俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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うっぷ、と回る微妙な酔いに項垂れている間に、不本意にもバスが目的地に着いたらしく、揺れが収まったと同時に俺の酔いも引いた。最悪のスタート……。

 窓の外をちらりと見遣れば、駐車場の向こう側に確かに大きな観覧車が見えた。途端にざわざわして、色めき立つ空気。物珍しそうに見る人がそこそこいることに首を傾げて、直後にアッと声を上げそうになった。そうだった、ここにはお坊ちゃんしかいないから意外と遊園地未経験者がいる可能性が高いのか。

 生徒会メンバーが主導しているイベントなので、彼らの指示に従い降りる。みんながワクワクした顔でバスを降りるので、俺と先輩も順番に則って降車した。先頭にいた会長と副会長が一言二言確認し合った後に、全体を見まわした。それだけで場が静かになる。


「無事に着くことができたね。みんな、ちゃんと入場チケットは持っているかな?もし忘れたら、僕ら生徒会役員にすぐ言ってね」

「集合時間は16時だから、時間までにきちんとここに戻ってくること。それまでは各自完全に自由だから、好きなように行動してくれ」

「僕ら役員もパーク内にいるから、何か問題があったら生徒会メンバー宛の連絡先に電話かメールしてね」


 会長と副会長が交互に話して説明し、最後に会長がにっこりといつものふわふわ笑顔で、それじゃあ、楽しんできてねと言うとみんなが一気に嬉しそうな顔をして、各自手を繋いだり腕を組んだりしてデートを始めた。うわ、なんだこの一気に甘い空気は、リア充かよ。あ、リア充だった。

 さて、ラブラブなカップル達は競うようにゲートに行ってしまい、俺と先輩は人がまばらな駐車場で立ち尽くしていた。みんな早いね、俺と先輩のように遊びに来た勢とは熱意が違うのかもしれない。いやでもそうだよな、俺ももし可愛い女の子とデートとかでこういうとこ来たらテンション上がるだろうし。

 ……よっしこうなったら、俺も推しとのお出かけ、精一杯盛り上げるしかねぇ!!!!

 
 隣に立つ先輩に、俺は満面の笑みで声を掛ける。
 


 
「じゃ、俺達も行きましょっか、先輩!」


「……っ、あぁ」




 珍しく少しぼーっとしていた先輩は、ハッとしたように息を吸うと、小さく頷いた。ゲートに足を向け、チケットを鞄からそれぞれ取り出して受付のスタッフさんに見せると、ペアチケットのお客様ですね、と笑顔で言われた後一礼されて、どうぞお楽しみくださいませ、と丁寧に言われた。え、なにこれテーマパークでこんなレストランみたいな対応されたことないんだけど。これが、金持ちの力……?

 というか、新歓後に知ったんだけどこの遊園地貸し切りにしてるらしいんだよね。ほんとめちゃくちゃだな、この学園。おかげさまで駐車場は土曜日なのにスカスカである。稼ぎ時だろうにたった一個の学校のために貸し切りってさすがにやばすぎないか?なにそれ金持ち怖い。この日だけでどんだけ金出してるんだ……。

 先輩と揃って絶句しつつ、気を取り直してパーク内に入る。まず正面に広がるのは大きな噴水と美しい花畑。イメージ的には、長崎の某テーマパークのお花畑と言えば伝わると思う。かなり広い。奥には高さのある絶叫系のアトラクションも見える。おお、遊園地って感じの景色だな。

 パンフレットと見比べて、最初に行こうと俺が勝手に決めたアトラクションの位置を改めて確認する。よし、あっちか。

 俺が先輩を楽しませるぜ!と意気込みながら傍らの彗先輩を見上げると、先輩は物珍しそうに辺りをちらちら見ていた。え、なんだそれなんだそれかわいい。きょろきょろする先輩は最高に可愛いのでずっと見てられるが、そんなことしてると時間が無くなりかねないので涙を呑んで俺は先輩の腕をそっと引いた。




「先輩最初はあっちです、行きましょ!!」


「……ん」



 手を繋いで照れくさそうに歩くカップルばっかりの中、俺と先輩は腕を組むでもなく引き引かれるというかなり異色なペアだった。いやまぁ、カップルじゃないんで当然なんですけどね。先輩は先輩の好きな人と手を繋いでほしいよね、俺が。そして俺はそれを陰から見守る壁になりたいので対戦よろしくお願いします。

 地図を見ながら先導しつつ、何度か推しの動向を窺うのも忘れない。振り返って確認した先輩は遊園地に来たことがないからか、いつもよりも少し気の抜けた表情で落ち着かなさそうに周囲をちらちら見ていて、それが最高にかわいい。やっぱり気になるんですね、先輩……!!俺が最高の遊園地デビューにしてやるぜ!


