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「その顔、やはり思い当たる節があるようだな。……おのれあの男、なんの罪もないメリエッダの心を自分の都合で傷つけた上に、あまつさえこき使っていただと? 我が家のサポートなくしては家の維持すら難しい貧乏貴族のくせに」

 父はそう吐き捨てるように言ったあと、私の顔を見ました。
 なんでしょう、ダズのことを見過ごしていた私も怒られるのでしょうか?
 普段は優しい父ですが、ことお金の話になればとても怖いのです。

「……すまなかった、メリエッダ。向こうでお前がそんな酷い目にあっているとは思わなかった。新規事業開拓に際し、わたしがあんな落ち目の家でも貴族の後ろ盾を欲しがったばっかりにこんなことになってしまった。あの時きっぱりと断っておけば、お前が悲しい思いをする必要もなかったというのに」

 おや、意外な反応です。
 叱られなくて安心しましたが、だからといって父から謝罪されるようなことはありません。
 むしろ、ある意味彼も被害者なのですから。

「顔を上げてくださいお父様。私のことなら気にしておりませんから。それにダズ様から婚約破棄されたことも、不思議とそこまで悲しくはないのです」

 むしろなるべくしてなったというか、きっと心のどこかではこうなることを予期していたのかもしれません。

 そもそもこの婚約自体私が少しでも父のお役に立ちたくて決意したことで、ダズには本当に申し訳ないのですが、彼にはまったく気がありませんでした。

 ゆえに初夜を過ごすことなく純血を保ったまま別れることができるのであれば、まだ傷は浅いといえます。

「そうか、お前が平気ならそれでいい。慰謝料の件も含めてあとのことは父に任せておきなさい。あの男にはきちんと責任を取らせてやるからな」

 あっ、これは本気になった時の父の目です。
 こうなってしまえば最後、地獄の底までお金を取り立てに行く修羅と化すのです。
 父の逆鱗に触れたダズのある意味自業自得だとは思いますが、今回標的となった彼に数日後私はちょっとした同情を寄せることになるのでした。
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