14 / 16
救済ルート
12
ある秘め事? まさかそれって……。
「……っ⁉ おい待てお前、なにを口にする気だ。僕の名誉に関わることだって? これ以上面倒を招く発言は許さないぞ!」
「口を閉じなさいマッディ。反論があるのなら、まずは彼女の話を聞いてからにして。コルダータも私たちに遠慮することはないわ」
突然慌て始めた彼を右手で制し、コルダータに発言を促す。
「お心遣い痛み入ります。――わたくしが今から申し上げることは、十年前のことについてです」
それにしても、このタイミングでコルダータがあの日のことについて語り始めるだなんて。
「ロアンナと同じように十年前にこの場所で水難事故に遭われたアンティーラ様のことを想うと、今でも胸が締めつけられます。わたくしが近くにいながら、どうしてあのような怖い目に遭わせてしまったのかと。主を放置するなど侍女失格だと言われれば返す言葉もありません。ですが……」
そこまで話したところで、コルダータの疑念のまなざしがマッディに向けられる。
「あの時わたくしはたまたまその場に居合わせたマッディ様からアンティーラ様と二人きりにするように申し付けられたのです」
コルダータの言うようにマッディと二人きりで遊んだ記憶はあるけど、まさか裏でそんな事情があったとはね。
「当時侍女としての経験が浅かったわたくしは、貴族のご子息様からのお申し付けに反することはできませんでした。そして言われるがまま指示に従った直後、あの忌まわしい事故が起きました」
「うっ……!」
横目でマッディの目が泳ぐのを確認する。
告発の内容に明らかに動揺しているみたい。
「た、確かに二人きりにしろとは言ったが……、まさかお前、僕がやったとでも言うのか?」
「いえ、実際にその瞬間を目撃したわけではないので断言は出来かねます。……しかし、この状況はロアンナのそれとあまりに酷似していると思いませんか? そして彼女は貴方様に湖に突き飛ばされたと言っています。ですから疑う余地は十分あるかと」
カチリとパズルのピースがはまる感覚に陥る。
コルダータの言うように私とロアンナで色々と似通っている部分が多い。
直前までで現場での目撃者はおらず、いずれもマッディと二人きりの時に溺れているのは偶然と呼ぶにはあまりに都合が良すぎる。
「ふ、ふざけるな! お前、ロアンナの話に便乗して僕を陥れるつもりだろう⁉ 自分のミスを僕に責任転嫁しようたってそうはいかないぞ! ねえアンティーラ、君なら分かってくれるだろう⁉ 僕はやってないって、無実だって!」
悪いけど、嘘つきな貴方とコルダータなら自分の侍女のことを信じるわマッディ。
でもそれ以上に、コルダータとロアンナの証言のおかげで私の中に一つの答えが産まれるのよ。
「……あの時のことは今でもたまに夢に見るわ。そしてずっと疑問に思っていた、どうして私は足を滑らせてしまったのかと」
「だからそれはただの不幸な事故で――」
「いいえマッディ、貴方が私を事故に見せかけて湖に突き飛ばしたのよね? 水の中へ落ちる直前に私は両手を前に突き出している貴方の姿を見たわ。これまではずっと自分の記憶違いだと思っていたけど、そうじゃなかったのね」
本音を言えば彼には否定してほしかった。
そうじゃない、あれは本当にただの不幸な事故だったと。
これまでずっと嘘をつかれていたものの、唯一そこだけは嘘であってほしかった。
けれどもマッディの返答は残念ながら私が期待していたものではなく。
「――ああそうだよアンティーラ、君を湖に突き飛ばしたのは僕だ。まったく、気づかない振りをしていればいいものの」
とうとう、己の行為を認めた。
憎々しげに顔を歪めながら、私を――正確には私の両側に視線を左右させながら吐き捨てる。
「それもこれもロアンナ、お前がさっさと死んでいれば良かったんだ。……いや、それを言ったらそこのお喋りな使用人もいなけりゃ秘密がバレずに済んだのに。ちっ、ああもうクソが! これで僕の計画が全部水の泡だ!」
これまで見せたことのない醜悪な表情で二人を罵る様は、私がこれまで抱いていたマッディへの人物像を完全に崩壊させるに十分過ぎた。
「お前も黙って騙されていればよかったんだよ、アンティーラ! そうすればお互いに幸せだったのに!」
「ふざけないで! 貴方の身勝手な行いのせいで私だけでなくコルダータがどんな目に遭ったのか理解しているの⁉」
「は? そんなの僕が知るかよ!」
言わずにはいられなかった。
こんな酷い男のせいでコルダータはいたずらに信用を傷つけられ、それから消せない傷まで負う羽目になるだなんて彼女からしてみればあまりに理不尽過ぎる。
「……貴方、絶対に許さないわ」
「……っ⁉ おい待てお前、なにを口にする気だ。僕の名誉に関わることだって? これ以上面倒を招く発言は許さないぞ!」
「口を閉じなさいマッディ。反論があるのなら、まずは彼女の話を聞いてからにして。コルダータも私たちに遠慮することはないわ」
突然慌て始めた彼を右手で制し、コルダータに発言を促す。
「お心遣い痛み入ります。――わたくしが今から申し上げることは、十年前のことについてです」
それにしても、このタイミングでコルダータがあの日のことについて語り始めるだなんて。
