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冒険の始まり
冒険者の襲撃
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「あー・・・やっと終わったぁ」
木々の間からも眩しい光を差し込んできていた朝の日差しも、いつしか夕焼けの茜に変わって、辺りには夜の気配が漂い始めていた。
そんな森の中を、全身を泥や土埃で汚した少女がトボトボと歩いている。
彼女は目の前に倒れ伏したゴブリンの身体から、その耳の先端を切り取っている。
それを腰にぶら下げた鞄へと放り込んだ彼女は、そのまま地面へとへたり込んでいく。
「何でこんな簡単な依頼に、こんな苦労しないといけないのよ・・・ちょっと、分かってるのトージロー!?あんたの所為なんだからね!?」
完全にエネルギーを使い果たしてしまったという様子で地面へとへたり込んだカレンは、空を見上げるとこんなつもりじゃなかったと呟いている。
彼女の実力であればこの程度の依頼など訳ない筈であったし、事実そうであったのだ。
森に入った早々に彼女は、依頼の達成に十分の量のゴブリンを討伐している。
それを全部台無しにしてしまったのは、彼女が当てつけるように文句を叫んだ先にぼんやりと佇むトージローであった。
「あんたがあのゴブリンを吹き飛ばしたから・・・あの後だって、何度同じことを繰り返したか!それがなかったら、こんなに掛からなかったんだから!!ちゃんと分かってるの!?」
「ほぁ?」
あの後、カレンは何とか気を取り直してゴブリン討伐へと戻っていた。
しかしその時もあの時と同じようにトージローがその力を暴発させては、折角討伐したゴブリンを消し去ってしまうという事態が何度も発生していた。
そのために簡単な依頼にも拘らず、必要な量を集めるのがこんな遅くなってしまったのだ。
「本当に分かってるの?今度やったら、許さないからね?」
「おぉ!分かっとる分かっとる、心配せんでえぇ・・・それよりお嬢ちゃんや、飯はまだかいのぅ」
くたくたの身体で空を見上げれば、茜色に染まった空が木々の間から覗いている。
その光景に怒りが募り、それをトージローへとぶつけても彼は呆けたような返事を返すばかり。
そんなトージローの姿に、もはやカレンが諦めたかのように確認の言葉を掛けても、彼はお腹の辺りを押さえてはいつものようにご飯の催促をするだけであった。
「はぁ、これだもんなぁ・・・本当、どうしたら―――」
そんなトージローの姿に、カレンは深々と溜め息を吐くと頭を抱える。
凄まじい力を持っているものの、まともに制御することが出来ず、それを全く生かすことの出来ない彼の姿に、カレンは思い描いていた希望の未来などやってこないのだと絶望する。
そうして完全に彼女が塞ぎ込もうとしていると、そのお腹の辺りから可愛らしい鳴き声が響いてきていた。
「ふふっ、ははは、あはははは!!はぁ~ぁ・・・何か、どうでもよくなってきちゃったな」
暗い未来の想像も、今の空腹に比べれば些細な問題に過ぎない。
俯いていた顔を上げ、きょとんとした表情で固まっていたカレンは、やがて吹き出すように笑い始めると、今度は両手で背中を支えると空を見上げていた。
「そういえば、こんな依頼お昼前には終わると思ってお弁当も用意してなかったんだったな・・・依頼も達成したし、帰ろっかトージロー?」
見上げた空の端っこには、茜の終わりに星が瞬き始めている。
その景色を目にしながら、自らのお腹の鳴き声に耳を澄ましていたカレンは、そのままの姿勢でトージローへと顔を向けると、もう帰ろうかと声を掛けていた。
「おぉ、飯か!?」
「そう、飯よ飯!依頼の報告ついでに、ギルドで食べていきましょう!あそこのご飯美味しかったから、楽しみね!依頼の報酬も出るし・・・もう今夜は全部忘れて、パーっと楽しみましょ!!」
帰還を告げるカレンの声にトージローは笑顔を見せると、ご飯かと彼女に尋ねている。
