最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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アランとアレクシア

光明

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「おらおらぁ!!てめぇの狙いはこっちだろぉ!!」

 二手に分かれたアランとアレクシアに、守護者はその狙いを一瞬迷わせている。
 それを迷わせたままにはしたくないというのは、彼の作戦の一部か。
 アランはわざと挑発するような声とポーズを取って、こちらへと狙いを集めようとしていた。

「うおっ!?マジでこっちに来やがった!!えっ、本当に俺が狙いなの?」

 恐らく言葉が通じず、それ以上に道理が通じそうもない相手に、そんな安っぽい挑発が通じるとも思えない。
 しかし守護者はアランの思惑通り、あっさりと彼へと狙いを定めていた。
 それはまるで、始めから狙いはアラン一人であるかのような切り替えの早さであった。

「って、マジか!?マジっぽいな!おーいデカブツさーん、向こうにももう一人いますよー」

 完全にアランへと狙いを定めた守護者に、二手に分かれたもう片方、アレクシアはその後ろへとまんまと回り込んでいる。
 それは、アランの推測が正しかったことを示していた。

「ちょっと!?あんた何ばらしてんのよ!?作戦でしょ、分かってんの!?」

 自分にばかり攻撃が向くのが嫌だったのか、アランは後ろへと回り込んでいるアレクシアの存在をばらすように声を上げていた。
 それは彼が建てた作戦を台無しにする行為で、当然のことながらアレクシアはそれに文句を叫んでいた。

「オッケーオッケー、分かってるって!アレクシア、安心しろ!恐らくお前の存在は奴さんの眼中にないぞ!やりたい放題だ!!」
「ぐぬぬ・・・何かそう言われると、ちょっと悔しいような。複雑な気分・・・」

 しかしそれも、アランにはちゃんと狙いがあった行為のようだった。
 身振り手振りを交えてアレクシアの存在を伝えたアランの振る舞いは、たとえ言葉通じなくとも彼女の存在を守護者へと伝えるものだろう。
 それでもそれを完全に無視してこちらへと向かってきた守護者に、アレクシアが彼にとって注意を割くほどの存在ではないと思われている事は確かであるようだった。

「気にすんな、気にすんな!それより、分かってんだろうな!?」
「分かってるわよ!!えーっと・・・ここだったかな?」

 アレクシア自身はそれにどことなく不満のようだったが、その状況が作戦上都合がいいのは間違いないわけで、アランもそれを強調している。
 それにどうにかその不満を振り切ったアレクシアは、床を探っては何かを探しているようだった。

「っと、危ねー・・・狙いは悪くなかったぜ、あんた。でもそこは・・・アレクシア、今だ!!」

 自らの狙い通りに運んでいる事態も、相手の攻撃をもろに食らってしまえば一発でおじゃんになる。
 その緊張感がアランの集中力を途切れさせなかったのか、彼は自らの顔面を向かって飛んできた鉄槌をギリギリの所で躱している。
 勢い余ったそれは凄まじい威力そのままに遺跡の壁を打ち壊し、そこへとめり込んでしまっていた。
 アランはそれを捕まえて押さえつけると、合図の声を上げる。

「えっ!?」

 それは当初より決まっていた作戦通りの合図であったが、アレクシアは思わず驚きの声を上げてしまった。
 それは彼女が今だに、それに必要なあるものを見つけていなかったからである。

「ちょ、ちょっと待って!あ、これか!えいっ!!」

 それは、この遺跡に設置されている罠の一つだ。
 剣が通らない相手でも、もっと大掛かりで強力な攻撃であるならばダメージを与えられるかもしれない。
 その希望的観測が、彼らにこの作戦を選ばせた。
 アレクシアは予めアランから指示された場所を探り、ゴブリンの死体の下にようやくその姿を見つける。
 彼女がようやく見つけ、慌てて押し込んだその罠は―――。

