話し合ってくださいね」
「えっ?!」
「フィー!」
ヴィンスも悩んでいたと暴露し、フィオーレはコロコロと鈴が鳴るような笑い声を上げた。
そして、イライジャも驚きを隠せずにいた。
「ヴィンスは悩みなんかないと思ってた」
「なんだよ。筋肉バカだと思ってたのか?」
「違うって! だって、ヒーローは悩みなんかないと、思っ……て」
「へぇ。ヒーロー?」
「……」
イライジャはうっかり本音が溢れて赤面する。
「そうだよ。俺だけのヒーローだったのにって……あの時思ってた」
勇者判定をされた日。自分の手の中から離れてしまうと嘆いた。そんな自分が恥ずかしかった。でも、今は……
「俺は、ずっとイーラのヒーローでいられるように頑張る」
ヴィンスは太陽の如き笑顔でイライジャを抱きしめた。腕の中に閉じ込められたイライジャも満面の笑みに違いない。
「もう! いちゃつくのは自宅に帰ってからにして!!」
マリカが口を尖らせ二人を引き剥がし、また笑い声が上がる。
灰の中から、それぞれが新しい道を歩き出す。
絶望から這い上がった彼らに、恐れるものはもう何もなかった。
★★
どシリアスでしたがハピエンです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
「お兄ちゃん! ヴィンス!」
満面の笑顔で駆け寄る修道女。それはマリカだった。その後ろには何人もの修道女が膝をついて二人を出迎えていた。
「マリカ!! 元気そうで良かった! えっと、ごめんな、来るのが遅くなって」
三日も訪れなかった理由は、二人が少々ハメを外したせいなのだが、イライジャは理由を言えずに口籠った。
「ふふふ……良いの。私、お兄ちゃんとヴィンスが幸せになって嬉しい。それに、私の方こそごめんね、お兄ちゃん……」
微笑みから一転、瞳に涙が浮かぶマリカ。
「マリカさん、中でお茶でも飲みながらお話ししましょう。皆さんも、それからお二方にお話をしたらいいわ」
「はい、フィオーレ様……」
マリカはうなずき、二人も教会の一室に通された。跪いていたのは、やはりハーピーにされていた女性達だった。口々に蛮行を止めてくれた事への感謝と、贖罪をしていくと告げて下がっていった。
「ヴィンス、お兄ちゃんはさ、私を助けようとしてあんなことになったの。ビュリナダは、初めから私を返す気がなかったのよ、きっと。だから、村が焼けたのは私のせいよ……」
ハラハラと涙をこぼすマリカの髪を、ヴィンスは優しく撫でた。
「全部あいつが悪いんだ。多分、俺に魔王やライバルを殺させて、自分が魔王になるつもりだったんだ。みんな利用されていた。みんな洗脳状態で逆らえなかったんだよ」
「でも、たくさん殺してしまったわ。たまに意識が戻ったけど、自分がしたことを知って、無意識に意識を封じて逃げてた。だから……一生をかけて償うって決めたの」
「そうか……たまに会いに来ても良いよな?」
「もちろんよ! それと、お兄ちゃんのこと、よろしくね。ずっと片想いしてたんだから!」
「マリカ!!」
突然話を振られたイライジャはオロオロしながらマリカの口を塞ぐ。
「ずっと? ――それは聞いてないな」
チラリとイライジャを見るヴィンスの視線は熱が籠っていた。
「別に、そんなの良いだろ!」
「ふぅ~ん。まぁ、どんな手を使ってでも聞き出すから良いけど?」
ヴィンスがニヤリとすると、イライジャは真っ赤になって口をつぐんだ。言葉の奥には情欲が滲んでいる。
だが、彼はスッと勇者の顔に切り替えてフィオーレに視線を移す。
「フィーもみんなを面倒見てくれてありがとうな。運営資金は心配しなくて良いから」
「ありがとう。遠慮なく受け取るわ。そういえば、アキリ様がずっと探しているわよ? 約束通り住所は教えていないけど……忠臣に冷たいんじゃない?」
「あいつがいると、殿下って呼ばれるのが嫌なんだ。俺はただのヴィンスで良いからさ。フィーだって、思いを寄せてた修道士とどうなったんだ?」
「私達は、同僚のままでいいの。この身は神に捧げているけど……誰かを愛する心をなくさない方が、強い心で人々を癒せると悟ったわ。だからあの旅に耐えられたのよ」
聖女は、処女であることが必須条件だ。密かに同僚への恋心を抱えていた彼女は、ヴィンスに旅が終わったら聖女の名を返上したいと相談をしていた。
だが、危険な旅で出会った人々との出会いで確信したのだ。愛を知るから、人々を救えるのだと。
「イライジャさん。いつもヴィンスに相談されていたのよ? イーラは、イーラはって……。これからは二人でちゃんと話し合ってくださいね」
「えっ?!」
「フィー!」
ヴィンスも悩んでいたと暴露し、フィオーレはコロコロと鈴が鳴るような笑い声を上げた。
そして、イライジャも驚きを隠せずにいた。
「ヴィンスは悩みなんかないと思ってた」
「なんだよ。筋肉バカだと思ってたのか?」
「違うって! だって、ヒーローは悩みなんかないと、思っ……て」
「へぇ。ヒーロー?」
「……」
イライジャはうっかり本音が溢れて赤面する。
「そうだよ。俺だけのヒーローだったのにって……あの時思ってた」
勇者判定をされた日。自分の手の中から離れてしまうと嘆いた。そんな自分が恥ずかしかった。でも、今は……
「俺は、ずっとイーラのヒーローでいられるように頑張る」
ヴィンスは太陽の如き笑顔でイライジャを抱きしめた。腕の中に閉じ込められたイライジャも満面の笑みに違いない。
「もう! いちゃつくのは自宅に帰ってからにして!!」
マリカが口を尖らせ二人を引き剥がし、また笑い声が上がる。
灰の中から、それぞれが新しい道を歩き出す。
絶望から這い上がった彼らに、恐れるものはもう何もなかった。
★★
どシリアスでしたがハピエンです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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