ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

勇者がダンジョンにやってくる！

マーカス・テルフォードは反省会がしたい ２

「ぶー！ちょっとぐらいいいじゃん！マーカスのケチ！」
「リタ・・・最近頑張っているという事で、ここに入る事は許しましたが・・・私達は何をしにここに来たのか、ちゃんと分かっていますか？」

　酒場の雰囲気に酔ってか、少し背伸びしたい心持となっているリタは、それを許そうとしないマーカスに拳を振り上げて不満を示している。
　そんな彼女の振る舞いに頭を抱えて首を振っていたマーカスは、彼女に自分達が何故ここに訪れたのかを尋ねていた。

「えーっと、なんだっけ・・・打ち上げ？」

　初めて立ち入った酒場の雰囲気に舞い上がっていたリタからすれば、ここに来る為の目的などすでに果しているも同然であった。
　その彼女にとって、マーカスの語るそれを思い出すのは難しい。
　片手で頭の後ろを押さえては、そこを掻き混ぜるように動かしているリタは、首を思いっきり傾げると適当な言葉をひねり出していた。

「違いますっ！！反省会です、反省会！！全く貴方は、何度同じ失敗を繰り返せば気が済むのか！大体勇者というのはですね、我々―――」

　リタが冒険を失敗するのは、彼らがこの酒場を訪れる前に探索していたダンジョンが初めてという訳ではない。
　勇者としての使命を果すための実力を培うために、これまでも散々訪れたダンジョンや冒険に彼女はことごとく失敗してしまっていた。
　そのほとんどが、リタがその勇者たる証である聖剣ドーントレスの圧倒的な性能に頼り、考えなしに突き進んでしまった事が原因であった。
　彼女のお目付け役としてそれに付き従っていたマーカスは、当然の如くその度に危険な目に遭っている。
　彼は反省した様子もみせないリタの姿に、そんな不満も込めて説教を開始していた。

「うーん・・・長くなりそうだなー、これ。マーカス君が悪い時だってあるのに・・・」

　勇者のお目付け役として選ばれたマーカスは、若いながらも優秀な回復魔法の使い手であった。
　しかし彼は、そのメンタルに大きな欠点を抱えている。
　つまり実戦になると緊張し、危ない目に遭うと混乱して碌にその実力を発揮出来ないという欠点だ。
　そんな彼のために、失敗した冒険は少なくはない。
　リタに対して一方的に不満をぶつけてきているマーカスに、彼女もまた不満があるのにと唇を尖らせていた。

「大体、ダンジョンとかってもっと面白いものかと思ったけど、疲れるばっかりで全然楽しくないんだもん・・・もっと楽して強くなれる所とかないのかなぁ」
「・・・であって、ちょっと！聞いているのですか、リタ！！」
「はーい、ちゃんと聞いてまーす。はぁ・・・ん、何だろ？」

　勇者となったばかりの十代の少女に、ダンジョンに潜ってはまた別の冒険に出かけるという生活は辛い。
　彼女はその生活に嫌気が差しており、もっと手早く成長できる手段を求めていた。
　視線をきょろきょろと動かしては、話に集中している様子のないリタの姿に、マーカスをテーブルは叩いては注意を促している。
　彼のその言葉に適当に返事を返したリタは、それよりも近くのテーブルで話している、冒険者風の男達の会話の内容の方が気になっていた。