俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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 タッキーはそれから何度か俺の教室を訪ねてきて、そんなに頻繁ではなかったけど俺たちはたまに二人で話して順調に仲を深めた。タッキーは話しやすくて俺は結構好き。気軽に広めな話題で話せるから一緒にいるのが楽しいし、普通にタッキーイケメンだから俺の目の保養になる。原作キャラとは関係ないはずなんだけど、顔を忘れることがないのが不思議だ。うーん、バグかな?タッキーがあまりにもモブにしてはイケメンだから強烈すぎて忘れられないだけかも。


 颯斗はどうやらそんなタッキーが嫌いなようで、下手したら薫さんの時より嫌そうにしている。何回か一緒に下校しようってタッキーに誘われたんだけど、全部颯斗が拒否って俺は未だにタッキーと一緒に帰ったことがない。俺なんだかんだ同学年の友達と帰ったことないからちょっと残念。

 ちなみにタイミングが悪いのかタッキーと薫さんに接点はない。まぁ、別に良いんだけどね。



 おっと、色々考えていたら家に着いた。玄関ドアを開け、靴を脱ぎながら中に声を投げる。




「ただいまー」



「お帰りなさい、要ちゃん」



「母さんただいま!」



「!!かにゃめにぃ!」





 あゝ天国はここにあった。ありがとう世界。




 …あ、ごめん俺の世界に入ってたわ。帰ったら奥から棗を連れた母さんが出てきた。最近成長期で棗は重たくなってきたらしく、前みたく抱っこされて俺を迎えることは少なくなってきた。大体母さんの後ろをひょこひょこついて来てる感じだ。俺が帰ったらとてとて歩いて迎えにくるんだが、これがまたかあいいんだもう。



 俺は手を洗った後ランドセルを部屋に投げ入れて速攻でリビングにGoした。抱っこをせがまれたので気合いを入れて棗を抱き上げる。母さんにはあまり抱っこをせがまないが、俺にはすぐ抱っこ抱っこと言ってきて甘やかしているのは分かっているけどついつい応じてしまう。最近はかなりずっしりして成長を感じるのが嬉しい。棗はきっと痩せててもぽっちゃりでも可愛いに違いないのでぜひ無限の可能性を秘めて成長してほしいところだ。ガリとかデブとか言った奴は兄ちゃんが麺全般が1分以内に伸び伸びになる呪いをかけてあげるからね。







「要ちゃん、少しお願いがあるんだけど……」







 とここで棗と遊んでいたら母さんがキッチンから俺を呼んだ。即反応する。





「ん、なーに母さん」



「ちょっとお醤油、切れちゃって……よかったら棗ちゃんと一緒にお使いに行ってきてくれないかしら?」



「はっ………!!!」







 棗ちゃんと、という言葉に俺はハッとした。これは棗のはじめてのおつかいなのでは!?





「母さんナイス!!行ってくる!!」






 宿題は帰ってするしかない。後回しだこんなもん。小学校までは俺自称天才だし!?多分余裕で終わるはず。



 あ、良い子はちゃんと先にやろうな。






 というわけで俺は棗と共に五百円を握りしめて家を出た。棗はごねたりすることもなく、むしろ俺と行くということをめっちゃ喜んでぎゅーっと手を握ってついてきた。可愛い。ぎゃんかわ。嬉しそうに「にーにとお出かけ!!」なんて言っている。俺の弟が世界一。異論は認めない。



 スーパーにインすると棗が目を輝かせながらキョロキョロする。おっと、はぐれないように手をしっかり握り直……す必要はないくらいちゃんと握っているのでいいや。醤油は調味料コーナーだが、棗が気合いを入れて捜索しているので邪魔しないように俺は棗に付き合った。





「んーここかな?」



「ここじゃない!!」



「おー、そだな。んじゃ、あっちか」





 そんなこんなで醤油発見。棗がじっと見つめて選んだ末に一本取ってカゴに入れ、一人前よろしくカゴを抱えようとしていた。





「むむむぅ……うぐ」






 しかし醤油1.8リットルをずっと持つのは棗にはちょっと重いらしく、分かりやすく眉間に皺を寄せていた。醤油しか入ってないカゴの中で醤油が滑りまくるので大層苦労している。可愛い。可愛いぞ棗。



 カメラで10回くらい連写したいのを抑え、俺はかごの取っ手の片方を持ってやる。全部持ちたかったけど、棗が持ちたいって聞かなかったのでこうした。うんうん、兄ちゃんは棗の下僕みたいなものだからどう扱ってくれても良いんだぜ。棗のためならあと5個は持てるよ兄ちゃん。