その問いにそうだと答えたカレンは勢いよく立ち上がると、彼の手を取る。
そうして二人は意気揚々と、帰路へとついていた。
「悪いが・・・それはしばらくお預けだ、お二人さん」
そんな二人の前に、立ち塞がるように大男が現れる。
それは、どこかで見た憶えのある大男であった。
「あ、トージローにボコボコにされたクソ雑魚冒険者」
目の前に立ち塞がる大男に対して、カレンは指を向けると身も蓋もない感想を口にしていた。
そう彼は、冒険者ギルドでカレンに絡み、トージローに返り討ちにあってしまったあの冒険者であった。
「違ぇよ!!ボコボコにされたんじゃねぇ、あれは俺が勝手に転んじまっただけだ!!!」
「いや、その方が酷くない?ボコボコにされたならまだしも、勝手に転んだって・・・」
そんなカレンの呟きに、大男は思いっきり腕を振るっては否定している。
彼はトージローにボコボコにされた訳ではなく、自分で転んだだけだと主張するが、カレンからすればその方が情けないのではと目を細めるばかりであった。
「全然違ぇよ!!重要なのは、俺がそいつに負けた訳じゃないってことだ!!それを証明させてもらうぜ!!おい、お前ら!出てこい!!」
カレンが目を細め、呆れた表情で指摘した事実は、大男にとっては重要な違いであったようで、彼は地団太を踏むと全然違うと改めて主張している。
彼にとって自分がトージローに負けてはいないという事実が重要なようで、それを証明するためにここに来たのだと指を突きつけている。
そして彼の掛け声を合図に、彼の仲間達が森の木々の間からぞろぞろと姿を見せる。
「あ、トージローにボコボコにされたクソ雑魚冒険者達」
「だから違ぇっていってんだろ!!いい加減、怒るぞ!!ほら、てめぇらも何かいってやれ!!」
大男の背後から現れた彼の仲間に対してカレンは指を剥けると、またしても身も蓋もない感想を漏らしている。
その言葉に大男はまたも地団駄を踏んでは否定しているが、今度は彼も自分の言葉だけではなく、仲間の意見を借りてそれを正当化しようとしているようだった。
「な、なぁ、グルド。もういいだろ、帰ろうぜ?」
「そうだよ、あっちもああいってる事だしさ。もういいじゃん、この件は水に流そうぜ。なぁ、あんたらもそれでいいだろ?」
「え?いや、別に私達はそれでいいけど・・・始めから、どうでもいいし」
しかし腕振るっていってやれと促した仲間達は、彼が期待した言葉を口にすることはない。
彼らは何故か皆、周囲をやたらと気にするように見回すと、さっさとここを離れて帰ろうと大男、グルドに促していた。
「違ぇーだろ!!お前らにはプライドってもんがねぇのか!?冒険者としてのプライドってもんがよぉ!?」
そんな仲間達の反応にグルドは両手を広げては、お前らにはプライドがないのかと訴えかけている。
そんな彼の訴えに互いに顔を見合わせている彼の仲間はしかし、それ以外に何か気になっていることがあるようだった。
「いや、でもよぉ・・・グルドも見ただろ?あの恐ろしい光景を・・・あんな風に森を消し飛ばしちまうような化け物がいる所なんて、さっさとずらかろうぜ?」
「そうだよ!ありゃあやばいって、俺達の手に負えるような相手じゃない!あんなの七位の旦那に任せて、俺達ゃ逃げた方がいいって!」
彼らはどうやらここに来るまでに目にした恐ろしい光景に怯え、ここから早く退散してしまいたいようだった。
それは彼ら自身が口にした通り、ギルドから齎された情報によるもので、それをカレン達は知る由もない筈であったが、何やら彼女は彼女でそれに心当たりがあるようだった。
「あー・・・ごめん、それ私達が―――」
彼らが口にした恐ろしい光景は、間違いなくトージローがやらかした痕跡を目撃してしまったものだ。
その事実に何だか気まずくなり、頬をポリポリと掻きながらカレンはそれを告白しようとしている。
「馬鹿野郎!!そんなんが怖くて、冒険者なんてやってられっか!!そんなんよりもなぁ・・・エクスプローラー級の俺様が、あんなダサいバッジつけてる奴らなんかに舐められっぱなしじゃ・・・おい、お前ら。何であのダサいバッジつけてねぇんだよ?」
