オッドアイの守り人

小鷹りく

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chapter 36 コーラルピンク

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「――いさま、――せいさま、…海静様!!」




俺を揺り動かす声が聞こえる…、この落ち着く声は…




「うーん、うん、あぁ、染谷…おかえり…」




寝ぼけ声で返答するとすぐに、




「あぁ!よかった、また昏睡状態かと!!」




起き上がろうとした俺にそのまま染谷が抱きついてきた。




「ご心配しました。また意識が戻らないのかと、心臓に悪いです…。」




顔を見ると目が真っ赤だ。涙が出そうになるのを堪えているようだ。




「ごめん、石原さんに送ってもらった後、気疲れしてしまってそのままソファで寝落ちしたんだ。」




いえ、なんともないなら何よりです、と目尻に溜まってしまった涙を隠して、染谷は俺から離れた。




俺をこんなに心配してくれるのは染谷くらいだ。胸の奥が少しつんとした。何だろう、この嬉しいような、切ないような感情は…。中学の時に付き合った女の子にもこんな気持ちは持てなかった。親兄弟にも同じような情を感じた事はない。何だろうこの染谷だけに感じる感覚。




染谷を見ていると、心なしか少しだけ赤みの橙のフィルターが掛かっている。これは…そうかあのチャートを見ればいいんだ。ソファに寝転んで真正面に見えるチャートを見た。向かい合う色は青色。




「なぁ染谷、青色の感情は何だ?」




「はい?はい、青は心配・悲しみの色です。…海静様、今赤橙色が見えるのですか?」




涙を拭いながら染谷はポットに水を入れようと下を俯いたまま答える。




「うん、お前にその色がかかって見える…。」




「そうですか!!黒の能力を先に発動すると混沌して、他の感情制御は難しいかと思われましたが、私の心配を打ち消そうと無意識に思われているという事は、能力は正常に働くという証ですね!」




おい、感動するところなのか?俺にはよく分からないが、染谷は今度は嬉しいようだ。また涙ぐんでいる。




「どうした、染谷、お前そんな感情的なやつだったか?…きっと俺が心配させすぎているんだな。ごめんな。」




いつも冷静沈着で泰然自若の完璧人間がいきなりジェットコースターの感情起伏になってしまっている気がする。




「いえ、お気遣い頂くには及びません。私は貴方の事になると冷静さを欠く所が出てくるだけの事なのです。貴方の事が心配で堪らないのは、貴方が国の宝となる人だからではない。ましてや貴方が辛い過去を持っているからだけでもありません。私は貴方の守り人、それだけの理由でもありません。貴方の事を尊敬し、そして大切に思っているのです。今回意識を失われて、伝えたい事は伝えたい時に言っておかねばと思いました。」




ちょっといきなり照れるのだが。染谷はこう言う事言うキャラじゃなかったはずだ。
どうしたんだ?路線変更か?顔はいつもの大真面目だ。




染谷が今度は青緑ターコイズ色に見える…これの反対は、えーと、このチャートで言うと桃色コーラルピンクか。




「染谷、桃色は何の感情だ?」




「!―――回答拒否させて頂きます。」




「?!おい、国の宝だぞ!拒否権なんかあるのかよ?」




「ええ、私に対してその感情は制御して頂く必要も御座いませんし危害は加わりませんので!」




「何だよ、全部の感情網羅しておくのはどの道必要な事項だろう!?」




「ええ、そうですがっ!―――…。」




珍しく黙り込んでしまった。感情があまり出ない染谷が喜んだり泣いたり、忙しそうにするのを見ると嬉しい。




「いいよ、もう明日にしよう。明日何もかも全部教えてくれ。それと俺明日会社行くからな。」




「いいえ、今週はもうお休み下さい。会社で倒れられるか心配でなりません。石原には様子を定期的に確認させるだけにしますので。お願いします」




頭を垂れてお願いされては仕方ない。




「分かったよ。じゃぁ明日会社休むから、桃色だけ教えておいてくれ。」




「拒否します。」




何だよ、意固地だな。でもこういう軽口が染谷と叩けるのは楽しい。
俺が気を遣わずに喋れる人間は染谷だけだ。
そして彼に絶対の信頼が置けるのはこの上なく心強い。




俺たちは染谷の作った料理を平らげ、風呂に入り、少しリビングでTVをともに見て、ニュースの話題で少し話してから寝ることにした。何も考えない日も必要だ。




染谷は過保護にも俺がベッドに入るのを見届けると言って部屋に入り、俺が布団に入ると、電気を消しますよ、とドアと電気のスイッチに手をかけた。




そしてこう俺に告げて電気を消した。




「おやすみなさい。




 桃色の感情月並みですが…回答致します。




 ――"愛・好意"です。」




「!!!!」





俺が朝まで悶々とすることになったのは言うまでもない。
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