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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画
アトハース村の食事事情 3
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「アイリス!・・・まったく。キルヒマンさん、僕達も行きましょう」
「ん?あぁ、そうだな」
アシュリーから掛けられた声に、そちらへと小走りで掛けていったアイリスは、その場に残した二人の事など気にも留めていない。
そんな彼女の姿に溜め息を漏らしたハロルドは、その横で頻りに辺りをきょろきょろと窺っているカイへと声を掛けると、自分達もそちらへと向かい始めていた。
「あ、キルヒマンさん。その節はどうもー、助かりました」
アシュリーの隣へと座ったアイリスに、ハロルドは自然とその対面へと座っている。
そうなると空いている席は、アシュリーの前だけとなる。
勿論ハロルドやアイリスの隣に座る事も出来たが、それは余りに不自然であろう。
そうして社会人としての気遣いでカイがアシュリーの正面の席へと着くと、それに気付いた彼女が声を掛けてきていた。
「あぁ、どうも・・・えーっと」
「あ、コープです。アシュリー・コープ」
書類を押し付けてきたギルドの職員の印象は強く残っているが、その名前までは記憶していない。
先ほどから周りで彼女の名を呼んでいる者もいたが、カイは勇者の姿を探すのでそれ所ではなかった。
「では、コープさんと。書類はあれで問題ありませんでしたか?あの時はすぐに帰ってしまって、気になっていたのです」
「いえいえー、全然大丈夫でしたよ!あのおかげですっごく助かりました!!本当、ありがとうございます!!」
言葉に詰まったカイが自分の名前を知らないのだとすぐに察したアシュリーは、それを名乗って薄く笑みを浮かべている。
確かに彼女が自ら話すように、カイがあのダンジョンの名前を正式に命名した事で、彼女の仕事は随分と楽になっているのだろう。
それは以前あった時と比べると明らかにやさぐれた雰囲気が減り、穏やかな表情を浮かべている彼女の様子からもはっきりと確認できた。
「そうだ!これ使いますか?皆に勧めてるんですけど、誰も使ってくれないんですよー」
「止めてくださいよ、コープさん。そんなの誰も使わないですって。キルヒマンさんも、受け取らなくていいですからね」
「えー、向こうでは結構流行ってるんだけどなぁ・・・」
自らが箸を置いて傍らに置いていた荷物をごそごそと探ったアシュリーは、そこから小ぶりなケースを取り出していた。
そのケースを開けて新品の箸を取り出したアシュリーは、それをカイへと差し出しては使うように勧めている。
そんな彼女の振る舞いにハロルドは苦い顔をしては、カイに対して受け取ることはないと忠告していた。
「いやハロルドの言う通り、私は・・・ん、これは・・・?もしかして箸、ですか?」
アシュリーが差し出したものを、ハロルドの言う通り断ろうとしていたカイも、その懐かしい姿を見ればその言葉を途中で飲み込んでしまう。
彼女が差し出しているただの短い木の棒は、カイにとっては慣れ親しんだ道具だ。
それを久しぶりに目にすれば、思わずその名前を口にしてしまうのも仕方のないことであろう。
しかし果たしてそれは、パスカル・キルヒマンが知っている情報であったのであろうか。
「そうですそうです!良くご存知ですね!」
「えっ!?い、いや・・・これでも商人なのでね、巷の流行ぐらいは知っておかないと・・・」
自らが差し出したものを知っていると反応したカイに、アシュリーは嬉しそうに声を上げている。
その反応に不味かったかと察したカイは、慌てて先ほどのアシュリーの言葉を思い出して、それを誤魔化していた。
「と、とにかく!これはありがたく使わせてもらいます。一度使ってみたかったんですよ」
不自然な知識を誤魔化してしまいたいならば、それは受け取らない方がいいのだろう。
しかし懐かしいその手触りに触れてしまえば、今更それから手放す事は難しい。
