学園都市型超弩級宇宙戦闘艦『つくば』

佐野信人

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強襲

10-4「貴方を殺すことに僕は躊躇しなくて済みそうだ」

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「どうして貴方はロスト・カルチャーを、第四世代人類を、フォース・チャイルドを狙うんです!? 僕らが生きていても彼らが生きていても、貴方には関係ないじゃないですか!」

 叫びながらも、正確に敵機を狙ってクロウはビームライフルを撃つ。だが、赤い機体には当たらない。

 この赤い機体は、形こそクロウの知るロボットアニメの初代作に出てくる敵役ロボットのその形であるが、その機体各所に方向転換と姿勢制御用のスラスターを備えていた。僚機にも同じ装備を施していればこうも簡単に単機になることはなかっただろうにとクロウは思う。

「関係大有りだよ! 俺はお前みたいな奴とこうやって遊ぶためにここにいるんだ! 死ね!!」

 クロウの問いに返って来た答えは、なんとも自己中心的な発言だった。

「バカな、そんなバカな事のために、戦争を始めたのですか!?」

「ああん? バカもかかしもあるかよ、元々お前ら連邦政府が火星に住んでた連中を木星にまで追い出したのが原因じゃねえかよ! 俺が何を目的としようが関係ねえ! 利害の一致って奴だろうが!」

 言いながら、彼も赤い機体のマシンガンを放つが、クロウにもそれは当たらなかった。マシンガンの弾がその一撃で切れるが、彼は即座に替え弾倉に交換した。

 彼は最初から一人でもこの襲撃をするつもりだったのだとクロウは悟った。この赤い機体には目に見えにくいだけで多数の弾倉や内部兵装が仕込まれているに違いない。

「どうやら、貴方を殺すことに僕は躊躇しなくて済みそうだ」

「言ってろバカが。吠え面にしてやるよ、死に顔でな!!」

 二機はらせんを描きながら時に衝突し、時に離れを繰り返した。どこをどう飛んだなどと言いう事はクロウにもこの赤い機体を駆るパイロットにも分かってはいない。

 だが、唐突にそれに終わりが来た。クロウはコックピットのコンソールに表示された警告表示とアラートによってそれを察知していた。月の重力へと機体が取り込まれたのだ。赤い機体も流石にクロウから距離を取っていた。

 二機の進行方向に巨大な壁が迫っていた。月面である。

 クロウは直角にその地面に対して軌道を描くと月面へとデックスの足を着地させた。見れば離れた位置に赤い機体も着地している。

 月面の白い大地にその燃えるような赤が映えていた。その赤い『ヒトツメ』の頭部には『原作』通りに一本角のようなアンテナがそそり立っていた。赤いモノアイがクロウに殺意を伴って光を放っている。

 クロウは瞬時にデックスの移動プリセットを月面へのそれと切り替える。同時に『つくば』との通信状態を確認する。光学通信は遮断されていた。『つくば』を含む『つくば型』は恐らくこの月面の地平線で遮られた何処かにいるのだろう。

「よくもまあ粘るもんだ。殺す前に名前を聞いておいてやるよ、お前名前は?」

 その右手のマニュピュレータからマシンガンを放り出すと、赤い機体の男はクロウへ問う。どうやらマシンガンの弾は撃ち尽くしたようである。

「クロウ・ヒガシ。教えてくれなくてもいいですけど、貴方のお名前も教えてくれますか?」

 クロウもデックスのビームライフルを投げ捨てた。クロウのビームライフルは弾切れという訳では無かったが、相手に合わせた格好だ。代わりにシールドの中からビームサーベルをしっかりと右のマニュピュレータに握らせた。瞬間、ビームサーベルの柄に存在するコネクターとデックスの手のひらの中のコネクターが自動で接続された。このビームサーベルにはデックスのエネルギーが直接供給されるのである。

「いいぜぇ、教えてやるよ、冥途の土産って奴だ。俺はヨエル・マーサロって言うんだ。しっかり頭に刻んでから死ね」

 ヨエルの駆る赤い『ヒトツメ』も、右手にヒートアックスを構えていた。

 次の瞬間クロウとヨエルは互いのバーニアを全開に、月面の土を巻き上げて激しく激突した。ビームサーベルの『荷電粒子』で形成された刃と、ヒートアックスの白熱する刃が激しく激突する。

 よく、ビームサーベル同士やヒートアックスで鍔迫り合いになりえるのか、という談議がクロウの時代のSFマニアの間で起こったが、今この瞬間このヨエルとクロウの間では鍔迫り合いが成立していた。

 便宜上、クロウは自身のデックスに装備されているそれを『ビームサーベル』と呼ぶが、ルピナスはそれを開発するに当たり別の名称を付けていた。『荷電粒子磁場制御切断棒かでんりゅうしじばせいぎょせつだんぼう』である。

