雪の記憶 ー僕を救った妖精ー

小鷹りく

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第十六話

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(どうしよう、もう絶対にあの雪を食べちゃダメだ。僕が永雪さんを殺してしまう)

 静けさに覆われた町中をユキトは真っ青な顔で走った。

 喜んで食べていた自分を思い出すと吐き気さえした。治して貰えると嬉しそうに、何も知らずに馬鹿みたいだったと後悔した。

 次の日からユキトは山に登らなくなった。どれ程虐められても、どれ程殴られても我慢した。治して貰えなくても構わない、ただ会いたいとそう願いもしたが、永雪に心配を掛けて悲しませる事を思いだすと足は山へは向かわなかった。


 一方永雪はユキトが怪我を負って山を登って気はしないかと毎日山道の入口を見て過ごした。今度怪我を治して結晶を使えば自分の姿を具現化するのは難しくなって再び彼に逢えるのがいつになるかは分からなくなる。孤独に過ごさねばならなくなる事もわかっていたが、ユキトの零した涙が土に滲みた時、永雪は望みを持った。愛しい者に逢える一縷の望みを……。





 —————




 ユキトが黙って殴られるようになったので、同級生達はさらに増長してユキトを虐めた。だがユキトは彼らの言葉を聞くまいといつも耳を塞いで殴られた。汚い言葉を耳にすれば自分の心が穢れてしまう。永雪が嫌がる事はしない、そう心に決めたユキトは前より強くなった気がした。

 ある夕方いつも殴られている公園に隣のクラスの少年が通り掛かった。

 見た事のある同級生達が繁みで何かを蹴っている。明らかに囲んで一点に暴言を浴びせて蠢く彼等に少年は走り寄った。そして何が行われているかを見ると大きな声で叫んだ。

「誰か!早く来て!男の子が殴られてるよ!」

 他に誰も居ない公園だったが子供達は大声を聞いてあっという間にその場に一人を残して逃げた。倒れたまま、体をダンゴムシの様に丸めて頭を手で守り土埃塗れで固まっているユキトは腕の隙間から少年を覗いた。

「君、隣のクラスの……」

「水野だよ。大丈夫かい、古谷君」

「僕の名前……知って……」

 そう言いかけるとユキトはそのまま気を失った。


 *


「……はい、すいません、お手数お掛けしました。ええ、大丈夫です、はい」

 母親の声を聞いて起きたユキトは目を開けて見覚えのない天井をぼうっと見た。横にはユキトを救った水野が本を読んで居る。

「君……」

「起きたかい。ちょっと待ってて」

 水野が母親を呼んだ。

「古谷君のお母さん、目が覚めたみたいです。じゃぁ俺はこれで」

 そう言って荷物の中に本をさっさとしまい病室を去っていった。

「ありがとうね、えっと……何て言ってたかしらあの子……」

 そう言いながら母親がユキトの顔を覗く。

「アンタ、苛められてるなら何で言わないのよ」

 起きて掛ける言葉がそれか、とユキトは変わらず冷たい母親の言葉に心を寒くして布団を肩まで引っ張った。



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