「ロアンナと同じように十年前にこの場所で水難事故に遭われたアンティーラ様のことを想うと、今でも胸が締めつけられます。わたくしが近くにいながら、どうしてあのような怖い目に遭わせてしまったのかと。主を放置するなど侍女失格だと言われれば返す言葉もありません。ですが……」
そこまで話したところで、コルダータの疑念のまなざしがマッディに向けられる。
「あの時わたくしはたまたまその場に居合わせたマッディ様からアンティーラ様と二人きりにするように申し付けられたのです」
コルダータの言うようにマッディと二人きりで遊んだ記憶はあるけど、まさか裏でそんな事情があったとはね。
「当時侍女としての経験が浅かったわたくしは、貴族のご子息様からのお申し付けに反することはできませんでした。そして言われるがまま指示に従った直後、あの忌まわしい事故が起きました」
「うっ……!」
横目でマッディの目が泳ぐのを確認する。
告発の内容に明らかに動揺しているみたい。
「た、確かに二人きりにしろとは言ったが……、まさかお前、僕がやったとでも言うのか?」
「いえ、実際にその瞬間を目撃したわけではないので断言は出来かねます。……しかし、この状況はロアンナのそれとあまりに酷似していると思いませんか? そして彼女は貴方様に湖に突き飛ばされたと言っています。ですから疑う余地は十分あるかと」
カチリとパズルのピースがはまる感覚に陥る。
コルダータの言うように私とロアンナで色々と似通っている部分が多い。
直前までで現場での目撃者はおらず、いずれもマッディと二人きりの時に溺れているのは偶然と呼ぶにはあまりに都合が良すぎる。
「ふ、ふざけるな! お前、ロアンナの話に便乗して僕を陥れるつもりだろう⁉ 自分のミスを僕に責任転嫁しようたってそうはいかないぞ! ねえアンティーラ、君なら分かってくれるだろう⁉ 僕はやってないって、無実だって!」
悪いけど、嘘つきな貴方とコルダータなら自分の侍女のことを信じるわマッディ。
でもそれ以上に、コルダータとロアンナの証言のおかげで私の中に一つの答えが産まれるのよ。
「……あの時のことは今でもたまに夢に見るわ。そしてずっと疑問に思っていた、どうして私は足を滑らせてしまったのかと」
「だからそれはただの不幸な事故で――」
「いいえマッディ、貴方が私を事故に見せかけて湖に突き飛ばしたのよね? 水の中へ落ちる直前に私は両手を前に突き出している貴方の姿を見たわ。これまではずっと自分の記憶違いだと思っていたけど、そうじゃなかったのね」
本音を言えば彼には否定してほしかった。
そうじゃない、あれは本当にただの不幸な事故だったと。
これまでずっと嘘をつかれていたものの、唯一そこだけは嘘であってほしかった。
けれどもマッディの返答は残念ながら私が期待していたものではなく。
「――ああそうだよアンティーラ、君を湖に突き飛ばしたのは僕だ。まったく、気づかない振りをしていればいいものの」
とうとう、己の行為を認めた。
憎々しげに顔を歪めながら、私を――正確には私の両側に視線を左右させながら吐き捨てる。
「それもこれもロアンナ、お前がさっさと死んでいれば良かったんだ。……いや、それを言ったらそこのお喋りな使用人もいなけりゃ秘密がバレずに済んだのに。ちっ、ああもうクソが! これで僕の計画が全部水の泡だ!」
これまで見せたことのない醜悪な表情で二人を罵る様は、私がこれまで抱いていたマッディへの人物像を完全に崩壊させるに十分過ぎた。
「お前も黙って騙されていればよかったんだよ、アンティーラ! そうすればお互いに幸せだったのに!」
「ふざけないで! 貴方の身勝手な行いのせいで私だけでなくコルダータがどんな目に遭ったのか理解しているの⁉」
「は? そんなの僕が知るかよ!」
言わずにはいられなかった。
こんな酷い男のせいでコルダータはいたずらに信用を傷つけられ、それから消せない傷まで負う羽目になるだなんて彼女からしてみればあまりに理不尽過ぎる。
「……貴方、絶対に許さないわ」
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、面倒なので全部放置します
かきんとう
恋愛
王都の大広間に、どよめきが広がった。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、何百もの蝋燭の光を反射し、きらきらと輝いている。その光の中心に立つ私は、妙に他人事のような気分で、その場の空気を眺めていた。
「エレノア・フォン・リーベルト! 私は貴様との婚約をここに破棄する!」
高らかに宣言したのは、第一王子であり私の婚約者でもあったアルベルト殿下だった。
周囲の貴族たちが一斉に息を呑み、次の瞬間には小声のざわめきが連鎖のように広がっていく。
――ああ、ついに来たのね。
[完結]離婚したいって泣くくらいなら、結婚する前に言ってくれ!
h.h
恋愛
「離婚させてくれぇ」「泣くな!」結婚してすぐにビルドは「離婚して」とフィーナに泣きついてきた。2人が生まれる前の母親同士の約束により結婚したけれど、好きな人ができたから別れたいって、それなら結婚する前に言え! あまりに情けなく自分勝手なビルドの姿に、とうとう堪忍袋の尾が切れた。「慰謝料を要求します」「それは困る!」「困るじゃねー!」
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。