カイはアシュリーからそれを受け取ると、大事そうにそれを懐へと仕舞っていた。
「どうぞどうぞー!ほーら、やっぱり外の人には分かるんだよー!この道具の良さが!!」
「キルヒマンさんは、大人だから気を使ってくれたんですよ」
「なんだとー!」
「あはははっ!二人とも落ち着いて、ご飯冷めちゃうよー」
こっちに来てから初めての理解者に、アシュリーは勝ち誇ったような表情をハロルドへと向けていた。
そんな彼女の振る舞いに冷めた視線を返したハロルドは、カイが気を遣ってくれたのだとぼそりと呟いている。
アシュリーはそんな彼の態度が気に入らないと拳を振り上げていたが、それはアイリスの明るい笑い声を引き出すだけであった。
「おいおい、俺抜きで始めてんなよ?で、俺の飯は?」
暴れていた男を出張所へと放り込んできたクリスが、自分抜きで食事を始めようとしている仲間達に対して、軽く文句を零している。
しかしそんな不満も空腹には逆らえず、彼はすぐにハロルドの隣の席へと座ると、自分の分のご飯を要求していた。
「ちゃんと取ってあるよ」
「おー、サンキュー!」
自らの前に食事の入った器を運ばれれば、クリスの不満など瞬く間に消えてしまうだろう。
事実すぐに嬉しそうな声を上げ、機嫌の悪さなど微塵も見せなくなったクリスは、早速とばかりにそれに手をつけ始めている。
クリスが席に着いた事か、それとも彼のそんな振る舞いが切欠になったのか、とにかくも残った皆も一斉に食事を始めていた。
「あれ?キルヒマンさん、箸の扱いうまいですね。初めて使ってそれですか?私なんて慣れるのに結構掛かったのに・・・」
「ん?ま、まぁそれほどでも・・・いや、実は以前一度使ったことがあってですね・・・」
食事を始めてしまえば、どうしても先ほど貰った箸を使ってみたくなる。
その衝動に抗えなかったカイがこっそりと使っていた箸を、アシュリーは目敏く見つけてはその箸捌きに感心の声を漏らしている。
それもその筈だろう、彼の箸捌きはそれなりの時間それを使い、扱いに慣れてきたアシュリーよりもずっと洗練されたものなのだから。
カイがそれに対して苦しい言い訳を述べている後ろで、この広場に新たな一行が現れていた。
それはカイがずっと探していた存在に似た姿をしていたが、今のカイはそれ所ではない状況であった。
「ん?あぁ、そうだな」
アシュリーから掛けられた声に、そちらへと小走りで掛けていったアイリスは、その場に残した二人の事など気にも留めていない。
そんな彼女の姿に溜め息を漏らしたハロルドは、その横で頻りに辺りをきょろきょろと窺っているカイへと声を掛けると、自分達もそちらへと向かい始めていた。
「あ、キルヒマンさん。その節はどうもー、助かりました」
アシュリーの隣へと座ったアイリスに、ハロルドは自然とその対面へと座っている。
そうなると空いている席は、アシュリーの前だけとなる。
勿論ハロルドやアイリスの隣に座る事も出来たが、それは余りに不自然であろう。
そうして社会人としての気遣いでカイがアシュリーの正面の席へと着くと、それに気付いた彼女が声を掛けてきていた。
「あぁ、どうも・・・えーっと」
「あ、コープです。アシュリー・コープ」
書類を押し付けてきたギルドの職員の印象は強く残っているが、その名前までは記憶していない。
先ほどから周りで彼女の名を呼んでいる者もいたが、カイは勇者の姿を探すのでそれ所ではなかった。
「では、コープさんと。書類はあれで問題ありませんでしたか?あの時はすぐに帰ってしまって、気になっていたのです」
「いえいえー、全然大丈夫でしたよ!あのおかげですっごく助かりました!!本当、ありがとうございます!!」
言葉に詰まったカイが自分の名前を知らないのだとすぐに察したアシュリーは、それを名乗って薄く笑みを浮かべている。
確かに彼女が自ら話すように、カイがあのダンジョンの名前を正式に命名した事で、彼女の仕事は随分と楽になっているのだろう。
それは以前あった時と比べると明らかにやさぐれた雰囲気が減り、穏やかな表情を浮かべている彼女の様子からもはっきりと確認できた。
