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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画
メルクリオ・バンディネッリとそのメイド達 1
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コトリと音を立ててテーブルへと置かれたティーカップに、ニコレッタは静かに背中を震わせていた。
この部屋はその主人であるメルクリオ・バンディネッリの趣味に合わせて作られおり、その調度品も高級品ばかりだ。
そんな自らがその場にいることも憚られるような空間に、響いた小さな音はまるで彼女を責めるように大きく聞こえる。
それは彼女が、この部屋の主人メルクリオを過剰に畏れていることも関係あるだろう。
孤児であった所を拾われ、ここまで育ててもらった恩のある彼女は、そんな些細な失敗も許されないと強く意気込んで、今日の初仕事に挑んでいたのだ。
そんな彼女であれば、そんな些細な失敗に竦んでしまっても仕方がない。
背筋を伸ばし、空になったお盆をまるで盾のようにそのお腹の前に抱えたニコレッタは、主人のお咎めを覚悟しながら、静かにその目を閉ざしていた。
「っふふふ、そう来ましたか。やはりあの方の為さる事は面白い、まさに驚嘆に値しますね。何か事を為されるとは予想していましたが・・・まさか、これほどとは」
しかしいつまで待っても、覚悟していたお咎めはやってくることはない。
恐る恐る目を開いたニコレッタが目にしたのは本当に、本当に機嫌良さそうに笑う主人の姿であった。
職業柄、常に柔和な笑顔を浮かべていることの多いメルクリオもその実、その目だけは決して笑うことはない。
しかし今、目の前で笑みを漏らしている彼は、本当に愉快そうな表情をその顔に浮かべていた。
「・・・私の笑顔が、そんなに珍しいですかニコレッタ?」
「っ!?い、いえそんな!滅相もございません!!」
珍しく、鳥人用に翼を伸ばすスペースの開いた椅子へと深く腰を掛けていたメルクリオは、そこから僅かに背中を伸ばすとニコレッタへと視線を向けている。
彼の指摘は、その彼の顔をジッと見詰めていたニコレッタの振る舞いを考えれば、至極当然のものであろう。
彼女自身も主人の、それも特に気が緩んでいたであろう表情をジッと見詰めていたことが失礼だったとすぐに理解したのか、慌てて謝罪の言葉を叫んでは深く頭を下げていた。
「あー!メルクリオ様がニコちゃんを苛めてるー!!いーけないんだー、いけないんだー!」
「・・・苛め、よくない」
下げた頭をその時と同じぐらいの勢いで上げたニコレッタは、今にも泣き出しそうな表情でお盆を抱えて怯えている。
そんな彼女の姿に、彼女の同僚であろう鳥人の二人が口々に文句を告げてきていた。
小柄で赤髪の鳥人の少女は、そのメイド服のような衣装を翻しながら大声でメルクリオへと文句を述べている。
彼女とは逆に、大柄で青髪の鳥人の少女は、ぼそりと呟くような小声で抗議を告げていた。
それは前述の少女と比べれば穏やかな抗議に思えるが、よく見ればその手には掃除用具であろう箒が握られており、いつでもそれを振るえるように構えられているのであった。
「ビオンダにエウラリアか・・・お前達、仕事はどうした?」
「なんだよー!私達は休憩もしちゃ駄目だってか!!」
今、メルクリオに侍っているメイドはニコレッタだけだ。
つまり目の前に現れた二人、ビオンダとエウラリアは本来与えられた仕事を放り出してこの場にいることになる。
その事実に頭を抱えるメルクリオがそれをそっと指摘しても、ビオンダは寧ろ開き直ったように堂々とサボっていると宣言するだけ。
そんな彼女の姿に、メルクリオはそっとずり落ちてしまったメガネを直していた。
「休憩時間は適宜、用意している筈なのだがな・・・エウラリア、お前はどうしたのだ?」
「・・・私はもう、終わらせた」
「そうか、ならばいい」
メルクリオの指摘に居直っては、寧ろ堂々とこの場に居座る姿勢を見せているビオンダに、彼女をどうにかするのを諦めたメルクリオはその場に居座るもう一人、エウラリアへと話題を向ける。
