雪の記憶 ー僕を救った妖精ー

第十三話

「ユキト…どうした、昨日治したばかりなのに何故また怪我を？」

　永雪は哀しそうな目をしてユキトの顔や体の足跡を見て呟いた。

「…大丈夫、僕大丈夫だから。ただ永雪さんに会いたかったんだ。だからまた来ちゃった」

　永雪は暫く黙って顔の傷を覆って笑うユキトを見ていたが、目を伏せて両手を一面の雪に向かって翳し、また粉雪をあちらこちらから浮かびあがらせ手の平に小さな粉雪の山を作った。前回よりも雪の量が多い。

「食え」

「大丈夫だよ。治してもらいたくて来たんじゃない」

「食え」

　ユキトは永雪の手から差し出された粉雪の山を躊躇いながら、しかし貰うと痛みが消える薬と内心喜んで残さず全部食べた。すぐにドロドロとした涙とは違う粘度の高い水がまた目から流れる。

　ユキトは体から痛みが引いたのを感じるとくすくすと笑った。やっぱり現実だ、そう思うと堪らなく特別に感じて、堪らなく嬉しかった。まるで無敵になった様な心地に恍惚とする。

「もう痛くない」

「——……その為にした」

　永雪はどこか怒っている様だった。昨日のように話そうかと一緒に腰掛ける様子も無い。

「永雪さん……どうしたの？」

　ユキトは不安になって聞いた。永雪が昨日より少しより薄く見える。

「——……お主、言霊を穢したな」

「えっ……」

　永雪の視線はユキトが落とした涙の跡に注がれている。ユキトは言霊を穢したと言われて自分が発した言葉を思い出した。

「アレは僕の事を虐めるヤツが先に……」

「水を穢してはならん」

　永雪の言葉はユキトを遮った。

「お前の水を穢してはならん」

　ユキトは何のことだか解らずに首を傾げた。

　言葉じゃなくて水。解せない様子のユキトに永雪はゆっくりと言葉を紡いだ。