現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン

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 デビルスカラップとスカイフィッシュ(マグロの超上位互換)の刺身を用意し、焼き貝柱用にデビルスカラップを一口大にカット、それから大量のブラックカウを焼肉用にカットして、準備を整えた俺達の前に現れた異変。

 それは、魔界に戻ったはずの童子と竜族の長の再登場であった。

「ほぉ~。主はともかく、カミュは儂を抜きにこんな楽しい事をやろうとしているのか?カミュとは先日の主のご自宅での食事で、今まで以上に誼を通じたと思っておったのだが、こんな形で裏切られるとはな・・・」

 童子は割と真面目に怒っている。

 そしてカミュは、

「良いではないですか。たまたま主様のお食事の時間になったので、お手伝いついでにご相伴にあずかるだけです。それが何か?」

 カミュらしくない開き直り方をしている。

 そんな姿を見ながら、俺は焼き貝柱を焦げない様に返しながら、タレに絡めたブラックカウの肉を網に乗せていた。

 だが二人の不毛な言い合いはまだ続いている。

 そんな二人の姿を横目に、程よく火が通って来た焼き貝柱に、新たに持参したバターを乗せてから醤油を回しかけた。

 その香りは、バターが加わった事により前回の焼きよりも凶悪な香りで、その香りを嗅いでしまった二人は口論を止めて、焼き貝柱を注視している。

 さらにタレを絡めた肉の焼ける香りが広がり始めると、『ズゴゴゴゴゴゴ』と地鳴りの様な音が闘技場内に響き渡った。

 その音の正体は竜族の長のお腹の鳴る音で、当の本人は『お恥ずかしい』と言いながら顔を背けてはいたが、目線はバッチリBBQコンロに固定されている。

 それを見た童子が、「ご相伴にあずかるにしても、その体の大きさじゃな・・・」と言うと、竜族の長は『大丈夫です』と言ってから光に包まれて、光が収まった後には赤い髪の身長150cmほどの小柄な超絶美女が立っていた。

 この人達、一緒に食べるつもりだ!

 まぁ現れた時から、覚悟はしてたんだけどな・・・。

 見た感じ20人前はあるのだが、はたして足りるのだろうか?

 そんな不安を抱えながら、飛び入り参加のメンバーを入れた四名での食事が始まった。

「美味しい・・・」

「うまっ!」

『もぐもぐもぐもぐ・・・』

 三者三様の楽しみ方をされている姿を横目に、俺も食べ始めた。

 やはりダンジョン産の食材は美味しい!

