ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

不可解な死闘 2

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『お、俺にそれを聞くな!?俺にだって分からんのだ!分からんが、しかし・・・』

 その言葉にはマルセロも同じように思っていたのだろう、自分にも分からないと彼は喚き散らしていた。
 しかし分からないと叫んだ彼は、その最後に背後を振り返ると、ある一点に向かって視点を向ける。
 そこには冒険者風の二人の男と、二対の屈強なゴブリンに護衛されている人間達の姿があった。

『あそこにおわすのは、かの御方のなのだろう?それが戦えと仰られておるのだ、我等が逆らえる訳もなかろう?』
『それも、あのゴブリン共が勝手に言っておる事だろう?どこまで本当なのか・・・怪しいものよ』

 マルセロが視線を向ける先には、一人の小太りの人間の姿があった。
 それが彼らの主人、かのカイ・リンデンバウムだと、その身を守るゴブリン達が伝えてきたのだ。
 その上、そのカイ・リンデンバウム自らが襲いかかってくる魔物達と戦えと命令を下せば、表立って逆らう訳にもいかなくなる。
 そのような理由があり、彼らがここで必死で魔物達を防いで戦っていたのだった。

『確かにそうだが・・・あの御方とまともに拝謁したことのない我らと違い、奴らは直接言葉を賜ったことすらあるのだ。それにあのお方は、ドッペルゲンガーだという。であれば、その姿がどのような見た目であってもおかしくはないだろう?』
『ふん、どういう訳か奴らはあの御方のお気に入りらしいからな。確かに極秘に特別な任務を任されていてもおかしくはないか・・・しかしあの御方は、一体何をされたいのか』

 今もその人間の傍に侍り、そこに近づく魔物達を警戒している二人のゴブリン、レクスとニックは数多くいるゴブリン達の中でも特にこのダンジョンの主、カイ・リンデンバウムの覚えのいいゴブリンであった。
 その言葉は重く、また実際に彼らが必死に身体を張ってその人間を守っている姿は説得力があった。
 彼らならば、自分達が知らない何か特別な事情があってもおかしくはないと語るルーカスに、マルセロも静かに頷いている。
 彼らと同じように周辺で戦っているゴブリン達も、どうやら同じような考えを抱いているようだった。

『それは、見当もつかんが・・・ルーカス、前だ!!』

 彼らの主人である、カイ・リンデンバウムがどのような思惑持ってこんな事をしているのか、それはマルセロにも全く見当がつかない。
 理解出来ない主人の振る舞いに気を取られている彼は、それに気づくのが遅れてしまう。
 ルーカスの目の前には、魔物が今まさに飛びかかろうとしている所だった。 

『ふぬらぁっ!!ふん、これぐらい言われなくとも気付いておるわっ!』

 気合の声と共に振り切ったルーカスの棍棒は、その遅れたタイミングを凌駕するほどの速度を持って飛びかかってきた魔物を薙ぎ払う。
 凄まじい威力の衝撃に、残ったのはその魔物の下半身だけだろうか。
 衝撃に流され、地面へと落ちたその獣の下半身からは、飛びかかってきた魔物が何者であったのかもはや分からない。
 マルセロの助けを借りずとも、自分で何とかしてやったという気概を叫ぶルーカスは、始めからそれに気付いていたと嘯いていた。
 果たして、それは本当だろうか。

『・・・だが、こちらには気付かなかったようだな。どうやら、まだまだ本調子でないようではないか?』
『ふん、ぬかせっ!!』

 少なくとも彼は、横から飛び掛ってくるもう一匹の魔物には気付いてはいなかったようだ。
 その魔物をルーカスの後ろから槍を伸ばし、貫いたマルセロは皮肉げに唇を歪めると、彼がまだ本調子ではないのではないかと肩を竦めている。
 そんなマルセロの振る舞いにルーカスは鼻を鳴らすと、背中から伸びた彼の槍を振り払っていた。

『さて・・・どうやら、お遊びはここまでのようだな』

 振り払った槍から落ちた魔物の死体は、先ほど下半身だけになったそれと重なっている。
 偶然重なったそのシルエットは、彼らが同じ種族であったことを示しているのだろう。
 そんな光景をチラリと覗いたマルセロは、響く足音に顔を上げている。
 その先には栓が抜けたように溢れ出している、魔物達の群れがやってきていた。

『こっちは始めから、遊んでなどおらんわっ!!・・・死ぬなよ、マルセロ』
『ふっ・・・それは、こっちの台詞であろうよ』
『はっ、違いない』

 それは、この束の間の休息の終わりを告げる合図だろう。
 それを言葉にして惜しむマルセロに、ルーカスは始めからそんなつもりはないと怒鳴り返している。
 そんな彼も、その最後には横に並ぶ同胞の、相棒の命を惜しむ言葉を吐いていた。
 ルーカスのそんな言葉に、マルセロが思わず笑みを漏らしてしまったのは、それがどう考えても彼の方に当てはまる台詞であったからだ。
 それはルーカス本人も分かっているのか、彼も薄く笑みを漏らしている。
 彼らの目の前には、もはや手が届きそうな距離にまで敵が迫っていた。
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