彼女はそんなメルクリオの言葉に、表情一つ崩さずに自らの仕事はもう終わらせてしまったと告げていた。
「あー!!裏切ったなー、エラちゃん!!この裏切り者ー!要領上手ー!!」
「・・・ふふふ、ぶいぶい」
自分と同じようにサボっていると思っていた同僚が、実は既に仕事を終えていたと知ったビオンダは、その裏切りに絶望したと当り散らしている。
しかし語彙力のない彼女は、その罵倒の言葉もうまく捜せずに結果的にエウラリアの事を褒めてしまう。
そんな彼女の姿に誇らしそうな笑顔を見せては、静かに指を二本立てたエウラリアは、その両手を前後に動かしてはビオンダに対して、可愛らしく煽って見せていた。
「ま、いっか。そんな事よりー・・・メルクリオ様ー、さっきはなにを見て笑ってたんです?それですか、その手紙ですか!私にも見せてくださいよー」
「せ、先輩!失礼ですよ、そんな事しちゃ駄目です!!」
振り回す両手を急に収めて、それに興味を失ったように動きを止めたビオンダはどうやら、先ほど珍しく笑顔を見せたメルクリオの事の方が気になったようだ。
彼女はその笑顔の原因が、彼が手にする手紙にあると推測し、それを奪おうとずかずかと彼の執務室へと足を踏み入れる。
そんな彼女の振る舞いに、これまでずっと事態を傍観していたニコレッタも流石に見過ごすことが出来ず、その豊かな胸を揺らしてはビオンダを止めようと腕を伸ばしていた。
「この手紙は、ヴェロニカ・クライネルト嬢直筆のものですが・・・それでも、よろしければどうぞ」
「ひぃ!?あ、あの『屍姫』のですか!?いいですいいですー!!うわぁー!?こっち向けないでくださいー!!」
ニコレッタのどんくさい制止の動きを簡単にいなしながら、メルクリオの手紙を奪おうと手を伸ばしているビオンダに、彼は逆にそれを差し出してはご自由にどうぞと囁いている。
しかし彼からその手紙の差出人の名前を聞いたビオンダは、悲鳴を上げると即座に伸ばしていた腕を引っ込めていた。
屍姫というヴェロニカの異名は、確かに恐ろしいものだろう。
しかし彼女がそれを嫌がったのは、それだけが理由ではないのかもしれない。
それを思い、僅かに表情を翳らせたメルクリオはしかし、ビオンダの騒がしいリアクションに唇を吊り上げさせると、グイグイとそちらに向かって手紙を差し出していた。
この部屋はその主人であるメルクリオ・バンディネッリの趣味に合わせて作られおり、その調度品も高級品ばかりだ。
そんな自らがその場にいることも憚られるような空間に、響いた小さな音はまるで彼女を責めるように大きく聞こえる。
それは彼女が、この部屋の主人メルクリオを過剰に畏れていることも関係あるだろう。
孤児であった所を拾われ、ここまで育ててもらった恩のある彼女は、そんな些細な失敗も許されないと強く意気込んで、今日の初仕事に挑んでいたのだ。
そんな彼女であれば、そんな些細な失敗に竦んでしまっても仕方がない。
背筋を伸ばし、空になったお盆をまるで盾のようにそのお腹の前に抱えたニコレッタは、主人のお咎めを覚悟しながら、静かにその目を閉ざしていた。
「っふふふ、そう来ましたか。やはりあの方の為さる事は面白い、まさに驚嘆に値しますね。何か事を為されるとは予想していましたが・・・まさか、これほどとは」
しかしいつまで待っても、覚悟していたお咎めはやってくることはない。
恐る恐る目を開いたニコレッタが目にしたのは本当に、本当に機嫌良さそうに笑う主人の姿であった。
職業柄、常に柔和な笑顔を浮かべていることの多いメルクリオもその実、その目だけは決して笑うことはない。
しかし今、目の前で笑みを漏らしている彼は、本当に愉快そうな表情をその顔に浮かべていた。
「・・・私の笑顔が、そんなに珍しいですかニコレッタ?」
「っ!?い、いえそんな!滅相もございません!!」
珍しく、鳥人用に翼を伸ばすスペースの開いた椅子へと深く腰を掛けていたメルクリオは、そこから僅かに背中を伸ばすとニコレッタへと視線を向けている。
彼の指摘は、その彼の顔をジッと見詰めていたニコレッタの振る舞いを考えれば、至極当然のものであろう。
