俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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 ひどい怒気を孕んだ低音の声が上から落ちてきて、弾かれたように上を見上げる。業火のように燃え光る、傷を纏ったローズピンクの瞳。薫さんだ。それも、こちらがちびりそうなくらいに激おこな。いや、怒りを向けられてるのは俺じゃないって分かってるんだけどね?それを踏まえても怖い。




「鬼クン……!」




 さて、そんな煮え沸るような強い怒りを一身に受ける当人であるランフォード・モンセルはというと、俺と彗先輩の目の前で恍惚とした顔を晒していた。先ほどこちらに向けていた飄々とした姿はなく、陶酔するような蕩け顔を浮かべている。美形がこんな表情受かべるのだいぶアウトだと思うよ、俺。18禁なるて。あと、あの怒りを前にしてこの顔できるのは猛者としか言いようがない。

 だって薫さんむちゃくちゃ青筋浮かべてキレてるよあれ。俺知ってる、あれは薫さん(ガチギレの姿)だから。前リアタイしたから。


「おい、クソ犬………誰が手ェ出していいっつった?あ゛?」



 ド低音の怒り声が地面を這うように静かに響く。


 さっきの轟音はこのボロ倉庫の屋根から発生したものであるらしく、何をどうしたのか分からないけどパラパラと残骸が砂のように降っていた。中に入ってくる光の面積が大きくなり、倉庫内が若干明るい。


 



 詰まるところ、屋根の穴が広がっていた。


 



 いくらボロ屋といえどトタンで出来ていたであろう屋根をその身一つでブチ抜く薫さんやっぱり規格外だし、今更だけどそもそも学園の施設であろう倉庫にこんな好き勝手して大丈夫なんだろうか……いや大丈夫なわけないよね、うん。愚問だったわ、これ反省文案件かも……。


 サーッと青くなる俺を置いて薫さんはイライラした様子で髪を掻き上げたと思うと、次の瞬間には俺達の目の前に飛び降りていた。もう驚かないぞー俺は。薫さんは7メートルくらいの高さから余裕で飛び降りる人だからな。


 
 
「いつからテメェは勝手に散歩行けるほど頭が高くなったんだァ?」


 

 強い怒気を孕みつつも唇では笑うという器用なことをしながら薫さんはランフォードさんの胸ぐらを乱暴に掴んだ。血を這うような低音の声は普通の人なら震え上がって話せなくなりそうなほどだけど、向けられた当人は相変わらずお酒に酔ったかのようにうっとりしながら頬を染めた。

 
「わぁ、鬼クンの顔がこんな目の前に!うれし、ッ゛!!」


 
 瞬間、ガッと鈍い音がしてランフォードさんが殴られた。


 
「駄犬が……質問にも答えらんねぇのか」

 


 頬を殴られて顔を俯かせる様子を気にした様子もなく、薫さんは獣に成り下がったってか?と皮肉を帯びた笑みを浮かべて唾棄する。ボタボタと血が滴り落ちた。それを見て、さすがにこれは、と俺は間に入ろうとしたが険しい顔をした彗先輩が首を振った。やめておけ、という顔だ。


 
「ツラ上げろ」
 



 冷たい微笑みで薫さんが命令し、ランフォードさんがゆらりと顔を上げた。直後にもう一発、薫さんが殴る。目を瞑りたくなるような衝突音がして血が散る。

 
「俺は忠告したはずだが?俺の神様に手ェ出したら、テメェでも殺すと。あんな分かりやすい注意喚起も理解できなかったのか、殺すぞ」

「ごめん、反省してる」
 
「主に逆らうただの獣はいらねぇんだよ、いちいち躾けさせんな」
 
「うんごめんね鬼クン」


 薫さんの怒涛の言葉の刃に、ランフォードさんは変わらない陶然とした笑みで目にハートマークを浮かべて返事を即答する。まるで洗脳でもされてるみたいな顔。それにまた薫さんは心底鬱陶しそうな顔をして舌打ちを一つ。独特の2人の空気みたいなものに俺はどういう顔をしたらいいのか分からなくて、ただそれを傍観していた。どうしよう、この空気感。


 すると、一転してくるりとストロベリーカラーの瞳がこちらに向く。思わずビクッとして縮こまると、それが三日月型に細まった。もう地震のような怒りの色なく、今度はチョコレートみたいな甘さを含んだ視線だ。