しかしそんな彼女の告白を遮るように、グルドの叫び声が響いていた。
彼はそんな事よりも冒険者としての面子の方が重要だと叫ぶと、カレンの方を指差している。
しかしその指差した先に目当てのものの姿ないことに気づくと、彼は意表を突かれたように眉を顰め、首を傾げては疑問を口にしていた。
「え?バッジって・・・一体、何の話?」
「冒険者の証である、バッジだろーが!?何でつけてねーんだよ!!ほら、これを見てみろ!この輝かしい、エクスプローラー級のバッジをよぉ!!」
グルドが意味が分からないと口にした疑問は、カレンにとってもさっぱり意味の分からない質問であった。
心底不思議そうに小首を傾げる彼女の姿に、グルドは何でそんな事も知らないんだと激しく憤ると、その襟元に輝くピカピカに磨かれたバッジを誇らしそうに示していた。
「へー、そんなのが貰えるんだ・・・それで、エクスプローラー級って何なの?それって凄いの?」
「お前ら駆け出しのピープル級の、二階級も上の冒険者様だろーが!!しかもこの俺はナイト級パーティのリーダーでもあるんぞ!?その俺をコケにしやがって・・・!!」
それを凄いものだと強調するグルドにも、カレンはいまいちピンときていない様子で、ちょっとしたお洒落アイテム程度の認識でしかないようだった。
そんなカレンの反応が気に食わないと叫ぶグルドは、その手に嵌めた指輪も彼女へと見せつけているが、それにも当然ぽかんとした反応が返ってくるばかり。
「はぁはぁはぁ・・・と、とにかくそんな凄い冒険者である俺様が、そんな爺にやられたなんてのじゃ面子が保てねぇんだよ!悪いが俺のために、ボコボコにさせて貰うぜ!!」
暖簾に腕押しといった様子のカレンに、ただひたすらに声のボリュームを大きくすることで対抗しようとしていたグルドは、息切れした様子で荒い呼吸を整えている。
そしてようやく復活した彼は、カレンではなくその横のトージローへと指を突きつけると、彼への勝負を挑んでいた。
「あーはいはい、そういう事ね。ま、好きにしたら?トージロー、適当に相手してやってー。あ、殺しちゃ駄目よ?本当、男ってどうしてそういうの気にするのかしらねー?私にはさっぱり・・・何よ、あんた達?トージローなら、あっちよ?」
何やら色々と回りくどい御託を並べていたが、要はトージローにやられた借りを返したいという事らしい。
それを聞いたカレンは勝手にすればと適当な手つきで腕を振るうと、自分は関係ないからと脇にはけようとしていた。
しかしそんな彼女の周りを、グルドの仲間達が取り囲む。
「悪いな嬢ちゃん、あんたも逃がす訳にはいかねぇんだ。俺らは、あんたらにコケにされたんだからな」
カレンを取り囲んだ仲間達は、彼女も借りを返す対象だとそれぞれの得物を取り出している。
見れば、トージローに対してはグルド一人が向かっており、そちらは一対一で決着をつけようという事らしかった。
「はーーー?私は関係ないでしょ!?あんたらが勝手にトージローに絡んで、勝手に返り討ちあっただけじゃない!?」
「うっ!?そ、それはそうかもしれないが・・・こういうのはなぁ、理屈じゃねぇんだよ!!」
そんな彼らの行動に対して、カレンは私は関係ないと不満を爆発させている。
自分は全く関係ないと主張する彼女の言葉はもっともなものであったが、彼らはもはや理屈ではないのだと退く様子を見せなかった。
「はーーー・・・本当、意味分かんない。ま、トージローにけちょんけちょんにされた連中だし?エクスプローラー級だっけ?そんな大層な名前してたって、きっと大した実力じゃないんでしょ?だったら私でも楽勝よね!」
彼らの言い分に全く理解出来ないと頭を抱えたカレンはしかし、この程度ならきっと楽勝だと高を括り、戦いを決意する。
「さぁ、かかってきなさい!!けちょんけちょんにしてやるわ!!」