「そうだ!これ使いますか?皆に勧めてるんですけど、誰も使ってくれないんですよー」
「止めてくださいよ、コープさん。そんなの誰も使わないですって。キルヒマンさんも、受け取らなくていいですからね」
「えー、向こうでは結構流行ってるんだけどなぁ・・・」
自らが箸を置いて傍らに置いていた荷物をごそごそと探ったアシュリーは、そこから小ぶりなケースを取り出していた。
そのケースを開けて新品の箸を取り出したアシュリーは、それをカイへと差し出しては使うように勧めている。
そんな彼女の振る舞いにハロルドは苦い顔をしては、カイに対して受け取ることはないと忠告していた。
「いやハロルドの言う通り、私は・・・ん、これは・・・?もしかして箸、ですか?」
アシュリーが差し出したものを、ハロルドの言う通り断ろうとしていたカイも、その懐かしい姿を見ればその言葉を途中で飲み込んでしまう。
彼女が差し出しているただの短い木の棒は、カイにとっては慣れ親しんだ道具だ。
それを久しぶりに目にすれば、思わずその名前を口にしてしまうのも仕方のないことであろう。
しかし果たしてそれは、パスカル・キルヒマンが知っている情報であったのであろうか。
「そうですそうです!良くご存知ですね!」
「えっ!?い、いや・・・これでも商人なのでね、巷の流行ぐらいは知っておかないと・・・」
自らが差し出したものを知っていると反応したカイに、アシュリーは嬉しそうに声を上げている。
その反応に不味かったかと察したカイは、慌てて先ほどのアシュリーの言葉を思い出して、それを誤魔化していた。
「と、とにかく!これはありがたく使わせてもらいます。一度使ってみたかったんですよ」
不自然な知識を誤魔化してしまいたいならば、それは受け取らない方がいいのだろう。
しかし懐かしいその手触りに触れてしまえば、今更それから手放す事は難しい。
カイはアシュリーからそれを受け取ると、大事そうにそれを懐へと仕舞っていた。
「どうぞどうぞー!ほーら、やっぱり外の人には分かるんだよー!この道具の良さが!!」
「キルヒマンさんは、大人だから気を使ってくれたんですよ」
「なんだとー!」
「あはははっ!二人とも落ち着いて、ご飯冷めちゃうよー」
こっちに来てから初めての理解者に、アシュリーは勝ち誇ったような表情をハロルドへと向けていた。
そんな彼女の振る舞いに冷めた視線を返したハロルドは、カイが気を遣ってくれたのだとぼそりと呟いている。
アシュリーはそんな彼の態度が気に入らないと拳を振り上げていたが、それはアイリスの明るい笑い声を引き出すだけであった。
「おいおい、俺抜きで始めてんなよ?で、俺の飯は?」
暴れていた男を出張所へと放り込んできたクリスが、自分抜きで食事を始めようとしている仲間達に対して、軽く文句を零している。
しかしそんな不満も空腹には逆らえず、彼はすぐにハロルドの隣の席へと座ると、自分の分のご飯を要求していた。
「ちゃんと取ってあるよ」
「おー、サンキュー!」
自らの前に食事の入った器を運ばれれば、クリスの不満など瞬く間に消えてしまうだろう。
事実すぐに嬉しそうな声を上げ、機嫌の悪さなど微塵も見せなくなったクリスは、早速とばかりにそれに手をつけ始めている。
クリスが席に着いた事か、それとも彼のそんな振る舞いが切欠になったのか、とにかくも残った皆も一斉に食事を始めていた。
「あれ?キルヒマンさん、箸の扱いうまいですね。初めて使ってそれですか?私なんて慣れるのに結構掛かったのに・・・」
「ん?ま、まぁそれほどでも・・・いや、実は以前一度使ったことがあってですね・・・」
食事を始めてしまえば、どうしても先ほど貰った箸を使ってみたくなる。
その衝動に抗えなかったカイがこっそりと使っていた箸を、アシュリーは目敏く見つけてはその箸捌きに感心の声を漏らしている。
それもその筈だろう、彼の箸捌きはそれなりの時間それを使い、扱いに慣れてきたアシュリーよりもずっと洗練されたものなのだから。
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