 
「かーなめっ♡」



 



 あ、これは俺がよく見る薫さん。



 さっきまでの怒気はどこへやら。こないだぶりだな♡、とこっちを見て顔を綻ばせる薫さんは、嬉しそうに俺を抱きしめようと手を伸ばしてきた。が、それは俺の傍らに控えていた彗先輩に阻止される。俺はまた彗先輩に守られる構図になるわけだ。


「触んな、穢れる」


「ハ?俺と神様の時間を邪魔する気か?」


 見覚えのある光景に思わず遠い目をしてしまう。これあれじゃん、究極ブリザード吹き荒れる俺姫ポジ(不本意)喧嘩始まっちゃうやつ。マジで誰得な時間の……なんとしても第二次学園大戦が始まる前に止めねば。



「ああっとぉ!!そういえば薫さんは俺に何か用事とかある感じで??」

 


 彗先輩の後ろからわざとらしく声を上げる。すると薫さんはびっくりするほど甘い声音に切り替えて悠然と微笑んだ。すごい切り替えの速さだな。


「ああ、要に会いになァ……クソ犬の回収はついでだ」


「え、俺に?」


「……要、下がれ」

 

 低い声で威圧する彗先輩。それを視界に入ってないかのようにスルーして、薫さんは不敵に口角を上げて見せた。

 
「新歓、要も知ってるだろ?」


「え、あ、……はい。鬼ごっこですよね?」


「あァ。俺ァ毎年新歓なんぞ参加しねぇんだよ、かったりぃしな」



 ぽいなぁ……とか言っていいか分からないから黙っとくけども。学校行事に参加する薫さんとか申し訳ないがちょっと想像できない。屋上で煙草ふかしてサボりそうなイメージ。言わないけど。

 
 

「だが……知っての通りこの新歓じゃ、鬼は逃げの生徒に自由に一つ『オネガイ』ができる」

 



 つ、と形のいい唇が吊り上がり、艶を帯びる。薫さんの低音の声が浸透するようにじんわりと響いた。





 


 
 俺ァな、要。



 






「お前が欲しい」
 




 きらり、と薫さんの腕に光っているのが鬼側の黒い腕輪だということに俺はそこで初めて気が付いた。ランフォードさんの腕にはなかった、それ。今の状況と、前後に起きた出来事を合わせると、さすがに理解力が低すぎる俺にも薫さんの目的が分かってさっと血の気が引いた。

 
 まさか用事って、俺を捕まえること!?
 

 じりじり。思わず数歩後ずさりする俺に薫さんが目を細める。ランフォードさんとは格の違う、捕食者の気配に小さく息を呑んだ。彼が蛇なら、薫さんは百戦錬磨の百獣の王、ライオンだ。

 
「な、なんで、俺…?」

 
 薫さんがなぜか俺のことをめちゃくちゃ気に入っていることは知ってる。神様とか何回も言われたし。でも多分あれ俺のこと美化して見てるだけだと思うし、恐らく薫さんは色々混ぜて俺のこと捉えてるだけでそこまで執着するのは間違いというやつだと思う。でなければおかしい。

 薫さんは忠犬と結ばれる(二次創作)って数多のお姉さま方が言ってたんだ…!!モブである俺に執着する悪役とか解釈違いで多くのヲタクが憤死する案件である。


 せめて今ここで、『なんかおもしれ―やつだから』とか言ってくれてるとまだ何とか軌道修正できそうな気配を感じる。もしくはこれは『俺が恩人だから』みたいな理由。お礼したいみたいな。理想はこのセリフね。いやまぁ俺はあの時助けたとか救ったとかは思ってないんだけど。ただの自己満だったから気にしないで欲しいんだけど、でももしこれなら健全すぎて俺もにっこにこ、みんな仲良しハッピーエンド、ということになるのでぜひこれ言って…!!むしろこれしか言わないでくれ!!!



 
「なんで?んなの……」


 
 
 
 だが、そんな俺の願いなど知らない薫さんは不思議そうに傷の目立つ目を瞬いた。


 
 











「俺の神様だからだが?」






 



 


 俺の神様なら俺の傍にいるのが普通だろ、と当たり前のように言ってのけたその顔を見て、俺は一瞬で察した。






 
 あっダメだこれ多分通じねぇ。



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