 通常、ビームというのは重金属の粒子を亜光速で放出する兵器である。従って、放出し続ければ切断兵器にもなりえる。

 ただし、質量を伴って飛ぶビームは動力さえあれば無限に照射できるレーザーとはその性質が全く異なる。金属の粒子を触媒として照射したビームは永遠に何かに激突するまで進み続けるのだ。それはビームとしての熱量、速度を減衰するまでである。しかも消費した粒子は戻る事はない。

 だが、どうしてもこのビームサーベルなる兵器を再現したかったルピナスはよく似たものを独自の解釈で作り出した。

 それがこの『荷電粒子磁場制御切断棒』である。そもそもこれはビームを打ち出しているわけではないため、ビーム兵器ではない。荷電粒子(電子、陽子、重イオンなど)を、粒子加速器によって亜光速まで加速して発射する兵器である。

 空間の電場と磁場の変化によって形成された電磁波を用いて、その刃の形状を一定に保っている。射出されているのは荷電粒子のため、反応炉を有するデックスはこの刃を一定に保つことが出来た。

 ヨエルの構えるヒートアックスもその実は荷電粒子兵器であった。荷電粒子の形成刃はその実アックスの切っ先から根元に向かって流れていた。つまり、こちらは荷電粒子チェーンソーとでも呼べる構造である。

 その互いの荷電粒子兵器から発生させる磁場によって、今この二機はチャンバラのような鍔迫り合いを成立させていたのだ。

 クロウとヨエルはそのまま数回鍔ぜり合う。剣道の試合のように相手を押し、時に引き込みである。数回それを繰り返したところでクロウはヨエルの機体をデックスの脚部で蹴り飛ばした。

「さっき仲間の女も蹴っていたな! 足癖の悪い野郎だ!」

「うるさいトニアは蹴りたくて蹴った訳じゃ無い! くっそ、固い」

 ヨエルの機体を蹴ったクロウは確信する。このヨエルの機体は固い。コックピットを潰すつもりで蹴ったが、外装が少し凹んだだけでフレームにまでダメージを与えられていない。デックスはタイラーとルピナスによって、敵ビーム攻撃及び荷電粒子攻撃からの防御を想定した特殊装甲をその全身に纏っている。

 だが、その開発段階において、同じ『人型兵器』との格闘は最低限しか想定されていない。

 お互いの陣営に取ってお互いの『人型兵器』が衝突するという事態はあまりにも時期尚早だったのだ。対するヨエルのアヴェンジャーは物理的な攻撃にもビーム攻撃及び荷電粒子攻撃にも高い耐性を持つようである。

 つまり、このアヴェンジャーに対してデックスは物理的な質量を伴った攻撃に対する抵抗が低い。

『機動力で勝てているからこの膠着は維持できている、けど!』

 心の中でクロウは思う。仲間たちを振り払ったのは正解だった。ユキやミーチャであればクロウと同じようにヨエルに対して攻防を繰り広げられていただろう。だが、それ以外のメンバーがこのヨエルと当たった場合、果たして何分生き残る事ができただろうか、と。まだ、自分たちは練度が足りていない。

 それも当然と言えば当然であった。共和国側の戦力が地球圏に対して宣戦布告を行ったのは1年も前の事だ。つまり、それ以前にヨエル達はこの『人型兵器』の訓練を十二分に積んでいたはずである。今、このヨエルにクロウ自身が対抗できているのはいくつも重なった幸運の結果でしかない。

「このアヴェンジャーは固いだろう? 他の20倍以上コストのかかった高級機だ」

「お仲間の機体も同じ性能だったら僕はとっくにやられてこのデックスは鹵獲されていたよ」

 ここで互いのパイロットは、互いの機体の名前を知った。

「へぇ、デックスって言うのかその機体。いい機体だぜ」

「あんたのアヴェンジャーもね」

 突進しようとするヨエルに対して、クロウは頭部バルカンでけん制する。ヨエルはとっさに距離を取って躱した。

「ふんっ、クロウ。お前はなかなかに強い。俺の仲間になるなら特別に殺さないでいてやってもいいぞ」

「嫌だ。ヨエル、君を僕は生理的に受け付けない」

「じゃあ死ね!」

 言いながらヨエルはそのアヴェンジャーの腰に隠した手りゅう弾を、クロウのデックスへと投げる。クロウは投げられるそれが何ものであるのかを確認する前に頭部バルカンで撃ち抜くと同時に横へと避けていた。

「言うと思ったぜ」

「僕もね」

 ここに来てクロウは目の前のヨエルが駆るアヴェンジャーの、モニター越しの姿からヨエルの意思とでも言うべきものを感じ取っていた。これがSFの世界で言うところの第六感なのかどうなのかはクロウには分からない。だが、この瞬間においてクロウにはありありとそのヨエルの表情すら読み取れる気さえした。目を研ぎ澄ませばその容姿さえ見えてきそうである。それはヨエルも同じであった。