決意した戦いに、そのまま囲まれたままでは分が悪いと感じたのか、彼女は素早く包囲から抜け出ると、杖を構えて啖呵を切る。
彼女がグルドの仲間たち相手に楽勝を宣言しているのと同じタイミングで、グルドとトージローの戦いも火蓋が切って落とされていた。
木々の間からも眩しい光を差し込んできていた朝の日差しも、いつしか夕焼けの茜に変わって、辺りには夜の気配が漂い始めていた。
そんな森の中を、全身を泥や土埃で汚した少女がトボトボと歩いている。
彼女は目の前に倒れ伏したゴブリンの身体から、その耳の先端を切り取っている。
それを腰にぶら下げた鞄へと放り込んだ彼女は、そのまま地面へとへたり込んでいく。
「何でこんな簡単な依頼に、こんな苦労しないといけないのよ・・・ちょっと、分かってるのトージロー!?あんたの所為なんだからね!?」
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森に入った早々に彼女は、依頼の達成に十分の量のゴブリンを討伐している。
それを全部台無しにしてしまったのは、彼女が当てつけるように文句を叫んだ先にぼんやりと佇むトージローであった。
「あんたがあのゴブリンを吹き飛ばしたから・・・あの後だって、何度同じことを繰り返したか!それがなかったら、こんなに掛からなかったんだから!!ちゃんと分かってるの!?」
「ほぁ?」
あの後、カレンは何とか気を取り直してゴブリン討伐へと戻っていた。
しかしその時もあの時と同じようにトージローがその力を暴発させては、折角討伐したゴブリンを消し去ってしまうという事態が何度も発生していた。
そのために簡単な依頼にも拘らず、必要な量を集めるのがこんな遅くなってしまったのだ。
「本当に分かってるの?今度やったら、許さないからね?」
「おぉ!分かっとる分かっとる、心配せんでえぇ・・・それよりお嬢ちゃんや、飯はまだかいのぅ」
くたくたの身体で空を見上げれば、茜色に染まった空が木々の間から覗いている。
その光景に怒りが募り、それをトージローへとぶつけても彼は呆けたような返事を返すばかり。
そんなトージローの姿に、もはやカレンが諦めたかのように確認の言葉を掛けても、彼はお腹の辺りを押さえてはいつものようにご飯の催促をするだけであった。
「はぁ、これだもんなぁ・・・本当、どうしたら―――」
そんなトージローの姿に、カレンは深々と溜め息を吐くと頭を抱える。
凄まじい力を持っているものの、まともに制御することが出来ず、それを全く生かすことの出来ない彼の姿に、カレンは思い描いていた希望の未来などやってこないのだと絶望する。
そうして完全に彼女が塞ぎ込もうとしていると、そのお腹の辺りから可愛らしい鳴き声が響いてきていた。
「ふふっ、ははは、あはははは!!はぁ~ぁ・・・何か、どうでもよくなってきちゃったな」
暗い未来の想像も、今の空腹に比べれば些細な問題に過ぎない。
俯いていた顔を上げ、きょとんとした表情で固まっていたカレンは、やがて吹き出すように笑い始めると、今度は両手で背中を支えると空を見上げていた。
「そういえば、こんな依頼お昼前には終わると思ってお弁当も用意してなかったんだったな・・・依頼も達成したし、帰ろっかトージロー?」
見上げた空の端っこには、茜の終わりに星が瞬き始めている。
その景色を目にしながら、自らのお腹の鳴き声に耳を澄ましていたカレンは、そのままの姿勢でトージローへと顔を向けると、もう帰ろうかと声を掛けていた。
「おぉ、飯か!?」
「そう、飯よ飯!依頼の報告ついでに、ギルドで食べていきましょう!あそこのご飯美味しかったから、楽しみね!依頼の報酬も出るし・・・もう今夜は全部忘れて、パーっと楽しみましょ!!」
帰還を告げるカレンの声にトージローは笑顔を見せると、ご飯かと彼女に尋ねている。
その問いにそうだと答えたカレンは勢いよく立ち上がると、彼の手を取る。
そうして二人は意気揚々と、帰路へとついていた。
「悪いが・・・それはしばらくお預けだ、お二人さん」
