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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画
メイドとお坊ちゃんと冒険者 1
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走ったナイフは鋭く光り、しかし大した傷を与えることはない。
二頭の巨大な狼を何とかいなしながら、時間を稼いでいたアビーはしかし、自力の違いに徐々に追い詰められてしまっていた。
身体の至る所に浅い傷を負っていながらも余裕のありそうな狼達と違い、彼女は目立った傷こそないものの、その表情にははっきりとした焦りの色が覗いている。
「・・・これは、不味いかもしれません。エヴァン坊ちゃま、お逃げを」
追い詰められた状況にもかかわらず、アビーはその乱れた呼吸以外は一切、平静な様子を崩す事はない。
先ほど交差した狼が平然とした様子で地面へと降り立ったのを目にした彼女は、これ以上は持たないと悟って主人へと撤退を勧める。
彼女の後方には大きな木へと背中を預け、怯えた様子で迫り来る狼へと目をやっているエヴェンの姿があった。
「そ、そんな事出来るか!アビー、お前を置いて逃げるなど、我がレイモンド家の名折れである!!そんな事をするぐらいなら、いっそ我が剣で・・・!」
アビーは暗に、自らを見捨てて逃げろとエヴェンに語っている。
その言葉に貴族としてのプライドを刺激されたのか、エヴァンは怯えた身体を奮い立たせると、木へと預けた体重を取り戻して前へと一歩進み出ていた。
彼は背中に括り付けている大剣へと手を伸ばすと、それで戦闘へと加わろうと決意を固めている。
彼をその行動へと駆り立てたのは、果たして貴族としての矜持故だろうか、それともただただアビーを見捨てられないという強い思いが故だろうか。
「ちょ、これ・・・と、取れない。あ、あれ?どうすればいいの、これ?ちょ、アビー!手伝って!!」
強い決意を胸に前へと進み出たエヴェンはしかし、背中から引き抜こうとした大剣がうまく引き抜けず、その場でわちゃわちゃと慌て始めてしまっていた。
彼の身長に匹敵するような大剣をスムーズに引き抜くには、かなりの慣れが必要となってくるだろう。
しかし彼のそれはあくまでファッション、勇者のコスチュームプレイをしているだけの代物である。
そのため彼がそれをスムーズに引き抜ける訳もなく、途中でつっかえてどうにもならなくなってしまった状況に、アビーへと救援を求めるしかなくなってしまっていた。
「はぁ・・・坊ちゃま、この際ですからはっきり申し上げます。足手纏いですので、お早くお逃げください」
ナイフを構えるアビーに対して、二頭の狼達は中々仕掛けようとしない。
圧倒的に有利な状況にありながらも、彼らがそれをしないのはアビーがそれだけ実力者であったからだった。
そんなアビーがここまで追い込まれてしまった理由は、彼女の後ろでちょろちょろと動くエヴァンの存在が故である。
今でこそ後ろから襲われる事のない大きな木へと背中を預けているエヴァンだが、それまではあっちへうろうろこっちへふらふらと、アビーに負担を強いていた。
そのためアビーはこの追い詰められた状況に、全力で戦えるように足手纏いであるエヴァンを逃がそうとしていたのだ。
「し、しかし!これさえ抜ければ、私も戦えるのだ!!んん、このっ!えぇい!何故、抜けない!!聖剣アストライアよ、このエヴァン・レイモンドを拒むのか!?」
アビーからはっきりと足手纏いだと告げられても、エヴァンはそのつっかえてしまった大剣を抜こうとしては、身体を傾け続けていた。
彼はその大剣にまるで意思があるかのように呼びかけていたが、それは本物の聖剣であればこその振る舞いだろう。
彼のそれはあくまでレプリカに過ぎず、当然ながらピクリとも反応する事はなかった。
「エヴァン坊ちゃま。それは張りぼてでございますので、抜けるようには出来ておりません」
「えっ、そ、それ本当か!?え、じゃ、じゃあどうやって戦えば・・・?」
それどころか、それは始めから抜く事すら出来ないと、アビーは暴露する。
その大剣を引き抜いては、ばったばったっと敵を薙ぎ倒す自分をイメージしていたエヴァンは、その衝撃の事実に驚き戸惑ってしまっていた。