「惜しいな、でもタイムオーバーだ。お前のお仲間が地平線の向こうからわんさか押し寄せて来ていやがる」

 そんな危機的状況であるにも関わらず、ヨエルはそのこと自体になんの感慨も持っていない事はクロウには瞬時に察知できた。ヨエルはクロウと遊ぶ時間が無くなった事に対して残念だと語っているのだ。

「バカクロウ! ようやく見つけた!!」

 上空からユキの声が聞こえた。同時にヨエルに対して複数のビームの射撃が走る。航空隊が全機クロウの後ろに集まってきていたのだ。

「ゲームセットだ! 投降しろ!」

 ライフルを構えながらミーチャがヨエルへと宣言した。

「へえ、本当にそう思うかよ。Extra(エクストラ)システム起動」

 ヨエルがそう言った瞬間。クロウは全身の毛穴という毛穴が総毛立った。今まで目の前で殺意を放っていたヨエルが、別次元の狂気を発生させたのである。

「まさか、そんな危険なシステムを再現したのか! ヨエル!!」
 言いながら、クロウはヨエルを、盾を構えてブーストを全開にした状態で体当たりし、吹っ飛ばした。

 そうやって距離を離さなければ、仲間が危険だと瞬時に判断しての行動だった。クロウが言う危険なシステムとは特殊な戦闘用のオペレーティングシステムとそれを実行するためのハードウェアを指す。クロウの予想が正しければ、それはこの場にいる全員の脅威になりえるシステムだった。

 そしてその特殊な設定はクロウが好むロボットアニメの外伝も外伝、とあるマイナーなゲーム内にしか存在しない。つまり、航空隊の全メンバーがその『危険性を瞬時に理解できない』のだ。

 そのクロウの危険信号は的中していた。ヨエルの操るアヴェンジャーがそのセンサー部と関節の隙間、そしてその装甲の隙間からさえも視覚出来るほどの殺意を噴き出したのだ。それはまるで赤く発光する靄のようにアヴェンジャーを包み込んだ。

「まずい! 全員今すぐ逃げろ!!」

「? 何言っているんすか? クロウ先輩?」

 しまった。と、クロウは思った。ヴィンツが不用意にクロウのすぐ後ろまで接近して来てしまっていたのだ。クロウが敵機を吹っ飛ばしたがゆえの油断であった。

「バカめ、緩んだな!」

 瞬間である、ヴィンツ機の胸部をヨエルのアヴェンジャーの右マニュピュレータが貫いていた。

 ヴィンツ機が爆散する。

 胸部から頭部を含んだマニュピュレータと、脚部を分離させ、コックピットブロックを射出させてである。無論音は伝わらないが、各機のセンサーが同時にその事実を捉えていた。

 アヴェンジャーのマニュピュレータにより圧迫された球状であるはずのコックピットブロックは、今、大きくひしゃげ、まるで空気が抜けかけたサッカーボールのように月の引力に引かれて月の地表に激突した。

「このっ!!」

 事態を瞬時に察知したのはクロウ、ユキ、ミーチャである。クロウは真横まで来ていたヨエルのアヴェンジャーをデックスの腰の回転を利用し、回し蹴りで蹴り飛ばすと同時に頭部バルカン砲をありったけ発射した。

「ケルッコ! ヴィンツを回収して!!」

 続いて叫びながらユキ、ミーチャが吹っ飛ばされたアヴェンジャーに対してビームライフルを発射する。ユキとミーチャがビームライフルを撃つと同時にケルッコは慌ててヴィンツが『乗っていたはず』のコックピットブロックを回収する。

「かかか、作戦成功だな」

 それをクロウに吹っ飛ばされ、クロウの頭部バルカンと、ユキ、ミーチャが発射したビームを全て回避して見せてヨエルはアヴェンジャーを止めた。ヴィンツ機の分離した上半身をその左のマニュピュレータに抱えてである。

「まさか、脱出機構をここまで再現しているとはな。俺たちがどうしてこの『見た目』でお前らを襲ったかわかるか? お前らがこんな風に『ここぞ』って時に油断するって分かっていたからさ」

 瞬間、ヨエルのアヴェンジャーから大量のスモークが発生する。

「いけない、下がって。このスモークは単なるスモークであるはずが無い!」

 言いながらクロウはスモークに機体が触れないように下がる。各機もそれに続いた。

「かかか、クロウ。いい勘だぜますます気に入った。次に会うときは満足するまで遊ぼうぜっ! じゃあなー こいつは貰っていくぜ、お前らだって俺の部下を散々殺したんだ『オアイコ』だろう? ひゃはっはっはっはっは!!」

 そう言い残して、ヨエルのアヴェンジャーはクロウたちの前から姿を消した。跡形も残さずに、ヴィンツのデックスの上半身を持ち去って。

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 クロウはこの戦闘における『負け』を悟ったのだった。
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