そんな二人の前に、立ち塞がるように大男が現れる。
それは、どこかで見た憶えのある大男であった。
「あ、トージローにボコボコにされたクソ雑魚冒険者」
目の前に立ち塞がる大男に対して、カレンは指を向けると身も蓋もない感想を口にしていた。
そう彼は、冒険者ギルドでカレンに絡み、トージローに返り討ちにあってしまったあの冒険者であった。
「違ぇよ!!ボコボコにされたんじゃねぇ、あれは俺が勝手に転んじまっただけだ!!!」
「いや、その方が酷くない?ボコボコにされたならまだしも、勝手に転んだって・・・」
そんなカレンの呟きに、大男は思いっきり腕を振るっては否定している。
彼はトージローにボコボコにされた訳ではなく、自分で転んだだけだと主張するが、カレンからすればその方が情けないのではと目を細めるばかりであった。
「全然違ぇよ!!重要なのは、俺がそいつに負けた訳じゃないってことだ!!それを証明させてもらうぜ!!おい、お前ら!出てこい!!」
カレンが目を細め、呆れた表情で指摘した事実は、大男にとっては重要な違いであったようで、彼は地団太を踏むと全然違うと改めて主張している。
彼にとって自分がトージローに負けてはいないという事実が重要なようで、それを証明するためにここに来たのだと指を突きつけている。
そして彼の掛け声を合図に、彼の仲間達が森の木々の間からぞろぞろと姿を見せる。
「あ、トージローにボコボコにされたクソ雑魚冒険者達」
「だから違ぇっていってんだろ!!いい加減、怒るぞ!!ほら、てめぇらも何かいってやれ!!」
大男の背後から現れた彼の仲間に対してカレンは指を剥けると、またしても身も蓋もない感想を漏らしている。
その言葉に大男はまたも地団駄を踏んでは否定しているが、今度は彼も自分の言葉だけではなく、仲間の意見を借りてそれを正当化しようとしているようだった。
「な、なぁ、グルド。もういいだろ、帰ろうぜ?」
「そうだよ、あっちもああいってる事だしさ。もういいじゃん、この件は水に流そうぜ。なぁ、あんたらもそれでいいだろ?」
「え?いや、別に私達はそれでいいけど・・・始めから、どうでもいいし」
しかし腕振るっていってやれと促した仲間達は、彼が期待した言葉を口にすることはない。
彼らは何故か皆、周囲をやたらと気にするように見回すと、さっさとここを離れて帰ろうと大男、グルドに促していた。
「違ぇーだろ!!お前らにはプライドってもんがねぇのか!?冒険者としてのプライドってもんがよぉ!?」
そんな仲間達の反応にグルドは両手を広げては、お前らにはプライドがないのかと訴えかけている。
そんな彼の訴えに互いに顔を見合わせている彼の仲間はしかし、それ以外に何か気になっていることがあるようだった。
「いや、でもよぉ・・・グルドも見ただろ?あの恐ろしい光景を・・・あんな風に森を消し飛ばしちまうような化け物がいる所なんて、さっさとずらかろうぜ?」
「そうだよ!ありゃあやばいって、俺達の手に負えるような相手じゃない!あんなの七位の旦那に任せて、俺達ゃ逃げた方がいいって!」
彼らはどうやらここに来るまでに目にした恐ろしい光景に怯え、ここから早く退散してしまいたいようだった。
それは彼ら自身が口にした通り、ギルドから齎された情報によるもので、それをカレン達は知る由もない筈であったが、何やら彼女は彼女でそれに心当たりがあるようだった。
「あー・・・ごめん、それ私達が―――」
彼らが口にした恐ろしい光景は、間違いなくトージローがやらかした痕跡を目撃してしまったものだ。
その事実に何だか気まずくなり、頬をポリポリと掻きながらカレンはそれを告白しようとしている。
「馬鹿野郎!!そんなんが怖くて、冒険者なんてやってられっか!!そんなんよりもなぁ・・・エクスプローラー級の俺様が、あんなダサいバッジつけてる奴らなんかに舐められっぱなしじゃ・・・おい、お前ら。何であのダサいバッジつけてねぇんだよ?」
しかしそんな彼女の告白を遮るように、グルドの叫び声が響いていた。
