オッドアイの守り人

小鷹りく

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chapter 33 夢

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夢の中にいるようだ…暗闇の中を走っている…

『母さん、早く!』

『ハァッ、ハァッ、もう大丈夫じゃない?ハァッ』

見覚えのある玄関がもう少し走れば見えるはず。


『早くっ!母さん!』

後ろを振り返るが、母さんの顔は暗闇で見えない。さらにその後ろに人影が見えてこないか、目を凝らす。辺りは真っ暗だ。

街灯もポツリポツリしかないが、誰も着いて来ていない。

心臓がバクバクするのは、走って酸素をガンガン運ぶ血の流れのせい、そして追いかけられる恐怖のせい。


怖い。もっと早く走れ!本能が足を前に運ぶ。暗闇からあいつが出て来ませんようにと神様に祈りながら走る。


着いた家に明かりはないが、無遠慮に玄関を叩く。後ろを何度も振り返り、誰もいないか確認しながら、開けてくれと乞う。


明かりはほどなくして点き、鍵は開けられ家に上がると、安堵と疲労で床にしゃがみこんだ。


ここなら安心だ、やっと眠れる。


あいつは此処へは入れない。



————



気づくとベッドの中にいる。


別の温もりが同じ布団の中にある。



…でもそれは母さんじゃない。



俺より大きいその塊はモゾモゾと俺を抱きしめた。



眠気が勝って、触られているのに抵抗できない。


暗闇の中、手がパジャマの中に入る。

やめろよ、俺は眠いんだ…。

身じろぎすると手は離れていった。



そしてしばらくするとまた動き出す。

今度は下肢に手が伸びる


なんだよ、邪魔するなよ、俺は眠いんだって…一晩中走り回って…


そう思って手を退けたが、今度は抵抗虚しく、それは強引にズボンの中に入ってきた


何が起きてるのか理解ができない


身体中を誰かが弄まさぐりだす


背筋が凍る程気味の悪い興奮した荒い息が首元にかかる。


自分でわかるほど煩く鳴り響く心臓の音。恐怖と裏切りに嘆き、苦しむ俺の鼓動。


くそっ!薄汚い手で俺に触るな!


やめろ…!なんで俺が!怖い…!怖い!


ゆっくりと、確実に奥に進み入る指。


怖いのに身体が恐怖で動かない。



この場所でも俺は眠れないのか


ここもダメなのか、安全じゃなかった!


早く逃げなければ!



だが心に反して固まった体はビクともしてくれない



指は諦めた体に抽送を始める


強張る体を容赦なく追い続ける指


痛い!気持ち悪い!

くそっ!やめろっ!やめろ!やめろ!

やめろ!やめろ!やめてくれ!!!!!!



「やめろぉぉぉおおおお!!!!」



叫び起きた悲痛な顔に大粒の涙が伝う。

心臓はまだ恐怖を抱えた拍数を打っていた。

そこは病院のベッドの上。染谷がベッド脇に立ち、心配そうに覗き込んでいる。

「海静様、やっとお目覚めになっ…!」

「染谷っ!!」


染谷を認識した海静は彼の腕を引き寄せ抱きついた。恐怖で身体がガタガタ震えるのを止めて欲しくて…誰かに助けて欲しくて…。


震える海静の身体を慰めるように染谷がぎゅっと抱きしめ返す。優しく、力強く、小さな子を宥めるように…。


怯える体の震えを止められずに涙を流す。よほど怖い夢だったのだろう…腕の中の主人はどれ程抱きしめられても癒せぬ大きな苦しみを内に秘めて生きている。


点滴を打たれている左手首にある古い傷。


儚い夢でさえも苦しいものばかり。酔いつぶれた時も悪夢にうなされていた。胸が苦しくなる。どれ程強く生きようとも、過去は簡単には消えてくれない。

忘れてしまえなどと簡単に口にできる程、生易しい記憶ではない。


そしてまた裏切りを目の前にして、
彼の悲しみを増やしてしまった…。


染谷は自分の浅はかさを感じてこれ程までになく陳謝したい気持ちだった。


「大丈夫です…。海静様、お傍に居ります。私が貴方を守ります。」


染谷は小さな声で、海静にだけ聞こえるように呟いた。染谷も心なしか震える体で、内に秘めた自分の想いを悟られぬよう、怖がらせぬよう抱きしめる。


悪い夢を見たんだ、恐ろしい昔の夢を…

海静は涙を隠さず、染谷にしがみつき静かにしばらく泣いていた
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