 地上の物の[超上位互換]的な感じで、その食材に求めている全ての欲求を満たしてくれる。

 たとえばブラックカウ。

 牛肉の風味と、絶対的な柔らかさ、迸る肉汁に、脂身の甘さ、こってりが欲しいけどあっさり食べられる、そして食べている事を実感出来る食感。

 相反する物を兼ね揃えてる、究極の矛盾食材なのだが、それが美味さを引き立てている。

 そんな食材をふんだんに使ったBBQと刺身盛りは、物凄い速度で消えていき、あとに残ったのはもう少し食べたいオーラを出している、三人の物悲しい表情だけだった。

 至福の時間が終わってしまった寂寞感が、10階層の扉の中の空間を漂っていた・・・。

 その寂寞感を破るかの様に、まだ食べ足りないオーラを出した童子が俺に話し掛けようとした時、俺の身体に僅かな衝撃と共に激しい痛みが襲いかかって来た。

「カミュ、主を守れ!竜族の長よ、手を貸してくれ!ダンジョンを全て封鎖しろ!儂は主に手を掛けた奴を追う!」

 激痛に支配され徐々に薄れゆく意識の中で、童子が矢継ぎ早に指示を出している声が聞こえて来る。

 そして激しく痛む胸の辺りに目をやると、右の胸から刃物の切っ先が生えていた。

「カミュ・・・、悪いけどこれを抜いて貰えないかな。すぐに回復薬を飲むから・・・」

 俺は徐々に薄れゆく意識を必死に保ちながら、収納から上級回復薬を取り出し、カミュに俺の胸に生えている刃物を抜く様に頼んだ。

「・・・主様・・・、失礼いたします・・・」

 カミュは声を絞り出す様に俺に伝えると、俺の胸に生えている刃物を激しい痛みと共に抜き取った。

 抜かれた直後、震える手で回復薬の栓を抜き、半分口に流し込んでから残りを右胸にかける。

 上級回復薬の効果は凄まじく、服用し傷にかけた瞬間、痛みは無くなり傷も塞がった。

 それと同時に意識もハッキリして来る。

 すると俺の視野は広がり、体から魔力を放出しながら怒りに満ちた表情で、何か呪文の様な物を唱えている竜族の長の姿が見えた。

「主様、ご気分は如何でしょうか?我々が傍に居ながら、主様にお怪我を負わせる様な事になり、申し訳ございません。主様に手をかけたならず者を童子が追っております」

 カミュがそこまで言うと、竜族の長がカミュに『終わりました』と一言だけ伝えて来た。

「勝手ながら、主様に手をかけた者を逃がさぬ様に、ダンジョンと地上を結んでいるゲートを封鎖させていただきました。主様は怒られるかもしれませんが、これは主様だけの問題ではありません。主様に危害を加える事即ち、ダンジョンを含めた魔界を支配されている、魔王様と我々魔王軍への宣戦布告の様な物です」

 怒りに震えながらカミュは一度言葉を切り、何度か深呼吸をしてから話を続けた。

「ならば我々は、人族にダンジョンの恩恵を与える事を止めさせていただきます。そして全ての人族に我々の意志を明確に伝え、魔王軍に挑んだ事がどれほど愚かな事であったかを知らしめなければなりません」

 ・・・俺が誰かの攻撃を受けてしまった事が引き金となり、とてつもない事態へと発展してしまった様だ。

「カミュ、怒ってくれるのは嬉しいし、止めてくれとも言わない。やり過ぎないでねとだけ言っておくね。・・・ところで封鎖したダンジョンはこのダンジョンだけなの?」

 俺は普段と変わらない口調でカミュに問い掛けた。

『封鎖したダンジョンは、現在この世界に出現している[全ての]ダンジョンになります。ここ以外のダンジョンは封鎖と共に、中に居た人族を全て地上に強制転移させましたが、このダンジョン内には宣戦布告をして来た輩が残っておりますので、ダンジョン内に居た全ての人族を残したまま封鎖をさせていただきました。どうかご理解くださいます様・・・』

 カミュに変わって竜族の長が、俺の質問に答えてくれた。

 俺を襲った奴を逃がさない様にする為に、カミュや童子そして竜族の長が判断しての事だろう。

 感謝はしても怒る事ではない。

「それに関しては何も問題無いよ。俺だって自分を襲って来た奴を許すつもりは無いから・・・」

 俺がそう言い終わると、俺の目の前の空間が裂け、その空間から黒の豪華なドレスに身を包んだ絶世の美女が現れた。


ーーーーーーーーーー

 その頃地上では大混乱が起きていた。

 地球上で日本にのみ出現していたダンジョンに、全てのダンジョンに異変が起きていた。

 その異変はダンジョンに繋がっているゲートが消滅し、ダンジョンに入る事が出来なくなってしまったのだ。

 探索者協会は、急ぎ事態の確認をしたのだが、その結果分かった事は、全てのダンジョンに入る事が出来なくなってしまったという、絶望的な事だった。

 先の大戦後、ダンジョン資源を活用して復興し、現在はダンジョン資源に依存している国家の運営と、国民の生活を揺るがすほどの事態が発生してしまったのだ。

 探索者協会も国家も情報収集と、対応に追われる事になるのだが、この事態を引き起こしたのは、欲に駆られたたった一人の協会関係者だという事はまだ知らなかった。



 
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