彼はそんな事よりも冒険者としての面子の方が重要だと叫ぶと、カレンの方を指差している。
しかしその指差した先に目当てのものの姿ないことに気づくと、彼は意表を突かれたように眉を顰め、首を傾げては疑問を口にしていた。
「え?バッジって・・・一体、何の話?」
「冒険者の証である、バッジだろーが!?何でつけてねーんだよ!!ほら、これを見てみろ!この輝かしい、エクスプローラー級のバッジをよぉ!!」
グルドが意味が分からないと口にした疑問は、カレンにとってもさっぱり意味の分からない質問であった。
心底不思議そうに小首を傾げる彼女の姿に、グルドは何でそんな事も知らないんだと激しく憤ると、その襟元に輝くピカピカに磨かれたバッジを誇らしそうに示していた。
「へー、そんなのが貰えるんだ・・・それで、エクスプローラー級って何なの?それって凄いの?」
「お前ら駆け出しのピープル級の、二階級も上の冒険者様だろーが!!しかもこの俺はナイト級パーティのリーダーでもあるんぞ!?その俺をコケにしやがって・・・!!」
それを凄いものだと強調するグルドにも、カレンはいまいちピンときていない様子で、ちょっとしたお洒落アイテム程度の認識でしかないようだった。
そんなカレンの反応が気に食わないと叫ぶグルドは、その手に嵌めた指輪も彼女へと見せつけているが、それにも当然ぽかんとした反応が返ってくるばかり。
「はぁはぁはぁ・・・と、とにかくそんな凄い冒険者である俺様が、そんな爺にやられたなんてのじゃ面子が保てねぇんだよ!悪いが俺のために、ボコボコにさせて貰うぜ!!」
暖簾に腕押しといった様子のカレンに、ただひたすらに声のボリュームを大きくすることで対抗しようとしていたグルドは、息切れした様子で荒い呼吸を整えている。
そしてようやく復活した彼は、カレンではなくその横のトージローへと指を突きつけると、彼への勝負を挑んでいた。
「あーはいはい、そういう事ね。ま、好きにしたら?トージロー、適当に相手してやってー。あ、殺しちゃ駄目よ?本当、男ってどうしてそういうの気にするのかしらねー?私にはさっぱり・・・何よ、あんた達?トージローなら、あっちよ?」
何やら色々と回りくどい御託を並べていたが、要はトージローにやられた借りを返したいという事らしい。
それを聞いたカレンは勝手にすればと適当な手つきで腕を振るうと、自分は関係ないからと脇にはけようとしていた。
しかしそんな彼女の周りを、グルドの仲間達が取り囲む。
「悪いな嬢ちゃん、あんたも逃がす訳にはいかねぇんだ。俺らは、あんたらにコケにされたんだからな」
カレンを取り囲んだ仲間達は、彼女も借りを返す対象だとそれぞれの得物を取り出している。
見れば、トージローに対してはグルド一人が向かっており、そちらは一対一で決着をつけようという事らしかった。
「はーーー?私は関係ないでしょ!?あんたらが勝手にトージローに絡んで、勝手に返り討ちあっただけじゃない!?」
「うっ!?そ、それはそうかもしれないが・・・こういうのはなぁ、理屈じゃねぇんだよ!!」
そんな彼らの行動に対して、カレンは私は関係ないと不満を爆発させている。
自分は全く関係ないと主張する彼女の言葉はもっともなものであったが、彼らはもはや理屈ではないのだと退く様子を見せなかった。
「はーーー・・・本当、意味分かんない。ま、トージローにけちょんけちょんにされた連中だし?エクスプローラー級だっけ?そんな大層な名前してたって、きっと大した実力じゃないんでしょ?だったら私でも楽勝よね!」
彼らの言い分に全く理解出来ないと頭を抱えたカレンはしかし、この程度ならきっと楽勝だと高を括り、戦いを決意する。
「さぁ、かかってきなさい!!けちょんけちょんにしてやるわ!!」
決意した戦いに、そのまま囲まれたままでは分が悪いと感じたのか、彼女は素早く包囲から抜け出ると、杖を構えて啖呵を切る。
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