ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

大成功の報告会

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「いやー、お前達残念だったな!!しかし、気にするのではないぞ。勇者を逃がしたといっても―――」

 最奥の間へと辿りつき、その扉を押し開いたカイは、意気揚々と計画の失敗を宣言する。
 彼がこのダンジョンに赴任することになった当初から温めていた計画が頓挫したにしては、それは余りに明るい声過ぎるだろう。
 しかし、それも仕方のないことだろう。
 彼にとってその結果こそが大成功といえるものであり、しかもそれを命懸けで勝ち取った成果であるのだから。
 そして何より、その明るすぎる声は決して、場違いなものではなかった。

「「おめでとうございます、カイ様!!!」」

 何故なら、その部屋で待機していた者達もまた、彼に勝るとも劣らないほどの明るい声を叫んでいたからだ。
 部屋の中で一斉に頭を下げ、カイへとお祝いの言葉を述べてきたのはヴェロニカとダミアン、そして若干服装がボロボロなセッキであった。
 カイがその予想とは違うリアクションに驚き、目をぱちぱちと瞬いていると、まるで騙し絵のような唐突さで、そこにフィアナの姿も加わっていた。

「気にすることは・・・って、あれ?何かおかしいような・・・?」

 興奮と共に魔物達の間を駆け抜け、その者達から祝いの言葉を散々浴びせかけられても、その違和感に気づけなかったカイも流石に、ヴェロニカ達のその言葉には何か違和感を感じたようだ。
 失敗した計画に、それを気にするなと労おうとしていた相手が、お祝いの言葉を述べ、今満面の笑みをこちらへと向けている。
 そんな状況に、おかしいと思えないほどカイも愚かではなかった。
 しかしそれは、この状況を即座に理解出来るという意味ではない。
 想定していた状況とは全く違う現状に、カイは理解が追いつかず、まさに頭が真っ白になってしまっていた。

「カイ様 、何か仰いましたか?」
「んん?いや、まぁ何というかだなその・・・お前達、落ち込んではいないのか?」

 カイがこの部屋へと飛び込むや否や話していた言葉は、彼へとお祝いの言葉を述べるのに必死であったヴェロニカ達にはうまく聞き取れてはいない。
 しかしそれは彼らの揃った声と動きを見れば、仕方ないというものだろう。
 寧ろそれはカイにとって都合のいい事であったが、彼女達も彼が何かを言っていたというのは気付いていたらしく、ヴェロニカが代表してそれを尋ねてくる。
 明らかに想定していた状況とは違う今に、カイはそれを言葉を濁して誤魔化すことしか出来ない。
 彼はそれよりも、彼女達が何故落ち込んでいないのかが気になってしょうがないようだった。

「落ち込む、ですか?そうですね確かに、カイ様のお考えの深さに驚くと共に、自らの余りの不甲斐なさに激しく落ち込んではおります」

 カイの発言に始めは何の事を言われているのか分からないと首を傾げていたヴェロニカも、それが自らの不甲斐なさを叱責する言葉だと解釈すれば腑にも落ちてしまう。
 ヴェロニカ達の計画では勇者を確実に抹殺するのが精一杯で、その後の事まで考えてはいなかった。
 それに引き換え、カイはその後の展開をも考えて有力なコネ作りに奔走していたのだ。
 ヴェロニカ達の間ではそういう事になっているカイの行動に、彼女は強い尊敬とそれと比べた自らの不甲斐なさを痛感してしまっていた。

「然り然り。まさかカイ様があのような事までお考えであったとは・・・このダミアンを持ってしても、読み切れませんでしたぞ」

 そしてそれは、この私も同様だとダミアンが同意する。
 自らの服の裾を握り締めては、不甲斐なさに涙すらしそうなヴェロニカの姿だけでも激しく戸惑ってしまっていたカイは、そんな彼の発言にいよいよ訳が分からないと混乱してしまっていた。

「そ、そうか?まぁ、確かに色々と考えた故の行動ではあったが・・・」

 確かに彼らの言う通り、今回のカイの行動は色々と考えてのものであった。
 しかしそれは、いかにして彼らに気取られないようにその計画を妨害するかといったものであって、彼らが期待するような意味合いのものではない。
 しかし食い違った考えは、意外なほどに噛み合ってしまっている会話によって、もはや取り返しのつかない方向へと転がっていってしまう。

「やはり、そうでございましたか!!それでしたら次はやはり、あの国へと進出を・・・?」

 カイの言葉に、自らの推測していたことが事実だと確信したヴェロニカは、その目を輝かせると両手を合わしては喜びを顕にしている。
 彼女はカイへと詰め寄り、その輝く瞳で彼の顔を覗きこむと、次の計画の事を聞きたいと催促していた。

