ボケ老人無双

斑目 ごたく

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栄光時代

師匠

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「ふぁ~・・・」

 目の前に広がる景色に、カレンは思わず立ち止まり息を呑んでしまう。
 彼女がこの街、グリザリドにやって来てからそれほど日にちは立っていない。
 にも拘らず、彼女が指定されたこの店を知っていたのは、それだけこの場所が目立っていたからだ。
 外から眺めてもお洒落で立派な建物であった場所は、中に入るとより一層に煌びやかであった。
 恐らく街に要人や、ともすれば王族のような人間がやってきた場合に利用されることを想定されたその店は、田舎育ちのカレンからすればまさに別世界であった。

「・・・ん?おいおい、いつまでそこに突っ立っとくつもりだ?」
「・・・あっ!?す、すみません!ついボーっとしちゃって!!」

 店の内装に見惚れ、いつまでもその入り口から動こうとしないカレンに気づいたデリックは、振り返ると肩を竦めている。
 その声にようやく正気を取り戻したカレンは、慌てて先へと進んでいたデリックの下へと駆けていく。
 ディナーの時間が本番なのか、ほとんど人のいない店内に、その振る舞いが周りの邪魔になってなかったのは幸運だろう。
 そのこの店内の様子に相応しくない、どたどたと慌ただしく駆けていく姿も含めて。

「あぁ、そんなのは自分で・・・えっ、座るんですか?は、はい!座らさせていただきます!」

 デリックの後ろをちょこちょことついていき、ようやく席へと辿り着いたカレンは、そこで無言で椅子を引くボーイの姿に、戸惑っては滑稽なほどに畏まってしまっている。
 カレンは何か申し訳なってしまったのか、ボーイに対してペコペコと頭を下げていたが、彼の無言の圧力に負けて、ようやく席へとついている。

「くくく・・・こりゃ、これだけでも連れてきたかいがあったな」

 そんな彼女の様子にデリックは忍び笑いを漏らしていたが、きょろきょろと周りの様子を窺うのに忙しいカレンは、それに気づかなかったようだ。

「おっと、注文しねぇとな・・・面倒くせぇ、何か適当に腹に溜まるもんを・・・おっと、そうだ。後ついでに何か甘いもんを。俺にじゃなくて、向こうにな」
「畏まりました」

 注文を取りに来たボーイにメニューを開いたデリックは、それをすぐに閉じると適当に注文を決めている。
 そしてそのまま注文を終えようとしていた彼は、視界の端にカレンの姿を捉えると、彼女ために追加で甘いものも注文していた。

「はぇー、恰好いい・・・」
「あ?はははっ!そうだろそうだろ、格好いいだろ俺は。何なら、尊敬してもいいんだぞ?」

 自分がそこにいるだけで浮かれてしまうような場所で、デリックはこなれた感じで注文をしている。
 カレンはそんなデリックの姿に、憧れの視線を向けている。
 それに気がついたデリックはおどけて見せていたが、彼女の視線はそんなもので変わるものではなかった。

「はい、尊敬します・・・」
「んー・・・?何か調子狂っちまうな・・・冒険者になるって奴は、どいつこいつも割と擦れてやがるからな。こう素直に返されると・・・」

 その憧れの視線から逃れようと、わざと馬鹿にされるような言動でおどけてみせたデリックはしかし、その言葉にも変わらずうっとりとした視線を向けてくるカレンに頭を掻いている。
 祖父であるエセルバードによって、周りに森しか広がっていないような田舎に隔離され、ずっと巫女として修業ばかりやらされてきたカレンは、デリックの知る女冒険者とは勝手が違う。
 その純粋すぎる視線はデリックにとっても不慣れだったのか、彼はそれに居た堪れなさそうにしていた。

「あ、そうだ。デリックさん、良かったんですか?」
「あん?何がだ?」
「いえ、その・・・さっき色々買ってたじゃないですか。それなのに、こんなお店に入って・・・何か話があるなら別にここじゃなくても・・・」

 デリックは先ほど、ギルドに押し寄せた押し売りから何やら大量の食べ物を購入していた。
 カレンもその後、押し売りに取り囲まれては様々な商品を押し付けられていたため、彼がそれをどうしたのかは知らない。
 しかしあんな大量の食べ物を消費した後に、わざわざ話の場所をこんなレストランにしなくてもいいじゃないのかとカレンはデリックに尋ねていた。

「あぁ、それの事か。別にいいんだよ、第一さっき買った奴は全部ギルドで転がってる奴らにやったしな。連中も一晩散々騒いで、そろそろ腹が空いてくる頃合いだろ?」
「えっ、全部皆に!?はわー・・・」

 こちらのお腹の調子を心配してくるカレンに、デリックはそんな事なら心配はいらないと返している。
 彼はどうやら先ほど購入した大量の食べ物を全て、ギルドで今だに伸びている連中に無償で提供したようだった。
 それを何て事もないことのように話すデリックの口ぶりに、カレンは再び目を輝かせては彼の事を見詰めていた。

「っ!そ、そうだカレン!お前の方はどうだったんだ?色々と買わされたんだろう?」
「あ、そうなんですよ!聞いてくださいよデリックさん!!何だかよく分からないものを色々と買わされちゃって!!えぇと、どこにしまったかな・・・」
「ふぅ、危ない危ない。発言には気をつけねぇとな・・・どうもあの瞳は、居心地が悪くていけねぇや」

