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しおりを挟む自分のアホ加減に項垂れる。
くっ、俺の語彙はどこに家出してしまったんだ……棗のことなら永遠に喋れると思っていたけど俺は弟のことになるとIQが3になっちゃうから高度な会話なんてできなかった。このままだとまた沈黙が生まれてしまう!!
「……仲良いのか、弟と」
と思っていたらなんと先輩から話を振ってくれた!!よし、記念に今日を新しい休日にしよう。推しに話振ってもらった記念日。国民の休日です。
高揚した気分で元気よく頷き、聞かれてもいない棗のことを話した。
「はい!サッカーとかよく一緒にしてます、俺の弟サッカーめっちゃ上手いんですよー」
「……そうかよ」
少し黙り込んで、先輩がふ、と俺から視線を外す。
その横顔には、苦悩と悲哀、そして悔しさが滲んでいて、俺は声を掛けるのを躊躇った。ここで俺が何か言ったら、もう先輩は2度とこの話を口にしないような気がして。
俺は、じっとただ、静かに待った。
「…………俺にも、いる」
また沈黙が降りて静まり返って。しばらくして、ぽつりと、独白のような声が落ちた。
「……弟、ですか?」
「…………弟と、妹だ」
さっきよりも間があって帰ってきたその声音は、まるでガラス細工のような繊細さがあって、色んな感情を抑えているようだった。
それを壊してしまわないように、静かに耳を澄ました。
先輩は、何度か深呼吸をして、堪えるように目を閉じる。
「………小2と、年長のチビで…俺は、……俺、は、あいつらに何もしてやれてねぇ」
先輩のお家は、昔お母さんが蒸発したので父子家庭だった。けど父親はDV野郎で多額の借金を作るような人だったから結局夜逃げしちゃって、先輩は以来ずっと1人で2人の幼い弟と妹の面倒を見ている。それも、近所のお店の手伝いとかそういうのをしてずっと地道にお金を稼ぎながらだったから、生活していくのもやっとだったんだと思う。
だから、後悔、してるのかもしれない。
自分は何も、弟妹に何もしてあげれてないって。
「俺は、お前が思ってるような奴じゃねぇよ………
俺は、……最低の、兄貴の資格すらねぇ奴だ」
血を吐くような一言だった。紛れもなく自分の言葉なのに、先輩は吐き出したその言葉に傷ついていた。
「先輩……」
なんて声をかけていいか分からなくて、俺は空虚な呼びかけをしたっきり迷子になる。その俺の顔を見た先輩は、ふい、と壁の方に顔を背けた。
「………余計なこと言った。今のは、忘れろ」
終わって、しまう。
なんか分からないけど、そう思った。ほとんど直感で、だけど、ここで終わったら後で悔やみそうな気がして。
何より、見過ごせなくて、気づけば声を出していた。
「先輩っ!!」
つい俺は引き止めるように、声を掛ける。思ったよりも大きな声が出て、先輩が息を詰めるのが分かったけど俺はそのままの勢いで続けた。
「俺!!!!!」
がばっと立ちあがって、先輩の両手を握る。ギョッとしたように先輩が俺の方を見る。
「先輩が、ほんっとに大好きです!!!」
俺は先輩の全部が好きで推してるけど、でも、一つ、少し心配なところがある。
先輩は、優しすぎて自己肯定感が低い。
先輩のせいだなんてことは、何一つとしてない。先輩が気負う必要なんかどこにもない。真澄の時も、今も、昔も、一切ない。
先輩が悪いなんてことは、ないんだって、俺は言いたい。
「俺、彗先輩が、彗先輩だから大好きなんです。推してるんです。
何かしてくれたから好きとか、そういうんじゃなくて1人の人間として、その存在が好きだから推してるんですよ」
だって、推しはそこに存在するだけでファンを救ってくれるものじゃん?ただそこで、息をしてくれるだけで、俺たちは幸せなんだ。
それに、先輩は、あの時保健室で俺に大丈夫だって言って、手握ってくれたんだ。今度は、俺の番。俺が大丈夫って、先輩に言ってあげる番だ。
「きっと先輩の弟さんも妹さんも、同じですよ。何かしてくれたから先輩が好きとか嫌いとかじゃなくて、先輩がお兄ちゃんだから好きなんです。
家族なんだから、きっと俺よりもそうだと思います。
先輩がいてくれるだけで、きっと、すごく嬉しいと思います」
だから、大丈夫なんですよ。
そっとはにかみながら、そう言って俺は手を離そうとする。しかしその直前に、先輩がバッと俺の手首を掴んだ。え、と口からつぶやきが漏れる。
「……っ、か、なめ、」
切れ切れで先輩が何かを言いかける気配がする。
それにはい、と応えようと口を開いた、瞬間だった。
先輩が弾かれたように顔を上げて、俺の手首を掴んでいた手を思いっきり自分の背後に引いた。俺は不意打ちにびっくりしてなす術もなく先輩の後ろによろける。
「────誰だ」
地を這うような低い声に、すぐにはそれが先輩の発したものだと気がつけなかった。俺は混乱しながら先輩に導かれるようにつられて上を見上げる。
俺たちが入ってきた穴には、誰もいなかった。穴からは付近に生えた木と、蒼空が見えるだけ。しかし先輩は険しい顔をしたまま、もう一度低い声を出した。
「……左にいんだろ。さっさと出てこい」
え、誰かいんの!?!?と驚愕の事実に驚くよりも早く、屋根からカーンと音が鳴る。思わず俺はビクッと首をすくめた。
ぬ、と穴に影が差した。先輩が守るように背後の俺を手で制する。
「あっははぁ、さすがいい勘してるね氷クン!!大したものだよ!!」
場違いなほど華やいだ声が聞こえて、パチパチと拍手の音が響く。目が慣れて、その人物の顔が見えた。その人は、つう、と口角が上げた。黄金の瞳が弧を描く。
「───お邪魔してごめんね?」
すぐ終わるからさ、と宣った人好きする顔が、なぜか悪魔のように見えた。
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