雪の記憶 ー僕を救った妖精ー

小鷹りく

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第二十四話

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「ユキト……ユキト……」

 頭の中で何百年という時間を体験したように感じたユキトは自分の名前を忘れそうだった。聞き覚えのある名前だな、そう思って重たい目蓋を持ち上げると、ユキトは夢を見ていたのだと気付いた。覗き込むその人が自分の母親なのだと認識して自然と声が出る。

「……母さん……僕……」

「っ……良かった、雪人……今先生を呼んで来る」

 母親に名前を呼ばれていたのだと知ってユキトは少し驚いた。心配そうに名前を呼んだ事など無かったのにと、違和感を感じる。

 酸素マスクが曇り自分の吐いた息の温かさが鼻に返るとユキトはまだ自分が生きているのだと再認識した。目を動かして水野を探したが姿は見当たらない。体を動かそうとすると腹が痛み、ユキトはまた目を瞑りまどろんだ。




 ―――――





『ユキト……ユキト……』

 また名前を呼ばれてユキトは目を開けたが今度は病室ではなかった。

 永雪が一人山桃の木の下に立っている。ユキトは夢を見ているのだと悟ったが永雪の姿を見て心を和ませた。永雪は哀しそうでも苦しそうでもなくどこか切望するように瞳に不思議な光を宿して話した。

『……ユキト、お前に一つ頼みごとがある』

『永雪さん……』

『頼まれてくれるか』

『……はい』

 ユキトは真っ直ぐに永雪を見た。永雪は振り絞るように言葉を紡ぐ。

『山桃に愛の言霊を捧げて欲しい』

『愛の言霊……?』

 愛が何を指すのかユキトには解らない。愛がどういうもので、何を呟くものなのだろう、不安に感じてユキトは首を傾げる。永雪はユキトの躊躇いを判っていながらそれでもユキトに求めた。

『お前が分かった時でいい、それが何十年先でも構わない。もう何百年も待ったのだ、何年掛かろうと同じ事。

 ———やっと揃ったのだ、お前の血はあいつの血だった……。お前の流した血はあいつを補完した。

 この木の下でお前を待っている。この世界を変えてくれ、ユキト。お前にはそれが出来るから……』
 
 どんどん薄くなっていく永雪の姿にユキトは手を伸ばした。永雪もその手に触れようと手を翳すがそれは透き通り、触れる事無く桜の花びらが散るように粉雪が舞うと、永雪は消えた———。



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