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05.教育係はまさかのメイド⁉

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「国王陛下並びに王妃殿下、この度は私のような身分の者にも拝見の機会を設けていただきまして心より感謝申し上げます」

 お二人にかしづいて挨拶を済ませたメイドはすっと立ち上がると、続けて今度は私の方に体を向けてふわりと、まったく不自然さを感じさせない所作でカーテシーを行った。

「そしてアースター侯爵家のご令嬢イーリス様におかれましてはお初にお目にかかります。私は、流れのメイドを一人名乗らさせていただいているメリーヌタと申します」

 メリーヌタと名乗った女性は、とてもメイドにしておくには勿体ないほどの気品と美貌の持ち主だった。
 ただその表情は喜怒哀楽に乏しく、まるで氷の彫像をそのまま削ったかのような印象を受ける。
 しかし私がそれよりも気になったのは、彼女が発したこの一言。

「流れのメイド? 聞いたことのない呼称ね」

「はい、特定の主を持たず、ご依頼があればどこにでも赴いてその都度ご契約をさせていただいている出張版使用人メイド・オブ・オール・ワークのような者とお考えください」

 ということは炊事や客人の応対といった一通りの雑務をすべて一人で行う、いわば万能型メイドということか。

「イーリス、そなたは隣国のカドニスタフ王女を知っておるか?」

「ええ、存じております。直接お会いしたことはもちろんございませんが」

 カドニスタフ王女といえばこの国でも悪い意味で有名なお方だ。
 まるでバイドル様を女性にしたような性格で、数々の貴族ご子息と浮名を流したあげくに父親も分からない子供を身ごもったという。
 にも関わらず男遊びはやめなかったというから驚きだ。
 それでついたあだ名が国傾くにかぶきのお転婆王女バカドニスタフ

「あれもなかなかの親不孝者であってな、今なら懇意にしている隣国の王の気苦労もよく分かる。なにせ前に顔を合わせた時はやつれておったからなあ」

 うわあ、よく感情がこもっておられる。

「しかし、最近では以前の姿とは見違えるように落ち着かれたとお聞きしましたが……」

「そうなのだ。そしてカドニスタフ王女を見事に更生させたのが彼女の教育係を務めあげたそこのメリーヌタなのだ」

「まあそれはすごい!」

「お褒めにあずかりまして恐悦至極に存じます」

 私が素直に感心するとメリーヌタも表情はそのままに声だけを弾ませた。

「儂たちも隣国の王女を更生させた腕にあやかりたくてな、こうしてその者にバイドルの教育係を依頼したというわけだ」

 なるほど、メリーヌタがここに呼ばれた事情と目的は理解できた。
 ただ、そうなると一つだけ生じる懸念がある。

「……国王様、さすがに彼女を教育係としてお側につかせるのはいささか問題がありませんか? 相手はあのバイドル様ですよ」

 通常、貴族につけられる従者の性別は同性のみに限られる。
 これは身の回りの世話をさせる場合に同じ性別であることは都合がいいのと、もう一つ、従者を恋人または浮気相手にしないようにするためだ。

 なのに女遊びの激しいバイドル様にあんな美人のメイドを教育係としてあてがったら、それこそ本末転倒ではないだろうか。

 使用人という立場を考慮すると、貴族令嬢に手を出すよりよっぽど面倒事が少ない。
 だからバイドル様は絶対にメリーヌタを手込めにしようとするはず。誓ってもいい。

「あなたの心配も分かります、イーリス。しかし残念ながらそのようなことを言っている段階では既にないのですよ」

 王妃様の発言を引き継いで、メリーヌタもまた口を開いた。

「私のことであれば問題ありません。護身術にはある程度覚えがあります。でなければ周辺諸国を独り身で旅をできませんので。それに……」

 それに? なにかしら。

「私も人ですから、イーリス様の辛いお気持ちはよく分かります。今回の一件でどれほど女としてのプライドが傷つけられたのかを察すると、胸が引き裂かれる想いにもなりましょうね。ですから差し出がましいとは思いますが、どうぞこの私にイーリス様のご無念を晴らすお手伝いをやらせてくださいませ」

 相変わらず氷を思わせる冷たい表情。
 だけどその言葉と声音には人を包み込む温かさがあって。

「あ……」

 つうっと、片目から一筋の涙が流れるのが分かった。
 どうやら自分でも思っていた以上にらしい。
 婚約破棄されたことによって、これまで自分がしてきた努力をすべて無意味にされた。

 なにより一番許せないのは、大好きな国王様と王妃様にあれほど悲しそうな顔をさせてしまっているバイドル様のことだった。

 だから仮にもし彼が改心することがあったら、これまでの否を認め、私にはいらないが一言だけでもお二人に謝罪していただきたい。

 そして目の前にいる女性はもしかしたらそれができるのかもしれない。
 だから私も任せることにした。
 メリーヌタの行う教育の果てに、あるいは希望があると信じて。
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