彼女自身も主人の、それも特に気が緩んでいたであろう表情をジッと見詰めていたことが失礼だったとすぐに理解したのか、慌てて謝罪の言葉を叫んでは深く頭を下げていた。
「あー!メルクリオ様がニコちゃんを苛めてるー!!いーけないんだー、いけないんだー!」
「・・・苛め、よくない」
下げた頭をその時と同じぐらいの勢いで上げたニコレッタは、今にも泣き出しそうな表情でお盆を抱えて怯えている。
そんな彼女の姿に、彼女の同僚であろう鳥人の二人が口々に文句を告げてきていた。
小柄で赤髪の鳥人の少女は、そのメイド服のような衣装を翻しながら大声でメルクリオへと文句を述べている。
彼女とは逆に、大柄で青髪の鳥人の少女は、ぼそりと呟くような小声で抗議を告げていた。
それは前述の少女と比べれば穏やかな抗議に思えるが、よく見ればその手には掃除用具であろう箒が握られており、いつでもそれを振るえるように構えられているのであった。
「ビオンダにエウラリアか・・・お前達、仕事はどうした?」
「なんだよー!私達は休憩もしちゃ駄目だってか!!」
今、メルクリオに侍っているメイドはニコレッタだけだ。
つまり目の前に現れた二人、ビオンダとエウラリアは本来与えられた仕事を放り出してこの場にいることになる。
その事実に頭を抱えるメルクリオがそれをそっと指摘しても、ビオンダは寧ろ開き直ったように堂々とサボっていると宣言するだけ。
そんな彼女の姿に、メルクリオはそっとずり落ちてしまったメガネを直していた。
「休憩時間は適宜、用意している筈なのだがな・・・エウラリア、お前はどうしたのだ?」
「・・・私はもう、終わらせた」
「そうか、ならばいい」
メルクリオの指摘に居直っては、寧ろ堂々とこの場に居座る姿勢を見せているビオンダに、彼女をどうにかするのを諦めたメルクリオはその場に居座るもう一人、エウラリアへと話題を向ける。
彼女はそんなメルクリオの言葉に、表情一つ崩さずに自らの仕事はもう終わらせてしまったと告げていた。
「あー!!裏切ったなー、エラちゃん!!この裏切り者ー!要領上手ー!!」
「・・・ふふふ、ぶいぶい」
自分と同じようにサボっていると思っていた同僚が、実は既に仕事を終えていたと知ったビオンダは、その裏切りに絶望したと当り散らしている。
しかし語彙力のない彼女は、その罵倒の言葉もうまく捜せずに結果的にエウラリアの事を褒めてしまう。
そんな彼女の姿に誇らしそうな笑顔を見せては、静かに指を二本立てたエウラリアは、その両手を前後に動かしてはビオンダに対して、可愛らしく煽って見せていた。
「ま、いっか。そんな事よりー・・・メルクリオ様ー、さっきはなにを見て笑ってたんです?それですか、その手紙ですか!私にも見せてくださいよー」
「せ、先輩!失礼ですよ、そんな事しちゃ駄目です!!」
振り回す両手を急に収めて、それに興味を失ったように動きを止めたビオンダはどうやら、先ほど珍しく笑顔を見せたメルクリオの事の方が気になったようだ。
彼女はその笑顔の原因が、彼が手にする手紙にあると推測し、それを奪おうとずかずかと彼の執務室へと足を踏み入れる。
そんな彼女の振る舞いに、これまでずっと事態を傍観していたニコレッタも流石に見過ごすことが出来ず、その豊かな胸を揺らしてはビオンダを止めようと腕を伸ばしていた。
「この手紙は、ヴェロニカ・クライネルト嬢直筆のものですが・・・それでも、よろしければどうぞ」
「ひぃ!?あ、あの『屍姫』のですか!?いいですいいですー!!うわぁー!?こっち向けないでくださいー!!」
ニコレッタのどんくさい制止の動きを簡単にいなしながら、メルクリオの手紙を奪おうと手を伸ばしているビオンダに、彼は逆にそれを差し出してはご自由にどうぞと囁いている。
しかし彼からその手紙の差出人の名前を聞いたビオンダは、悲鳴を上げると即座に伸ばしていた腕を引っ込めていた。
屍姫というヴェロニカの異名は、確かに恐ろしいものだろう。
しかし彼女がそれを嫌がったのは、それだけが理由ではないのかもしれない。
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