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しおりを挟む俺と先生がこっそり心を通じ合わせていると、一人静観していた神崎先輩がす、と立ち上がった。
「そろそろ俺達は退散しよう、まだ15分ほどではあるが新歓が残っている。時間を取ってすまなかった」
その言葉で慌てて時計を見ると確かにいつの間にかあともう少しで新歓が終わりそうだ。保健室では休息のために新歓の放送が切られてるから忘れてた……。
「鬼頭薫に関してだが、おそらく奴がこの新歓中に何か仕掛けてくる確率はもうほとんどないだろう。こちらが風紀室から君達をより厳重に警護していることをあいつ理解しているはずだからな」
「仮に仕掛けてきたとしても、残り時間15分で何かできるとも思えないしね。こっちが現場に駆け付けたら、基本あっちとしてはゲームオーバーだろうからさ」
神崎先輩と丁嵐先輩が立ち上がると、秋南くんも元のキリッとした顔に戻って席を立つ。そんな表情して立ち上がるとやっぱでかいので威圧はすごいけど、俺は彼の『ようじょのすがた』を見たのでどちらかというと頑張ってて偉いねぇという心情である。もう彼は幼女(概念)。
先生に頭を下げて礼を言い、神崎先輩が保健室を出ていった。その後を追いかけるように、丁嵐先輩がなんか相談あったりしたらいつでも風紀室おいで~、とこちらに対して頼もしい笑顔で告げる。そして、秋南くんを振り返った。
「ほら、行くよ秋南」
「………ッふん、指図するな」
なんだとこいつ……と丁嵐先輩が眉毛を吊り上げるが、秋南くんはまるで気にせずにそっぽを向いていた。なんというか、結構大物だよねこの子。
なんて思って苦笑していると、渦中の秋南君が急にこっちを振り返った。俺と彗先輩はまだ座ってたので、完全に秋南君に見下ろされる形だ。
「……………」
「こら、秋南、早く」
何か言われるのかと思って、座ったまま待つ。ところが、いつまでたっても秋南君は口を開かないので、丁嵐先輩が秋南君の制服を引っ張るが、先輩でも彼を動かすのは至難の業らしい。石像のようになってしまい秋南君を動かないらしかった。
そして俺はというと表面上涼しい顔で、内心はそこそこ焦っていた。え、何だろう、俺の前から動かないとか俺なんかしたかな。心の中でいろいろ騒いでただけで実際にはなんも言ってなかったはずなんだけど……いや、でも俺には結構前科が……え、でも彗先輩に突っ込まれてないし言ってないよね!?ね!?
しばらくすると、ちょ、神崎に怒られるって、俺が、と割とマジで焦るトーンで丁嵐先輩が言い始めたので、俺は助け舟を出すことにした。
「えっと……どした?俺に何か用か?」
ちょっと悩んだけど、タメ口で聞くことにした。こっちの方がなんか、言いやすいかもしんないし……気安く口を聞くな、とか突っ込みやすいだろう、多分。いや別にど、同級生だしタメ口でも変じゃないよな!!
そして極めつけは、俺が前世営業で培った親しみやすい雰囲気と今世で勝手に養われたお兄ちゃんっぽい笑顔()である。ごめん、多分わかると思うけど後者は適当。い、いや、でも近所の奥様方に要君はいいお兄さんねぇ~ってよく言われてたし!?宇宙一可愛い棗の兄としては兄力高めな男でありたい……!!
すると、秋南君の口が、はく、と動いた。俺はさらに笑って、うん、と頷いて続きを待った。なんか、昔人見知りだった棗みたいだなぁ、なんて思う。懐かしい。
秋南君が、小さな声でたどたどしく言う。
「…………なる、せ」
「うん」
「……ぅ、その、……お菓子、あ、いや、菓子を……譲ってくれて、感謝する」
うれしかった、と最後に小さく言った彼は、本来の性格と繕っている性格の狭間で葛藤しているようで、制服のズボンを握り締めていた。俺は破顔して、つい棗に言うような口調で答える。
「ははは、なんだ、それか!さっきも言ってくれたのに律儀だなぁ……俺全然気にしてないし、お菓子もよりおいしく食べてもらえる人の方が嬉しかったと思うよ。
あ、でも、丁嵐先輩の勝手に食べるのはよくないから、それは後で謝っときな?欲しいときはちゃんとお願いしなきゃな。分かるだろ?」
「……うん。
…………ごめん、あたらし」
「えっ!?あ、え、うん。ゆ、許すよ、うん」
俺が諭すと、秋南君はこっくりと頷いてすぐに丁嵐先輩に謝った。急に謝られた先輩は目を白黒させながら流されるように頷いて、え、あの秋南が俺に謝った……?と混乱している。先輩俺が言えたことじゃないけど声に出てます出てます。
きちんと謝れたことに俺はニコニコしながら、続きとばかりに最後に尋ねる。
「うん、よくできました!!じゃあ、美味しいもん食べれたし、これから仕事頑張れるか?」
「……ん!」
「よっしゃ、偉い偉い!!さすがだなぁ~!!」
元気よく頷いた秋南君に、ほんとに可愛いなこいつ~っと思わず立ち上がって頭をなで……るにはちょっと身長足りなかったのでぎゅーっと抱きしめた。この子なんでこんなかわいいんですか、こんなタッパあって目も切れ長のイケメンなのになんで……俺にないはずの母性生まれて来てしまう……って、あ。
ヨォシヨシヨシ、と背中を擦ったところで、これ棗にしてたやつだったわ、やっべ、と慌てて離れようとするが、その瞬間背中に手が回される。ぎゅうッ、と俺が締めた時の8倍くらいの力で抱き締め返された。
「ふぐぅッ」
まぁ出ますよね、変な声。
「えらい……ふふふ、……うれしい……」
囁くように秋南君が耳元ではにかんでるんだが、待って締まってる締まってる。めちゃめちゃ可愛いんだが、俺の体からは可愛くない音がしてるから。あと単純に顔が見たいから一旦離れようか。ちょ待っ、折れる折れる。ミシミシ言ってる。
思わず背中をタップするが、俺の力など秋南君にとってはクソ雑魚の力に等しいようで全然響いてなかった。低い声で、ぽしょりと拙く言う。
「………なるせ、すき」
ウワーそれ顔見ながら言ってほしかったー!!!!!絶対可愛いやつじゃん可愛い確定演出オブザイヤー2025受賞のやつじゃんあばらの心配せずにド正面から見たかったんだが!?!?絶対今ふにゃふにゃ笑顔で言ってくれてるよね何それ超見たい見して!!それか見逃したからあとで配信してくれ!!!あと君が好きだと言ってくれた成瀬はそろそろほんとに折れそうだよ秋南君。
この後彗先輩と丁嵐先輩が秋南君を剥がしてくれて何とか俺のあばらは一命を取り留めた。帰るとき秋南君が手をフリフリしてくれたのがとても可愛かったです。
後で風紀室で神崎先輩に怒られたらしい丁嵐先輩から嘆きのメールが来た。あの、なんかすみません。
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