雪の記憶 ー僕を救った妖精ー

小鷹りく

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第二十三話

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 土の中へ沈んだユキトに永雪の笑顔が見える。見た事のない微笑み、見た事のない愛しそうな瞳、楽しそうな横顔、それはこの世にはもう居ない清直から見た永雪でユキトは清直の記憶を見ていた。

 永雪は自分の水で土に埋まった清直の遺体の水分をどこへも流れてしまわぬ様に守っていた。地中の清直の水を包みながら水膜となった永雪が話しかける。

「————火の神に聞いた。人間が私の存在と同じになるには象っていた同量の結晶が必要らしい。そして言霊を受ければお前は再び生まれ変われるそうだ。お前の水は穢れを知らない。足りない分を補えば良い……」

「————お前の肉と骨と手首を補う為には後三百年は掛かりそうだ……、待ち遠しい……」

 そうして何度も永雪に話しかけられた記憶を辿った後、暫くすると視界は真っ暗な中をどこかへ吸い上げられるように引っ張られ、長いストローの様な空洞の中を移動し、その後は体が浮く程軽くなったかと思えば空に浮かんでいた。風に吹かれ浮遊感を楽しんだと思えば今度は稲妻の中で恐怖を感じ、そして今度は急激に体が重くなり落ちていく。そうして落ちて行く先を見れば永雪が両手の平を広げて待っていた。

 ―――それは永雪の一部となった水の記憶だった。

 笑顔で迎える永雪に抱かれるように付着するとそのまま体は溶けて永雪と一体となる。永雪の体は雪の結晶で出来ているから冷たい筈なのに、孤独感の全てを根こそぎ取り去られてまるで抱きしめられているかの様に温かい。愛される安心感と言うのはきっとこう言う事なのだろうと、ユキトは経験した事のない感情に想いを馳せた。

 永雪の一部である事はこの上ない幸福感だったが、暫くすると永雪は新しい結晶を切り離しそして地中深くに埋めた。埋められると元居た場所に戻ってきた様に感じ、そして何かが補完された気がした。水になった永雪がまた清直の水を抱きしめるとそっと囁く。

「清直、清直、もうすぐお前の体の全部が戻る、もう直ぐだ」

 嬉しそうに体を包む永雪の声はとても優しかった。抱き竦められてその体が嬉しさに震える。愛しさに溢れる細胞が抱きしめ返したいとそう叫んでいる様だった。

 少しずつ欠損している部分が復活していき、何百年と言う時を一瞬で感じ、もう後少しで体が満たされる―――そう感じていた矢先また同じ様に永雪に包み込まれたが、永雪は悲しみに嘆いていた。

「清直……結晶が降らん……人の穢れが、水の汚れが邪魔をしてお前の元となる結晶を集められん」

 永雪は何年も何年も泣いていた————。

 そして声が聞こえた、今度はユキトを呼ぶ声だった。


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