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第十四話
しおりを挟む「話しただろう、人間の体の殆どは水で出来ていると……そして水は記憶を持つのだ」
「水が記憶を持つ?」
意味が分からずにユキトは戸惑った。
「そこへ座れ」
「うん……」
ユキトを木の根に座らせると永雪は白い野原の真ん中まで歩み、振り向いた。雪がちらほらと永雪の上に舞い落ち始め、ユキトは白い絨毯に佇む美しい精霊に心を奪われた。
永雪は降る雪の一片を優しく手の平で受けるとその結晶を見つめて眉根を寄せた。雪野原の真ん中に立っていながらその距離を感じさせる事なく、永雪の言葉は隣にいる時と変わらず耳に集まる。
「———……薬や塵芥、人間の言霊は簡単に水を穢す。一度穢れた水はその穢れを記憶していて長らく美しい結晶には成れん。この手の中の結晶も寒さで凍らされてはいるが潰れた結晶だ。ワシの体の一部には出来ん。
お前が放った言葉やお前を殴った奴等が放った言葉はお前の体に穢れた水として溜まり、お前の魂を穢していくだろう。澱んだ水は外に出さねばずっとお前の体を蝕む。そしていつしかそのままお前の血となり肉となろう。穢れた水で己を保つ事ほど哀しい事はない。だから痛んだ水をお前の体から出したのだ」
真意を汲み取れずユキトはじっと聞いていた。
「……水は太古より記憶を持ちこの大地と空を巡っておる。雨は土に沁みこみ、根から吸われた水は幹を通り栄養を運びこの木や草を育てる。葉や木の実が落ち、朽ちて養分となりまた木に戻っていく。
川に流れた水は海へと流れ、再び空へ昇ると雲となり、風に吹かれて山に当たりまた雨や雪となって木に降り注ぐ。流転してその穢れや汚れを削ぎ落としながらまた美しい結晶となれる水に戻るのだ。
この大地が生まれし時からそれは繰り返されてきた。だが、言霊で穢れた水の浄化には数年あれば良かったものが、ここ十数年その穢れが取れておらぬものばかりが降るようになったのだ」
「どうして?」
「穢れた言葉を紡ぐ人間が後を立たず、またその数も多過ぎるからだろう……。そして神の域を超えた薬を浴びて水が元に戻れぬ。もうそんな水ばかり、そんな雪ばかりが降る」
今にも涙が溢れそうな悲哀の表情で永雪は空を仰いだ。
「彼奴にはもう会えんのかもしれんな……」
自分の息が白く濁るのに永雪の息は濁らない。その澄み切った存在の哀しみは寒さとなってユキトの体に突き刺さるようだった。
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