しかしそれも仕方のないことだろう、彼の貧弱な身体ではそんな巨大な大剣を抱える事など出来ようもない。
噂では、本物の聖剣はその持ち主のほとんどその重さを感じさせないというが、それを再現しろというのは流石に酷というものであろう。
「ですので、お逃げください。ここは私が何とかしますので」
「し、しかしだな・・・アビー、いやアビゲイル。お前を置いていく訳には・・・」
「安心してくださいませ、坊ちゃま。このアビゲイル、ここで死ぬつもりはございません。ですので安心して、お逃げください」
戦う術などないことを教えられたエヴァンはしかし、それでもアビーを見捨ててはいけないと粘っている。
そんな彼の振る舞いに、アビーは初めてその顔に笑顔を浮かべると、ここで死ぬつもりはないとはっきりと宣言していた。
「ぐっ・・・わ、分かった!私がここにいた方が、迷惑になるのだな!ならばここは退こう!しかしだな、アビー!必ず生きて帰るんだぞ!これは私、エヴァン・レイモンドとの約束だからな!!」
アビーの言葉はしかし、この絶望的な状況では守れない約束にしか思えなかった。
そんな彼女の健気な振る舞いに、エヴァンは目元を押さえて涙を堪えると、ようやく逃亡への決意を固める。
それでも彼は、アビーに向かって必ず生きて帰ってくるように厳命していた。
その言葉にアビーも目元を押さえると、涙を堪えるように僅かに俯いてしまっていた。
「はい、畏まりました。必ず生きて帰り、再び坊ちゃまへとお仕え致します」
「うぅ・・・そうだ!私のメイドは、お前だけだアビー!!絶対にお前以外雇わないからな!!お前が帰ってこなければ、私はまともに生活する事も出来ないのだからな!!それを忘れるのではないぞ!!」
頭を下げ、帰還を約束するアビーの振る舞いに、ついにエヴァンの目元から涙が零れ落ちていってしまう。
彼女の遺言めいたその言葉に、エヴァンは彼女の以外のメイドは決して雇わないと宣言して、その死を思い留まらせようと試みるが、果たしてそれに効果はあっただろうか。
その言葉を叫ぶと共に駆け出した彼が最後に目にしたのは、まるで死期を悟ったかのように澄み切った表情をしているアビーの姿であった。
『うぅぅぅぅ、がぁぁぁぁっっっ!!!』
目の前で武器を構える手練れの女と、背中を見せて逃げていく少年。
どちらが格好の獲物であるかなど、考えずとも分かる。
アビーと対面している二匹の狼の内一匹は、逃げていくエヴァンの背中に狙いを定めると、そちらに向かって飛び掛っていく。
二頭の巨大な狼を何とかいなしながら、時間を稼いでいたアビーはしかし、自力の違いに徐々に追い詰められてしまっていた。
身体の至る所に浅い傷を負っていながらも余裕のありそうな狼達と違い、彼女は目立った傷こそないものの、その表情にははっきりとした焦りの色が覗いている。
「・・・これは、不味いかもしれません。エヴァン坊ちゃま、お逃げを」
追い詰められた状況にもかかわらず、アビーはその乱れた呼吸以外は一切、平静な様子を崩す事はない。
先ほど交差した狼が平然とした様子で地面へと降り立ったのを目にした彼女は、これ以上は持たないと悟って主人へと撤退を勧める。
彼女の後方には大きな木へと背中を預け、怯えた様子で迫り来る狼へと目をやっているエヴェンの姿があった。
「そ、そんな事出来るか!アビー、お前を置いて逃げるなど、我がレイモンド家の名折れである!!そんな事をするぐらいなら、いっそ我が剣で・・・!」
アビーは暗に、自らを見捨てて逃げろとエヴェンに語っている。
その言葉に貴族としてのプライドを刺激されたのか、エヴァンは怯えた身体を奮い立たせると、木へと預けた体重を取り戻して前へと一歩進み出ていた。
彼は背中に括り付けている大剣へと手を伸ばすと、それで戦闘へと加わろうと決意を固めている。
彼をその行動へと駆り立てたのは、果たして貴族としての矜持故だろうか、それともただただアビーを見捨てられないという強い思いが故だろうか。
「ちょ、これ・・・と、取れない。あ、あれ?どうすればいいの、これ?ちょ、アビー!手伝って!!」
強い決意を胸に前へと進み出たエヴェンはしかし、背中から引き抜こうとした大剣がうまく引き抜けず、その場でわちゃわちゃと慌て始めてしまっていた。
彼の身長に匹敵するような大剣をスムーズに引き抜くには、かなりの慣れが必要となってくるだろう。
しかし彼のそれはあくまでファッション、勇者のコスチュームプレイをしているだけの代物である。
