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第5章:慈悲の嘘、追跡…そして世界一危険なデート
しおりを挟む—「悠?」—母の声に、廊下の鏡の前で立ち止まった。
—「あ、うん?」
—「そんな格好でどこ行くの?」
振り返ると、髪を整え、きれいなシャツ、ほころび一つないジーンズ、香水付き。普段の自分とは違う。
—「友達と…出かけるよ」
—「誰と?」
—「志導と。勉強会、カフェで…シェイクとか飲んでね」
新聞を読む父がメガネを上げて俯く。
—「デートか?」
—「違うよ!」—咄嗟に答えた。
—「ほらね」—両親が声を揃えた。
ため息をつき、荷物を抱え、早々に家を出た。 信頼はしているけど、まだ言う準備はできていなくて…
---
駅前で彼女はすでに待っていた。 ピカピカの黒い車の傍で、白いワンピを揺らしながら。
—「悠くん」—小声で手を振り、顔を赤らめる。 一瞬、普通の恋人のように。
—「時間通りだね」
—「あ、うん。そっちも?」
—「迷わないように、1時間前に来ちゃった」
—
車に乗り、そのままエンジン音が低く唸る。
—「でね」—慎重に切り出す—「この前の、あの…車と警察の件、どうしてたの?」
—「あ、あれ」
—「ちょっとしたフラッシュバックかも」
---
【回想:Airiの視点/恥ずかしがりモード】
—「だって悠くんにキスされて…嬉しくて、ちょっとアクセル踏みすぎちゃって」
(140㎞/hで赤信号突破中、Airiが恥ずかしそうに微笑む)
—「そしたらサイレンが聞こえて…うわって焦ったの」
(パトカーが後ろに迫る中、彼女は「えへ…」と呟く)
—「停止して窓開けたら、警官に『頭おかしいの?』って聞かれて…」
(警官がドアを叩くなか、Airiは「ごめんなさい、初キスで興奮してて…」と可愛らしく返す)
—「注意だけで済んで、もう二度としないって約束したの」
(彼女は屈託なく警官にシートベルト忘れないようにねって言ってる)
---
【回想終了】
—「そんな感じだったの」—Airiはにこり。
僕は言葉を失う。 まるでパンを買いに行くように追跡された話だった。
—「罰金は?」
—「ないよ。初めてで可愛いからって…注意だけで」
手で顔を覆ってため息。
—「トラブルに巻き込まれても、いつものように無傷で戻るんだね」
—「ありがとう…かな?」
見つめ合えば、彼女は花びらのように…だけど、その下には毒があるような存在。
—「で、今日は?」
—「どこ行くかは内緒。でも絶対忘れられない日になるよ、悠くん」
エンジン音を軽く上げながら、僕は思った。
――ああ、忘れられない一日になるだろう。
こんなレストランに来たのは、初めてだった。
🇲🇽
暖かい照明、静かなバイオリンの音色が流れる空間。店内にはバラの花びらが浮かぶ噴水まであった。 そして一番奥、窓際の特等席には、二人分の予約札が飾られていた。
> 「悠くんのために。彼だけのために。」
—「これ…全部君が?」
テーブルまで案内された僕は、思わず聞いた。
愛梨は控えめにうなずき、優しく微笑んだ。
—「悠くんの初めての本物のデート…完璧にしたかったの」
—「…ありがとう」
席についた僕は、あまりの光景に感心するばかりだった。 まるで恋愛映画のワンシーンのよう。でも相手が愛梨なので…サスペンスに変わる可能性も大いにある。
そこへウェイトレスがやってきた。若くて明るく、美人。挨拶のあと、僕に視線を向けた。
—「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」
—「えっと、水をお願いします」
—「お嬢様は?」
愛梨は、既に目つきが鋭くなっていた。
—「…水で」
笑顔はあったが、そこにあったのはまるで…脅し。
ウェイトレスが去ったあと、場を和ませようと話を続けた。
—「こんなところに来たの初めてだよ。こんなにしてもらったことない」
—「悠くんには、これ以上のものをあげたい。全部、最高のものを」
—「ありがとう、愛梨。本当に嬉しいよ」
(落ち着いていこう、俺)
空気を和らげるため、少し軽い質問を始めてみた。
—「好きな色ってなに?」
—「赤。悠くんの好きなパーカーの色と同じ」
—「じゃあ、好きな食べ物は?」
—「悠くんが食べるものなら、なんでも好きになれる」
—「あ、あはは…。じゃあ、俺と会ってないときは何してるの?」
愛梨は手を組み、指を絡めながら言った。
—「悠くんのこと考えてる。写真見たり、遠くからお家を見たり…」
—「うん、それは…熱心だね!」
話題をそっと変えた。
—「えっと、今は何してるの? 学校? 仕事?」
そのとき、ウェイトレスが飲み物を持って戻ってきた。
—「お待たせしました。ご注文はお決まりですか?」
僕が答えようとしたが、愛梨は彼女を睨んだままだった。 テーブルに置かれたナイフを指でなぞりながら、笑顔は消えていた。
—「愛梨…ただの接客だよ。からかってるわけじゃない」
—「…本当にそれだけ?」
その冷たい声に、ウェイトレスも一歩下がった。
—「は、はい! 少々お時間を…」
彼女が去ると、愛梨はそっとナイフから手を離した。けれどナプキンには、ナイフの柄の跡がくっきり残っていた。
—「…ごめんね」
—「大丈夫。でも今日はリラックスしよう? ね?」
—「うん…そうする。…でもね、誰かが悠くんに話しかけるの、あんまり好きじゃないの。注文取りでも」
—「俺、そんなにモテないよ」
—「私にとっては、十分すぎるほど魅力的なんだよ」
もう一度、軽い話題を出してみた。
—「好きなドラマとかある? 趣味とか」
—「悠くんが観てるの、全部観てる。あのコメディもまた観なおしたよ、一緒に話せるように」
—「あ、そ、それは…優しいね。(怖いけど)」
—「ねえ、悠くん」
急に彼女が聞いてきた。
—「どうして私が悠くんを好きになったか、気にならない?」
—「うん、実はちょうど聞こうと思ってた」
—「それはね…」
そう言いかけたとき、またウェイトレスが戻ってきた。
—「失礼しました、ご注文を—」
—「もう少し時間を…」
僕がすぐに答えると、彼女はうなずいて去った。
—「愛梨…」
—「いつもこう。大事なことを言おうとすると、誰かが来る」
—「わざとじゃないって」
愛梨は深呼吸した。笑顔はあるものの、それはどこか張り詰めていた。
—「悠くん、知ってる? 私が一番嫌いなこと」
—「なに?」
—「この星に、他の人がいること」
—「…愛梨…」
—「でも、約束したから。ちゃんと…我慢する」
しばらく沈黙が続いた。
けれど、日が沈みはじめ、窓の外に夕焼けが広がり、店内の音楽がピアノに変わるころ、 彼女の表情は少し穏やかになった。
—「今日のデート、楽しい?」
目を輝かせながら、まるで子どものように聞いてきた。
—「うん。楽しいよ。君が“君らしく”いてくれるなら、もっと好きになれる」
—「“君らしく”…?」
—「ナイフも、嫉妬も、脅しもなしの“愛梨”としてね」
彼女は数秒沈黙し、それから視線を落とし、小さく呟いた。
—「…じゃあ、頑張ってみる。悠くんのために…私らしく」
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