『理解ふガッ!?』
「っ!どうだっ!?やったか!?」

 捕まえた腕に、屈んだ身体を掠めて伸びたその罠は、太く鋭い仕掛け槍だ。
 放置された年月にも錆びることのないその切っ先は、現代の技術では再現出来ない代物か。
 ならばこそその装甲も貫けるだろうと願って見上げた先には、その成果はまだ見えない。
 衝撃に大きく仰け反った守護者の身体に、その直撃した場所は隠れてしまっていた。

『理解・・・不能!』
「・・・くっ、駄目か」

 大きく仰け反った体勢も、やがて真っ直ぐに戻っていく。
 そうしてようやく見えたのは、何のダメージも追ってなさそうな守護者の姿であった。

「そんな!?もう手はないのアラン!?」
「・・・仕方ねぇ、逃げるぞアレクシア!こうなったらもう、他に手は・・・」

 反対側から加えられた攻撃に、アレクシアの方からはその成果が如何程かは分からない。
 それでもアランの反応から、それが駄目であったことは察することは出来るだろう。
 うまく嵌まった作戦に諦めきれない様子のアレクシアにも、アランは苦渋の表情で撤退を告げる。
 それは仕方のないことだろう、それが失敗した以上、他にダメージを負わせる方法などないのだから。

『理解、不能!』
「っ!しまっ―――」

 逃げる事に意識を割いたアランは、敵への注意を怠っている。
 それは守護者の攻撃に対する対処の遅れとなって表れて、彼がそれから逃れようとした時には、すでにそれはその眼前にまで迫ってしまっていた。

「っう~、危ねー!助かったぁ・・・」
「ちょっと!?何やってんのよ!!」

 ギリギリのタイミングに、アランが出来たのは僅かに身体を逸らす程度の動きでしかない。
 しかしその僅かな動きで、アランは守護者の鉄槌を躱すことに成功していた。
 その激しい衝撃は、掠めただけでも彼の顔面に痕を残していたが、それでも直撃するよりは比べものにならないほどにましだろう。

「ん?待てよ、何で躱せた?あんな動きで躱せるはずが・・・」

 躱した攻撃に、アランは距離を取りながらどこか違和感を感じていた。
 先ほどの彼は明らかに致命的な間違いを犯しており、それは致命傷を受けるという結果に繋がるはずであった。
 そうならなかった現実を喜ぶべきであったが、それは道理としては通ってはいない。
 それを不思議に思ったアランが守護者へと目を向けると、そこにはその理由の姿が映っていた。

「っ!おい、アレクシア!逃げるのは止めだ!まだやれっぞ!!」
「はぁ?何言ってんのよ、あんた!?さっきも死にかけたばっかじゃない、さっさと逃げるわよ!」

 先ほど見た時は傷一つないように見えた守護者の身体はしかし、今はそのガラス状の瞳の近くが欠けて見える。
 その欠損が、先ほどの攻撃を逸らした原因だろう。
 それを発見したアランは喜びの声を上げ、早速とばかりにアレクシアに撤退の中止を告げる。
 何故ならそれまでダメージを与える手段すらないと思われていた存在に、明確なダメージを与えることが出来たのだ。
 それならばそれが倒せると夢想しても、それは仕方のないことだろう。

「馬鹿!あれが見えねぇのか!!倒せんだよ、俺らでも!だからさっきのを繰り返して―――」

 アレクシアの角度からは、守護者の傷は見ることは出来ない。
 だから彼女はそれに反対したのだと、アランは考えたのか。
 しかし結果から言えば、アレクシアの意見の方が正しかったのだ。
 何故なら―――。

『理解、不能』

 アランは守護者の巨大な腕によって、捉えられてしまったのだから。

「ぐあぁぁっ!!?」

 傷を受け、ダメージを負ったとはいえ、それは致命的なものにはならない。
 一度の攻撃の失敗に、自らの標準のずれを修正した守護者は、今度はそれを外すことはない。
 正面からそれの直撃を食らってしまったアランは、為す術なく壁へと叩きつけられてしまう。 

「アラン!!?」

 壁へと叩きつけられたアランの身体は、一瞬の静止の後ゆっくりと崩れ落ちていく。
 その表情には、意識の灯は灯っていないように見える。
 そしてそんな彼の下に、守護者の手が伸びようとしていた。
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