そのため彼がそれをスムーズに引き抜ける訳もなく、途中でつっかえてどうにもならなくなってしまった状況に、アビーへと救援を求めるしかなくなってしまっていた。
「はぁ・・・坊ちゃま、この際ですからはっきり申し上げます。足手纏いですので、お早くお逃げください」
ナイフを構えるアビーに対して、二頭の狼達は中々仕掛けようとしない。
圧倒的に有利な状況にありながらも、彼らがそれをしないのはアビーがそれだけ実力者であったからだった。
そんなアビーがここまで追い込まれてしまった理由は、彼女の後ろでちょろちょろと動くエヴァンの存在が故である。
今でこそ後ろから襲われる事のない大きな木へと背中を預けているエヴァンだが、それまではあっちへうろうろこっちへふらふらと、アビーに負担を強いていた。
そのためアビーはこの追い詰められた状況に、全力で戦えるように足手纏いであるエヴァンを逃がそうとしていたのだ。
「し、しかし!これさえ抜ければ、私も戦えるのだ!!んん、このっ!えぇい!何故、抜けない!!聖剣アストライアよ、このエヴァン・レイモンドを拒むのか!?」
アビーからはっきりと足手纏いだと告げられても、エヴァンはそのつっかえてしまった大剣を抜こうとしては、身体を傾け続けていた。
彼はその大剣にまるで意思があるかのように呼びかけていたが、それは本物の聖剣であればこその振る舞いだろう。
彼のそれはあくまでレプリカに過ぎず、当然ながらピクリとも反応する事はなかった。
「エヴァン坊ちゃま。それは張りぼてでございますので、抜けるようには出来ておりません」
「えっ、そ、それ本当か!?え、じゃ、じゃあどうやって戦えば・・・?」
それどころか、それは始めから抜く事すら出来ないと、アビーは暴露する。
その大剣を引き抜いては、ばったばったっと敵を薙ぎ倒す自分をイメージしていたエヴァンは、その衝撃の事実に驚き戸惑ってしまっていた。
しかしそれも仕方のないことだろう、彼の貧弱な身体ではそんな巨大な大剣を抱える事など出来ようもない。
噂では、本物の聖剣はその持ち主のほとんどその重さを感じさせないというが、それを再現しろというのは流石に酷というものであろう。
「ですので、お逃げください。ここは私が何とかしますので」
「し、しかしだな・・・アビー、いやアビゲイル。お前を置いていく訳には・・・」
「安心してくださいませ、坊ちゃま。このアビゲイル、ここで死ぬつもりはございません。ですので安心して、お逃げください」
戦う術などないことを教えられたエヴァンはしかし、それでもアビーを見捨ててはいけないと粘っている。
そんな彼の振る舞いに、アビーは初めてその顔に笑顔を浮かべると、ここで死ぬつもりはないとはっきりと宣言していた。
「ぐっ・・・わ、分かった!私がここにいた方が、迷惑になるのだな!ならばここは退こう!しかしだな、アビー!必ず生きて帰るんだぞ!これは私、エヴァン・レイモンドとの約束だからな!!」
アビーの言葉はしかし、この絶望的な状況では守れない約束にしか思えなかった。
そんな彼女の健気な振る舞いに、エヴァンは目元を押さえて涙を堪えると、ようやく逃亡への決意を固める。
それでも彼は、アビーに向かって必ず生きて帰ってくるように厳命していた。
その言葉にアビーも目元を押さえると、涙を堪えるように僅かに俯いてしまっていた。
「はい、畏まりました。必ず生きて帰り、再び坊ちゃまへとお仕え致します」
「うぅ・・・そうだ!私のメイドは、お前だけだアビー!!絶対にお前以外雇わないからな!!お前が帰ってこなければ、私はまともに生活する事も出来ないのだからな!!それを忘れるのではないぞ!!」
頭を下げ、帰還を約束するアビーの振る舞いに、ついにエヴァンの目元から涙が零れ落ちていってしまう。
彼女の遺言めいたその言葉に、エヴァンは彼女の以外のメイドは決して雇わないと宣言して、その死を思い留まらせようと試みるが、果たしてそれに効果はあっただろうか。
その言葉を叫ぶと共に駆け出した彼が最後に目にしたのは、まるで死期を悟ったかのように澄み切った表情をしているアビーの姿であった。
『うぅぅぅぅ、がぁぁぁぁっっっ!!!』
目の前で武器を構える手練れの女と、背中を見せて逃げていく少年。
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