「・・・あの国?あ、あぁ!あの国の事か!そこに進出だと・・・?それはそうだな、えーっとなんと言えばいいのか・・・」

 しかし彼女が話すあの国というのが一体何の事なのか、カイにはさっぱり分からない。
 それでも彼女の期待に輝く瞳を見れば、それを知らないと正直に話すことなど出来ないだろう。
 故に、必死に知ったかぶりを開始したカイは、出来るだけ言葉を濁しては、なんとなく何かを考えているような雰囲気の言葉を並び立てていた。

「ヴェロニカ、それはまだ早かろうて。全ては追々じゃよ、追々とな」

 そんな言葉をはぐらかし、これからの予定を曖昧にしているカイの姿を、周りは一体どう見るのであろうか。
 少なくともダミアンはそれを、まだ口には出来ない計画なのだと解釈したようだった。
 如何に信頼のおける仲間達だけの空間とは言えど、一度口外した情報はどこかから漏れてしまうものである。
 カイの振る舞いはそれを嫌ったものだと解釈したダミアンは、それを無理やり口にさせようとしているヴェロニカに対し、やんわりと苦言を呈していた。

「っ!?そうね・・・そうだったわ。申し訳ありませんカイ様、先走ってしまい」
「っん、っんん!分かってくれればいいのだ、分かってくれれば。別に謝ることはないぞ、ヴェロニカよ」

 ダミアンの指摘にハッとした表情で顔を上げたヴェロニカは、全てを悟ったように顔色を青ざめさせると、自らの粗相を深々と頭を下げて謝罪する。
 目の前で繰り広げられた二人のやり取りも、今ヴェロニカが頭を下げている理由も、カイには理解出来ない。
 しかし何となく自分に都合のいい方へと話題が転がっていっているような感覚は、確かに感じ取れていた。

「それについては、追々話そうではないか。それよりも先ほどの祝いの言葉は、何の対しての事だったのだ?私としては今回の計画は失敗だと―――」

 ヴェロニカ達が口にしていた何かについては、後でそれとなく聞けばきっと分かるだろう。
 カイはそれよりもこの場に漂う違和感の正体について、早く解き明かしたいと願っていた。

「ねぇねぇ、セッキー?どうだったのー、勇者との戦い!楽しかったー?」
「おぅ!!そりゃもう、楽しかったぜ!!久々に血湧き肉躍るってもんよ!!まぁ、油断してたせいで軽く死に掛けちまったがな!!がっはっはっはっは!!!」

 カイとヴェロニカ達が話している間、暇になったのかセッキとフィアナが何やら別の話題について話し始めていた。
 それは彼らの性格を考えれば仕方のないことかもしれないし、そのやり取り自体は微笑ましいものだろう。
 しかし、その話題は何か、聞き流してはいけないワードが含まれていたような。

「いいなー、フィアナも戦ってみたかったなー!」
「お前がかぁ?無理無理、戦いにもなんねぇって」
「えー!?なんでさー!!」

 セッキが控えていたのは、最奥の間のすぐ手前、いわゆるボス部屋と呼ばれる場所だ。
 勇者であるエヴァンは、カイと共にダンジョンの一階部分までした進攻せずに引き返した筈。
 そのエヴァンが、セッキと戦う筈などない。
 そんな事は、あってはならないのだ。

「ちょ、ちょっと待てセッキ!お前は一体何の話を―――」
「またまた、ご謙遜を。今回の計画の成功は、何よりカイ様がご存知でしょうに。そうですね、余りもったいぶるのもいけませんし、そろそろお披露目と致しましょう」
「え?いや、そうではなくてだな・・・」

 耳にしたセッキとフィアナの会話に、聞き流してはならない言葉を聞いたカイは、それを問い質そうと彼へと声を掛けようとする。
 しかしそれは、自らの成果を早くお披露目したいと、ワクワクしているヴェロニカによって遮られてしまう。
 主人の言葉を遮ってしまう彼女の振る舞いにダミアンが静かに首を横に振っていたが、今の興奮した彼女がそれに気付くことはないだろう。

「では、出てきなさい。勇者、リタ・エインズリー」

 ヴェロニカの静かな声に、すっとセッキの背中から現れたのは、真っ赤な髪の小柄な少女であった。
 その姿には見覚えがあると咄嗟に感じたカイも、その手に握られた剣を目にすれば見間違うことはないだろう。
 今も光り輝くその聖剣を手にする少女こそ、勇者であると。

「・・・へ?」

 その事実を理解したからこそ、カイは理解出来ない状況に疑問を漏らしている。
 彼が今回起こった事を全て理解するためには、十分な時間が必要だろう。
 そして彼がそれを理解した時、全ては手遅れになってしまっていた。
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