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第十五話
しおりを挟む悲しみを感じ取るユキトを見て永雪は続ける。
「ワシの体は水の結晶でできておる、ほら……」
そう言って永雪は自分の左の着物の裾を右手で捲ってちぎった。すると千切れた着物の端がふわりと砕けてバラバラの粉雪になり地面に落ちる。そして永雪が手の平を雪に翳すと落ちていった粉雪がまた空に浮かび、千切った場所に付着してまた着物へとその姿を変えた。
息を飲んでその様子を見たユキトはやっと永雪の言わんとする事を理解した。
「永雪さんの体を作る水がもう降らないんだね……?」
「そうだ」
ユキトは愕然とした。永雪の体を作るものがもう降らないのに、その体の一部を自分が食べたのだと思うと恐ろしくなった。
「ユキト……美しい言霊の力を信じよ」
やっと理解し衝撃を受けるユキトに永雪は希望を説く。
「薬で壊れた水はもう戻らんかもしれんが、言霊で穢れた水は美しい言霊で復活させる事が出来る。だがそれは人にしかできん……ワシには出来んのだ」
永雪は人差し指を空に指し、またいくつも小さな結晶を浮かばせるとそれらで大きな結晶体を空に創り出したが、出来た美しい塊は途中で力尽きたようにまた散り散りになって地面へと落ちた。
「言霊は強い力を持っておる。人の心を殺す事も出来る恐ろしい代物よ。だが人々はそれを忘れておる。だから無闇に悪意を含んだ言霊を使う。そして神を超える薬を生み出し、その薬で二度と結晶を作れぬ程までに水の髄を破壊している。この数十年の間に我が身を保つのがここまで困難になるとは思わなんだ……」
そう言うと永雪は自分の手の平を曇った空に翳した。
「人がここまでとは……こんな年端のいかぬ子供でさえ……」
今にも氷の涙を流しそうに永雪は苦しそうな顔をした。
「今日はもう帰れ、今からまた雪が降る」
「でも……」
ユキトの言葉など聞こえぬと言う様に永雪の姿は粉雪となって崩れ落ち、小さな風の渦がそれを平らにしてしまうとユキトは夜の山でまた一人になった。
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