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第十二話
しおりを挟む殴られた体より心が痛い事にずっと前から気付いていた。だけど知らない振りをした。体の痛みが消えれば心の傷だって無かった事にできる。彼を慰めるものは居ない。だからユキトは泣かずに痛みが消えるのをじっと待つしかなかったのだ。だが今は痛みを忘れさせてくれる人が存在する事を知っている。
「永雪さん……」
森の中に積もっていた雪が溶けかけているのを横目にすると焦燥感に襲われる。
「逢えるよね……」
独り言を呟きながら体を引き摺り斜面を登る。今日は口ごたえの所為でいつもより随分と酷くやられ、痛みと運動と緊張に変な汗が出た。上へ上がればまだ積雪は厚くそれを見たユキトは期待する、きっとまた逢える。
開けた頂上に抜けると昨日自分がつけた足跡を認識するがそれ以外誰も新しく足を踏み入れた形跡は見えない事に安堵した。山桃の大木まで走るとユキトは息を切らしながら名前を呼ぶ。
「永雪さん……永雪さんっ!」
その名を呼んでも返事はない、誰も出てこない。
「永雪さーん……永雪さーん!!」
声は雪に吸収されて響かない。痛みが体を襲い、その痛みより胸が痛くなってユキトは自分の胸倉をギュッと掴んだ。
「あれは夢だったのか、僕の願望だったんだろうか……」
しゃがみ込んで、嘆きの涙をぽろぽろ雪の上に落とすと温かい涙で雪の上に小さな穴が開く。
すると辺りの空気が一気に冷えて風が起き、その風に集められる様に粉雪が空に舞うと永雪がユキトの後ろに姿を現した。
気配に気付いてユキトは振り向く。
「———永雪さん!」
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