オッドアイの守り人

小鷹りく

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第二部 オッドアイの行方ー失われた記憶を求めて

赤い痕

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 近くの中華料理店からテイクアウトの袋を持ってホテルへ帰ろうとしたら後ろから声を掛けられた。

「染谷さーん。」

 振り返ると東と石原が歩いてこちらへ向かっていた。

 染「思ったより早かったな。まだ六時過ぎなのに。どうだった、観光は?」

 元気いっぱいの東とは打って変わって手にいっぱい紙袋を抱え疲労感を漂わせ石原はぐったりしていた。

 東「今日はショッピングをしてたんです。デモの人達が多い場所を避けた移動を考えないとダメだったから少し遠回りした所もあるけど、楽しかったです!」

 満面の笑みで東が石原の両腕に掛かる手提げ袋を私に見せる。幸せそうで何よりだ。

 染「楽しかったなら良かった。」

 石「あれ?海静様は?ホテルですか?」

 染「…あぁ、疲れたって…。外に行くのもしんどいと言われるのでテイクアウトを買ったんだ。食事は?もう済ませたのか?」

 東「いえ、今からレストランに行く予定なんです。その前にこの荷物をホテルに置いていこうと思って。」

 染「また新しいレストランかい?」

 石「そうなんですよ、毎回違うレストラン連れていかれてこっちは落ち着かないですよ。」

 石原がぼやく。

 染「いいじゃないか、折角の休暇なんだ。堪能してくるといい。」

 東「はーい。じゃあ帰ったら海静様のお顔覗きに行きますね。病院からの移動は染谷さんに全部任せきりだったし…。」

 染「いや、大丈夫だ!今日は来なくていい!」

 東「えっ?!」

 染「…その、あれだよ、今からゆっくり食事するだろう?遅くなってからでは海静様が疲れてしまうかもしれないから…。」

 ありとあらゆる所から赤い痕をのぞかせている彼を見られるのは気不味い。何より海静様が嫌がる…。

 石「わかりました。じゃぁ明日の朝一緒に朝食取りませんか?ホテルのレストランで。その後また観光で一日会えないんで…。」

 東「——染谷さん…あまり海静様に無理させないで下さいね?怪我完治してないし…。」

 染「…あ、当たり前だ。じゃぁ、明日の朝八時でいいか?」

 東「はい、八時にしましょう。」

 東の鋭い目に少しぎくりとした。彼の傷に触るような事をしなくて良かったと改めて思う。早く傷は治って欲しいが焦らなくとも彼の側にずっと居れるのだ。…。

 歩きながら考えているとまた記憶が美しい肢体を目の裏に写し、溶けそうな口づけが脳裏を掠めて慌ててブンブンと頭を振った。訝しげに二人が私を不思議そうに見る。

 石「染谷様、どうしたんですか?大丈夫ですか。疲れてます?」

 染「…いや、何でもないよ。」

 ——参ったな…石原達と一緒にいる時でさえこんなに彼の事ばかり頭に浮かべて、まるで初めてキスを知った中学生のようだ。

 少し恥ずかしくなった私は少しの間二人と目を合わせられなかった。



 *





「ただ今戻りました。」

「お帰り。」

 その声に心臓がほっと暖かくなる。

 彼はソファに座り、膝を組んでテレビを眺めていた。私へ視線を動かす事なくテレビを観ながら話す。

「デモ、すげぇ事になってるな。」

「ええ、想像以上です。先程石原達にも会ったのですが買い物するにも迂回して移動が必要らしく大変だったそうですよ。」

「そっか、東さん達の観光話聞きたかったかったなぁ。できねーけど。」

 そう言うと、胸元の襟をグイッと引っ張って私が付けたキスマークを見せて恨めしそうな顔をした。

「石原達も会いたがっていたんですが、その…今その赤い痕を見せるのは流石に気が引けたので断りました。
 貴方の悩ましい姿を見ると堪らず我を忘れてしまって…申し訳ありません。石原達にも勘繰られて反省しました。」

「っ…もう良いよ、俺もいじめ過ぎた。ごめん…。
 
 俺だって…その、気持ち…良かったのは事実、だし…な。」

 恥ずかしそうに顔を背け窓の外を見ながら耳を赤くする彼にまた愛しさが込み上げる。

「許して下さるんですか?」

 袋をテーブルに置いてそっと顔に手を伸ばして顎を捉えると、俯く彼の顔を少し上向かせて口づけを落とした。押し当てたその唇の柔らかさにまた甘い刺激を求めて無意識に彼の上唇を舌でなぞる。

 ビクンッと彼の肩が動くと堪えきれずに唇に舌を差し入れ彼の口内を貪り出そうとすると、手の平で胸を押され抵抗を受けた。

「許すって…っぁ…ッ…ちょっ…ちょっ…待て…待てって!もうっ!キリがないだろ!」

 腕を突っ張り私の胸を押しやって制止され私は名残惜しく唇を解放する。

「嫌ですか…?」

「そうじゃなくて、もう何時間もキス…とか…色々しててお腹空いてるし…その…今は食べようぜ。」

 そう言いながら買ってきたテイクアウトの袋からケースを取り出し開ける。良い匂いが広がって自分の空腹感も刺激された。

「おっ、美味しそうー!やったね、ビーフンだ。焼き餃子もあるんだな。珍しい。」

「本当は水餃子しか置いていないらしいんですけど、無理言って焼いたのを用意してもらいました。東がいつもこの店で食べるので顔馴染みになり餃子を焼いてくれと頼んだら快諾してくれて、私達が行くときはいつも焼き餃子にしてくれるんですよ。普通の餃子より時間が掛かるんですけど、東に感謝ですね。」

「だから遅かったのか。」

 パクッと焼き餃子を口に頬張ると嬉しそうにまた箸を伸ばした。

「…美味しい…。」

「…お腹減ってたんですね、すいません、気付かずに何時間も延々と喘がせてしまって。」

 ブフォっと食べていたものを口からこぼして彼は咳き込んだ。

「…ゴホッ…ゥグ…お…前…ゴホゴホッ、そう言う事、サラッと口に出すなよ、恥ずかしいだろっ。」

 そう言って手渡したボトルの水で口の中のものを流し込むと彼は赤い顔をした。

「ここには二人きりです。キスして互いに愛撫して何度も昇りつめた仲では無いですか。このキスマークだって本音を言えば見せびらかしたい。貴方にこんな事が出来るのは私だけなのだと、そう言っている様なもので…ッンッ…。」

「うわぁーあーあー!分かった、わかったよ!分かったから、もうその話はストップ!いつまで経っても食べらんないだろ。」

 そう言って彼は私の口を手で塞いだ。もう一つ餃子を口に運ぼうとする彼の手を止めて、私はもう一度軽くキスをしてから隣に座って一緒に食べることにした。

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