 レジに持っていくと、レジのおばさんがニコニコして俺と棗を見た。商品をピッと通しながら話しかけてくる。




「あらー、兄弟でおつかいなの?弟君はまだ小さいのに偉いわねー」



「なつ、もうおつかいできる!!」




 棗がどや!!!と効果音がつきそうなくらい胸を張る。そんな可愛いが天元突破したマイエンジェルにおばさんも笑顔になって何気なく尋ねる。




「あらあら、じゃあ今度は一人でチャレンジするのかしら」



「……ひ、とり?」






 多分おばさんに悪意はないのだが、棗はそれを聞いた途端この世の終わりみたいな顔をした。俺とおばさんを交互に見て、みるみる瞳に涙を浮かべる。



 それを見て俺がやべ、と思って止めるより先に、爆発するような絶叫が店内に響いた。








「ひとり、やだー!!かにゃめにぃと一緒に行くの!!」





他のお客さんや店員さんがびっくりしたように俺達を見た。けれど棗はその勢いを収めるなくびゃーッ!!!と号泣する。






「ずっとかにゃめにぃと一緒なの!!!!」






 涙と鼻水でぐしょぐしょにしながら泣き叫ぶ棗に、レジのおばさんはめちゃめちゃ慌てていた。おばさんは多分何気なく聞いたことだったのでまさか棗が泣き出すとは思わなかったのだろう。ごめんなさいねと何度も棗に言って宥めている。





 おばさん悪くないですよ!と俺は兄として今すぐ事態を収拾しなければならないのだろうが、しかし動けずにいた。









 え?何それ天使かよ。







 ずっと俺と一緒とか何??え??可愛すぎか?天使なの?天使だよね??これもう事実上の相思相愛では??え、無理尊、棗教開祖しよ。俺は圧倒的ブラコンでファミコンだが、もしかして棗もブラコンになってくれたりするんか??俺得神ありがとう死んでよかったよ。







 動画投稿サイトの如く流れていく俺の弟世界一コメントは溢れまくったが、流石に店内カオス状態なので俺は急いで会計を終わらせおばさんと周りのお客さんに頭を下げて店を出た。棗はその間ずっとグスグス言っていて泣き顔まで尊いとかなんなの俺の弟。は?天使だが???分かれよ。





 機嫌を直すべく、俺は棗と公園に寄ってベンチに腰掛けた。膝の上にはえぐえぐと泣いてる棗。俺はちょっと笑って棗とおでこを合わせながら優しく声を掛ける。






「なーつめ」



「う、ひっぐ、ぇぅ、えぐっ、うう……」



「よしよし、良い子だ棗」



「ううっ、う、に、にーに」



「うんうん、俺はずっと棗の近くにいるぞー?」



「……ほんと?」







 お、ちょっと機嫌直ったな。




 顔を上げる棗に俺は笑いながら頭を撫でた。





「ほんとほんと。俺は出来ない約束はしないもん。棗が俺を必要としなくなるまで、兄ちゃんはずっと棗のそばにいるよ」



「うん…」



「兄ちゃんは棗だけの兄ちゃんだからな!」



「ん…なつだけのにーに」







 俺がポンポンと背中をさすると落ち着いたのか棗はぎゅっと俺のパーカーを握った。袖で涙拭いたからぐしょぐしょだが俺は気にしない。というかむしろ本望である。






 アアアアアアアアもうかんわいいいいいぃぃぃ!!!!!!






 心の中で全俺が大絶叫した。優勝大優勝、可愛すぎで賞。だが安心してくれ、外では俺はブラコンを顔には出してない。表情筋固めて踏ん張ってるんだ。





 その後ちょっとだけ公園で遊んで、棗の機嫌を完全に直してから俺と棗は家に帰ることに。てくてくとアスファルトを歩いていると、前から来た人の姿に俺は一気にテンションを上げた。





「颯斗!!!」



「やあ、要」





 偶然出会したのは何と俺の最推し、颯斗。え?こんな天国みたいな場所ある??推しと最愛の弟が同じ場にいるとか、俺の好きな人しかいないの何???颯斗の顔面今日も輝いてるほんと推すわ尊い。




 

 俺が感動して立ち尽くしている間に颯斗はしゃがんで棗と目を合わせていた。





「こんにちは、棗君」



「……こんにちは」






 ぶす、とした顔で棗が小さく挨拶を返す。棗は俺達家族以外には人見知りらしく、颯斗にもそんなにくっつかない。そこがまた猫みたいで可愛い。え?ブラコン?ありがとう褒め言葉だ。




「おつかい帰り?」



「そそ。颯斗は?習い事帰り?」



「うん、ピアノの帰りだよ」



「ほへー、やっぱ颯斗はすげぇな」



「そんなことないよ」






 颯斗は俺の言葉にちょっと笑ってそう謙遜した。颯斗がピアノかー。絶対かっこいいんだろうなぁ。見たすぐる。




「今度弾こうか?」



「え?……今の声に出てた?」



「うん」






 まーじか。俺ほんとドジだな、恥ずい…心の声が全部出てくるこの仕様早く治さなきゃ。






「……オネガイシマス」




「うん、もちろん」






 だがしかし欲には勝てなかった。颯斗のピアノ聴きたいし見たすぎるからしょうがないよね!!!




 ちゃっかり颯斗に約束してもらい、俺たちは家の前で別れた。






「じゃあね、要」



「おう、じゃあな颯斗!!」



「うん、棗君もまたね」



「………」





 爽やかに手を振る颯斗に棗はまたまた人見知り発動。俺はそっと棗をトントンして促した。




「こーら棗、颯斗にぃにバイバイは?」



「……バイバイ」







 むす、とした顔で棗はちっちゃく言うと、俺に抱っこをせがんできたので抱き上げる。苦笑して俺は颯斗に手を振って家に入った。








 だから、











 抱っこしている棗が颯斗にあっかんべー、としていたのは知らない。










 まして、それを颯斗が黒い笑みで迎え撃っていたのも知らない。
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