オッドアイの守り人

小鷹りく

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chapter 32 寝言

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中野を縛りあげた父を見た海静様は、そのままソファに崩れ落ちた。



「海静様っ!!!!」


すぐさま横に寝かせて顔を覗く。血色が悪く、脈を測るが弱い。

呼吸はしているが、黒の能力を使った後だ、何が起こるかわからない。急いで救急車を呼んだ。


そしてコンシェルジュデスクに電話をし、石原に通信が届かない電波妨害が完備されている部屋へ中野を監禁するよう命じ、父と中野を残して、彼を抱きかかえてエレベーターを降りた。

ちょうど到着したばかりの救急車にそのまま乗り込む。


海静様の意識が戻らない!また彼の心に闇を落としてしまったのか…!


彼の心は脆い。脆いが故に虚勢を張る。その虚勢を見誤り、大丈夫だと思い込み訓練を早急に進めてしまった自分が憎い。間違えたのだ。しかし能力の訓練は父からも早くするようにと言われていた。


精神の鍛錬が彼の為になると信じていた。彼に必要なものは強靭な肉体とそれに見合う精神。体が強靭になれば、心は自ずと自信を持ち、強くなる。そして能力の鍛錬で彼が彼自身の気高さを、彼が特別な人であると認識する事で、自己肯定をし、その脆さを補完できると思い込んでいた。


救急車の中で心電図が取られ、脈の弱さから呼吸を補助するために念のため酸素マスクが着けられた。何度救急隊員に声をかけられても、意識が戻らない。


病院に着くと、すぐに脳のCTをとられた。脳に何も障害はないとの事。
体に何もないのは安心だが、彼の精神が不安だ。大丈夫だろうか、焦燥感に駆られる。

酸素濃度も通常で、酸素マスクをつけるほどでもないとの事。
とりあえず点滴で血糖値を上げて様子を見ましょうと言われた。


どうしてこうも彼の事になると冷静で居られなくなるのだろう。
いつもは冷血といわれるほど落ち着いていられるのに。
そして、何故いつも彼を守れないのだろう。
自分の無能さを顔面に叩き付けられた様に無力に感じる。



彼に個室をあてがってもらい、病室には面会謝絶の札をかける。安定して異常はないが脈が低い。
恐らく精神ショックによるトラウマが引き起こしたブラックアウトだろう。


中野は彼に近い人間ではない、だが知らない人間というわけでもない。
それなのに彼の裏切りがそれ程までにショックだったのだろうか。
それほど中野に気を許していただろうか?思い返す程に合点の行かない状況ではある。


彼のトラウマは一つではない。母親の浪費・ネグレクト・父親の不在・友人の不在・金銭的トラウマ・ストーカー・ストーカーになった男からのDV。調査の報告書にこれらはあるが、それ以外にも彼の心にはまだ闇が残るのか…。という事は小学生の記録…。しかし小学生の記録には大きな怪我を一度したということくらいでしかし詳細は不明…。


そこではっとする。海静の左腕には点滴が打ってあり、いつも隠れている左手首が露になっている事に気づいた。

いつもはそこに大き目の腕時計をしており、一緒に飲んでいるときも、一緒に寝泊りしたときも、腕時計はいつも外さずつけていた。

大きな切り傷がその手首に残っている。なんということだ…小学生で自殺を図ったのか…。手首の傷は手の平の根元から手首まで長々と4cmは合った。癒えてこの長さだ、切ったときは相当大きな傷であっただろう。薄くなりかけているがこの長さの傷を小学生で作るのは相当な勇気が必要だったに違いない。


寝ていた海静が呻きだした。


『ヤメロ…、さわ…るな…うっ…そこは…い…やだ…もぅやめて…いやだ…』


染谷の心臓が一気に怒りで沸き立つ。髪の毛が逆立つのが自分でも判る。

またあの夢を見ているのだ。

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