 野望を燃やしながら歩くこと数分で目的地に到着した。俺が、最初はアレしましょ先輩!と目的のものを指さすと、先輩が目を瞬かせた後怪訝そうな顔をした。アトラクション説明の看板を読む。





「サイクルモノレール……?」


「はい!」





 そう、俺が最初に選んだのは、空中を並列に並んだ自転車もどきで進むサイクルモノレールだ。これなら自分たちで速さを調節できるし、景色を楽しみながらも自分たちで漕ぐっていうアトラクション要素を感じられるから、最初の導入としてぴったりなはず!



「まぁ簡単に言うと、あそこに敷いてあるレールを、ペダルを漕ぎながら進む乗り物ですね。あ、ほらあれです、あの屋根ついてるやつ」



 ちょうど乗ってるカップルがいたので指さして説明すると、先輩はぱちぱちと数回瞬きをしてじっと見つめた。眉を顰めたまま微かに首を傾げる。



「……楽しいのか、あれ」


「はは、確かに見てるだけだとシュールですよね。ま、百聞は一見に如かずって言いますし、一回乗ってみましょう!」



 ちなみに自転車に乗った経験があるか尋ねると、しばしの沈黙の後、数回あるのみだという返事が返ってきた。家計が厳しく、自転車を買う余裕がなかったらしい。学校の自転車教室で何回か乗ったくらいで、だから、期待すんな。そう言われたけど、先輩の運動神経は並外れているのでこのくらい問題ないだろう。というか、実際の自転車と違って固定された車体にペダルが付いてるだけだから、初心者でも乗れるはずだ。あれだ、ジムにある、アップライトバイクみたいな感じ。

 幸いほぼ並んでいなかったので、すぐに順番が来た。せっかくなら景色がいい方を見てもらおうと思って、先輩を先に通して、その後に俺が乗った。係りの人に簡単な操作方法を教わった後安全措置としてベルトを締めてもらい、手を振ってもらって出発。ぐ、と俺がペダルに力を入れると、先輩も少ししてハッとして、俺の真似をするように半信半疑で漕いだ。二人で漕ぐと、緩やかに車体が進み始める。


どこか不思議そうにペダルを漕ぐ自分の足を見つめる先輩に、俺はくすりと笑って話す。
  



「ほら、簡単でしょう?こうやって早めると、もっと早く進みますし、緩めると遅くなります。ちなみに、途中からはレールが下り坂になってるので漕がなくてもある程度は勝手に進むらしいですよ」




 そう、か、と詰まりながら頷く彗先輩。あーかわいいなぁ先輩。めちゃくちゃきょとんってしてるの分かるしなんかちょっと表情幼くなってるし……ほんとに遊園地初めてなんだなぁ。



 
「ちなみにこれ結構高いですし風に揺れますけど、大丈夫そうですか、先輩」


「……それは、問題ねぇ」


 
 多分大丈夫だろうなと思いながら一応確認でもっかい聞くと、こくり、と小さな頷きと共にそんな返事。まだ少し戸惑ってるみたいだけど、最初の乗り物としては成功だったっぽい。結構平気そうだし、どちらかというと好奇心の方が働いてそうだ。




「……っ!?」
 



 少し進んだところで、ガタリ、と車体が揺れて衝撃が加わった。割と大きな揺れだったのでびっくりしたらしい先輩が一瞬目を丸くするのが見えて、その珍しい表情に俺はカメラを構えていなかったことを心から悔やんだ。
 
 とはいえ、新しい表に嬉しくなって、あ、先輩、右見てください、と促すと、ペダルから顔を上げた彗先輩は眼前に広がる景色を見た途端、目を見開いた。







「これ、は……」



「うわぁ、すげぇ綺麗。めっちゃ遠くまで見えますね、街も小さいなぁ」






 広がっていたのは、青々とした木々の緑と、澄んだ空の水色。遠くに白っぽい街と、海の綺麗な深い青。それらが太陽の光を燦燦と浴びて煌めいていた。絶景、と言って全く問題ない美しい光景に思わず頬を緩めて隣の先輩を見ると、先輩の横顔もきらきら輝いていて、俺は目を細めた。



 食い入るように景色を見つめていた先輩が、小さく吐息を溢す。








 
「……すげぇ、な」






 
 微かに、きれいだ、と呟いた先輩に、俺は思わず満面の笑みを浮かべてペダルを漕いだ。


 
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