「ヤンデレな彼女は3歳年上」

RexxsA

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第6章:微笑みに隠れたナイフ

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夕陽がショッピングモールの広場に差し込み、ガラス窓やフードスタンドを金色に染めていた。
カップル、家族、学生たちが行き交う中、ひときわ目を引く光景があった。

若い少年と、年上に見える女性が一緒に歩いていたのだ。
彼女は笑っていた。
騒がしい笑いではなく、何もかもが愛しく、素晴らしく、魔法のように感じているかのような柔らかな笑顔。
いちご味のアイスを手に、少年の腕にぴったりと寄り添っていた。
風に揺れるスカート、まっすぐなロングヘア、その表情は少し夢見がちだった。

一方で、悠の心臓は通常より速く鼓動していた。

愛梨は視線を落とし、肩をすぼめながら言った。

—「さっきの…レストランでのこと、ごめんね」
—「また…台無しにしちゃったかもって」

悠は視線を横に向けた。胸の奥にモヤが残っていた。

—「…気にしてないよ、愛梨さん。君と一緒に食事できて、嬉しかった」
声は小さく、けれど真剣だった。

愛梨はピタリと止まり、ゆっくりと顔を上げた。
その蜂蜜色の大きな瞳が、まっすぐ悠を見つめる。
そして、突然顔を赤くしてうつむいた。

—「ゆ、悠くん、そんな目で見ないで…っ」
声が震えていた。

悠はため息をついた。緊張していたが、同時に笑いそうになった。
これも、もう日常だ。

愛梨は時に背筋が凍るような一面を見せるが、こうして不器用で、恥ずかしがり屋な表情も持ち合わせている。

だが、ふと頭に浮かんだ。

(どうして、こんな彼女と付き合うことになったんだろう…?)

三つ年上の女性。
美人で、周囲でも人気があり、頭が良く、謎めいていて、そして何より…執着心が強い。

(…そして、どうして彼女は、俺にここまで執着してる?)

彼は目を伏せた。
そんな疑問に、まだ答えはなかった。

その時だった。

—「悠! それって、あなただよね?」

元気な声が聞こえ、彼は顔を上げた。
ポニーテールの少女が、制服姿で手を振りながら近づいてくる。

—「楓!?」
驚いて声を上げた。

愛梨は何も言わなかった。
ただ、アイスを持ったまま顔を上げ…そのまま、笑顔を凍らせた。

—「久しぶりー! 引っ越したのかと思ってたよ。ずっと会ってなかったし!」
楓は笑いながら目の前に立った。

—「うん…ちょっと忙しくてさ」
悠は苦笑いしながら、後頭部をかいた。

楓の目が愛梨に向いた。

—「あ、こちらは?」

—「ああ、彼女は、えっと、愛梨。僕の…」

「彼女」と言いかけた瞬間、楓が笑顔で割り込んだ。

—「あっ、お友達? 年上の女性と仲良くしてるなんて、いいじゃん!」

—「いや、実は…」

—「悠くん」
愛梨の声が、いつもより鋭く響いた。

悠が振り向くと、そこにはもう赤面も戸惑いもない愛梨がいた。
完璧な笑顔…だがその目に、光はなかった。深く、暗く、刺すように冷たい。

楓はその空気を感じ取り、一歩後退した。

—「で、授業はどう? 忙しい?」
楓は必死に話題を戻そうと笑った。

—「べ、別に…まあ普通」
悠の目は、愛梨の手元のアイスへ。今にも崩れそうなほど握りしめられていた。

愛梨が一歩、前に出る。
その動きは、爆弾を踏まないよう慎重な足取りだった。

—「彼女、悠くんの知り合い?」
—「ああ、楓。前の学期のグループの仲間だった」

—「ふぅん…よく話してた?」

—「そんなにでも…」

—「じゃあ、もう話す理由もないよね?」

楓が戸惑いながら口を開こうとしたその瞬間——

—「楓、今日はありがとう。もう行くね」
悠が言って、愛梨の方に向き直る。

楓は混乱しながらもうなずき、そのまま人混みに消えていった。

彼女が完全に見えなくなった瞬間、悠はようやく息を吐いた。

愛梨は、ずっと彼を見つめていた。
そして、ゆっくりと、笑顔を取り戻した。

—「ありがとう、悠くん」

—「…なんで?」

—「怒らせなかったから」

悠は、笑うべきか逃げるべきか分からなかった。


---

車の中は、静かだった。
エンジン音だけが小さく響く。窓の外には街の灯りが流れていく。

けれど、車内の空気は凍りついたようだった。

愛梨は一言も発さなかった。
ハンドルを強く握り、視線は前方の道路に釘付け。
まるで悠の存在など感じていないかのように。

—「愛梨…」
ようやく、沈黙を破って声をかけた。

…返事はない。

—「さっきの、楓のこと…ただ挨拶しただけだよ。怒るようなことじゃない」

無音。

車の空気が、重い。まるで、見えない何かが充満していた。

やがて、家の近くに差しかかった。

—「ここで降ろして。着いたよ」
はっきり言った。

…だが、彼女は無反応だった。

—「愛梨、着いたってば」

返答なし。

そして——
車は通り過ぎた。自宅の名前が書かれた標識が後方に消えていく。
悠の胃がキュッと縮んだ。

—「愛梨っ!!」

初めて、彼は声を荒げた。

その瞬間。

彼女は一度だけ、瞬きをした。

—「…悠くんが…私に怒鳴った…」
その言葉は、まるで日記に書き残すような声だった。

突然、車がブレーキを踏み、見知らぬ通りで停車した。

—「また明日ね」
淡々とした声。怒りも、悲しみも、何も感じさせない。

悠は彼女を見た。

その目には、怒りも涙もなかった。
ただ、虚無。何もない空っぽの空間だけがそこにあった。

シートベルトを外し、慎重にドアを開けた。

—「おやすみ」
そう言って車を降りる。

ドアが閉まると同時に、愛梨は何も言わずに走り去り、角を曲がって姿を消した。

悠は、一人、街灯の下に立ち尽くしていた。

自分がどこにいるのか分からなかった。

スマホの地図はなかなか読み込まれず、見慣れない通りの名ばかり。
ようやく現在地が表示され、徒歩と乗り継ぎで帰路をたどった。

家に着いたのは、一時間後だった。

家の玄関を開けると、両親が廊下で待っていた。

母は腕を組み、父は新聞を手に片眉を上げていた。

—「“恋愛とは無関係の外出”はどうだった?」
母の声には皮肉が混じっていた。

—「歩いて帰ったのか?」
父が続けた。
—「シドウと勉強してたんじゃなかったのか?」

—「…いろいろあって」
悠は靴を脱ぎながらそう答えた。

—「いろいろって何?」

—「…ただ、そういうこと。おやすみなさい」

返事を待たず、階段を上がり、自分の部屋へ向かい、ベッドに倒れ込んだ。

天井が、いつもより重く感じた。

目を閉じた。

そして、愛梨月野という存在に出会ってから初めて——

心から、怖いと思った。


---

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