雪の記憶 ー僕を救った妖精ー

小鷹りく

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第二十一話

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 雪に水分が落ちる音がして空気が凍る。

 少年が突き出したナイフはユキトの柔らかい腹に深く刺さり刃先は見えず、体から柄だけが出て赤い血がそれを伝いぼたぼたと落ちていた。白い雪に美しい赤の斑点が出来ていく。

 それを見て一歩ずつ後ずさる少年は笑った。


「はは。やった……やってやったぞ……」


「ユキト!!」


 永雪はその場で崩れそうになるユキトの体を支え、すぐ様ナイフの刺さった箇所を右手のひらで押さえた。永雪の手がユキトの血を吸い赤く染まっていく、と同時に永雪はナイフと肉の間を結晶で塞いだ。水野が起き上がり少年の前に立ち塞がるとユキトが声を絞り出す。

「……っは……ダ、メだょ、マモル……」

「喋るな」

 永雪は傷口を手で押さえながらユキトを見つめた。ナイフは大きくないが傷ついた細胞が焼けつく様な痛みを生み出してユキトを苦しめている。結晶に傷を治す力はない。傷ついた水を結晶と入れ替える事はできても開いた肉は元には戻せない。永雪は自分の結晶をユキトの傷口から入れ込み皮膚の形状を元あった状態に保つのが精一杯だった。

「ユキト、ユキト!救急車を呼ばないと」

「焦るな、ワシが圧迫して止血をする。山道の入口に民家がある筈だ、走って助けを呼べ」

「はいっ!」

 水野は永雪に言われて少年を睨みながら今登ってきた道を泣いて走り下りた。

「ははっ……ザマァ見ろ。俺に逆らうからこうなるんだよ」

 自分のした事の怖ろしさに気づいているのかいないのか、少年はガタガタ震えていた。

「人を傷つけて満足か、憎悪に囚われし哀れな子供よ……」

「……あぁ、そいつが死んだって俺は未成年だから罪には問われない。親が強請られたんだ、腹が立った……。それにそいつは俺をずっと馬鹿にして無視して……全部そいつが悪い——」

 ユキトは目からドロドロの涙を何度も流した。熱を持ち外へ出ようとする血の水分が永雪によって繰り返し結晶と入れ替えられていた。永雪が空いている片手を少年に向けると、その足元から氷が薄く這い上がり、少年の膝ほどまでに分厚く張り付くと少年の足は動かせなくなった。

 少年はそのまま足を取られて倒れ、不可思議な事が起きているのが把握できずに腰を抜かした。永雪は彼を尻目に力を注ぐ。気を抜けば血が溢れ出るのだ。

「———永雪…さん、無事でよかっ…た…」

「喋るなと言っただろう、馬鹿者が。ワシの体は結晶で出来ておるのだから刃物などでは傷つけられんと言うのに。

 ———お前と逃げておったお子はワシの結界を越えれなんだようじゃ、すまんかった……」


 そう言って永雪は流れるユキトの血を受け止め、自分の結晶を流し込む作業を続ける。少しずつ永雪の身体が透けていった———。


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