 キラキラと尊敬の瞳を向けてくるカレンに、デリックはそれから逃れようと慌てて話題を変えている。
 カレンはそんなデリックの苦し紛れの行為に、待ってましたと両手をテーブルへと押しつけると、自らの鞄を弄り始めている。
 そんな彼女の様子に、デリックは安心したようにほっと胸を撫で下ろしては、一人小声で呟いていた。

「ほら、これですよこれ!どう思いますか、デリックさん!?」
「どう思いますかって・・・こりゃ何だ?ニンニクに、これはお守りか何かか?それにこいつは・・・銀の杭?おいおい、カレンお前・・・吸血鬼とでも戦うつもりなのか?」

 カレンが自らの鞄から引っ張り出したのは、普通のものよりは大ぶりなニンニクと十字の形をした金属製のお守り、そして銀で出来ていると思われる杭であった。
 それらをざっと眺めたデリックは口元をニヤリと歪ませると、カレンに吸血鬼と戦うつもりなのかと冗談めかして告げていた。

「そんな訳ないじゃないですか!!このニンニクは、何か品種改良で十倍くらい匂いがきつくなった奴だって押しつけてくるし、このお守りなんて何か神聖な力が込められるって言うから、つい・・・何かに役立つかなって」
「この銀の杭は?」
「えっ?そ、それは・・・その、何か格好良かったから」

 デリックの軽口を、カレンはテーブルに両手を叩きつけては否定している。
 そうしてどうしてそれらの商品を買ってしまったのかと説明する彼女に、デリックはそれに含まれなかった銀の杭を摘まみ上げては尋ねていた。
 それにカレンは顔を俯かせると、小声でそれに答えていた。

「はははっ、そうかそうか!まぁ、いいんじゃねぇか?そのニンニクも、それだけ匂いが強いんなら獣除けや何かに使えるだろ?そのお守りも、本当に何かの力があるんならアンデッドに効果があるだろうし・・・この銀の杭は、まぁそうだな・・・格好いいし、な」
「うー・・・」
「はははっ、まぁそう悲観すんなって!最初はそんなもんだ。それで?押しつけられのはこんなもんか?」

 恥ずかしそうに小声でそれを購入した理由を告げたカレンに、デリックはそれを強調するように笑い声を上げている。
 それにカレンは唸り声を上げては、抗議の意思を示していた。

「あ、あともう一つあって・・・えーっと、どこにやったかな?あ、あったあった!これ何ですけど・・・」
「ふーん、どれどれ・・・『これを食べれば一晩ハッスル!!マムシ印のビンビン精力剤』、何だこりゃ?カレン、お前年上の彼氏でもいんのか?」
「い、いないですよ!?気がついたら買わされてて・・・しかもこれ、高かったんですよ!?」

 デリックに促されて、まだ残っていた買わされたものを鞄から引っ張り出したカレンに、彼はそれを受け取っては、そこに掛かれていた文字を読み上げている。
 ガラスで出来た透明な瓶に、デカデカと張りつけられているそのパッケージには、その中身である丸薬のようなものが精力剤だと記されていた。

「がははははっ!!何だよそりゃ、使う予定もないのにこんなもんかったのかよ!?ま、まぁ、いいんじゃねぇか?今後役に立つこともあるかもしれねぇし、高かったんなら大事に取っときな。くく、くくくっ・・・」
「うー・・・笑い事じゃないですよぉ」

 用途もないのに買わされた精力剤に、カレンはそれがこの中で一番高かったのだと憤慨している。
 しかしそんな彼女の態度も、デリックにとっては笑いの種でしかない。
 目の前で腹を抱えた笑いだしたデリックに、カレンは再び唸り声を上げて不満を示していたが、彼のその笑いが完全に収まるまでにはしばらくの暇が必要となっていた。

「っと、話題が逸れちまったな・・・ごほんっ!カレン、ちょっといいか?それで、ここにお前を呼んだ理由なんだが・・・」
「っ!は、はい!何でしょうか!?」

 盛大に逸れてしまった話題に、デリックは咳払いをしては強引に話題を切り替えようとしている。
 デリックの咳払いに緊張を取り戻したカレンは、いよいよ本題に入ろうとしている彼の姿に背筋を伸ばしては姿勢を正している。
 そんな彼女の様子にデリックは僅かに相好を崩すと、若干砕けた口調で話し始めていた。

「いやなに、そんな緊張するこっちゃない。ただな、俺は聞きたいだけなんだよ・・・カレン、お前が連れてるあのトージローとかいう爺さんの事をな」

 そして彼は尋ねる、トージローの事を。
 その言葉に、思わずカレンは息を呑んでいた。

「そ、それは・・・」

 トージローの存在は、別に秘密という訳でも何でもない。
 寧ろ彼が異世界から召喚された勇者であるという事を誰にも信じてもらえなかった事実が、カレンの口を重くしていた。

「あぁ、別に何もお前を責めようって訳じゃない。てーかな、大体見当はついてんだよ。カレン、あんたの祖父はエセルバードのおっさんだろ?」
「え?はい、祖父は確かにエセルバードですが・・・どうしてそれを?」

 言い淀むカレンに何かを察したのか、デリックはそんな深刻な話じゃないと彼女に声を掛けている。
 そしてどこか面倒くさそうに頭を掻いた彼は、カレンの祖父について言及していた。
 何故、この国でも有数の冒険者であるデリックが祖父について知っているのか、それが不思議でカレンは首を捻る。

「そのあんたの祖父のエセルバードな・・・それ、俺の師匠だ」
「・・・・・・は?」

 そしてデリックは告げる、カレンの祖父であるエセルバード、それが自らの師匠だと。
 長い、長い沈黙を挟んでも尚、カレンはその意味が分からないとポカンとした表情を見せていた。
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